【100年前のスペイン風邪】「魔の手」まず小学生 県都から地方へ、せき切り拡散
小学校でのインフルエンザ流行を伝える、1918年10月22日付の記事(鹿児島朝日新聞)
新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)の収束が見通せない中、史上最悪のインフルエンザと言われ世界で多くの死者を出した100年前のスペイン風邪に注目が集まる。鹿児島県でも1918(大正7)年秋から21年春までに3度の流行が襲来し、1万人以上の命を奪った。南日本新聞の前身である鹿児島の2紙をめくり、今日の感染症対策の教訓となった厄災「忘れられたパンデミック(世界的大流行)」を追った。
「悪魔」「殺人風邪」―。後にそう恐れられるスペイン風邪が鹿児島に広がり始めたのは、1918(大正7)年10月中旬だった。鹿児島市の師範学校付属小学校(現・鹿児島大学付属小)で起きた集団感染を、新聞が伝える。
「付属小学生百名 インフルエンザに犯さる」(18年10月22日、鹿児島朝日新聞)
記事では市内の各小学校ではすでに蔓延(まんえん)し、欠席者が多いことも報じている。インフルエンザは当時、「流行性感冒」とも呼ばれた。感冒とはいわゆる風邪のことだ。
大正時代、鹿児島は交通革命を迎えた。14年に南薩鉄道、翌15年には大隅鉄道が開通。その後も鉄道網の整備は進み、人と物の移動は急速に活発化した。第一次世界大戦のさなか、好景気に沸いた。
同月24日、付属小が臨時休業する。感染は都市から地方へと、せきを切ったように広がり始めていた。
「感冒各学校に蔓延 加治木の2小学校も休業した」(同29日、鹿児島新聞)
数日間の紙面を追うだけでも谷山、加治木、隈之城、枕崎、川辺、吉松、知覧…などに拡散した。運動会や修学旅行は次々と取りやめに。11月2日、鹿児島市の学校は「悉(ことごと)く休校全滅」した。
ウイルスはしたたかに、大人の世界にも入り込んだ。
「悪性感冒 専売支女工を襲う」(11月2日、鹿児島朝日)
2200人余りが働く鹿児島専売支局のたばこ工場で、300人が集団感染した。だがそれにとどまらない。翌3日には500人に増えた。もう手の施しようがない状況だった。
欠勤者の増加は、社会の歯車を狂わせる。電車は減便し、郵便局でも配達が滞った。必要な麦の作付けができない農家や、イワシ漁に出られない漁師もいた。「全滅」した警察派出所もあり、新兵の入営日には、欠席が相次いだ。
そしてスペイン風邪は街のにぎわいも奪い去った。
「天文館通りでも誠にガランとして淋しいものだ」(同20日、鹿児島朝日)
劇場は閑散となり、夜の町から人影が消えた。料理屋は打撃を受け、芸者250人のうち100人が床に伏せてしまったという。
それでも、余病がなければ命に別条ないといわれたころはまだ、余裕があったのだろう。
風向きは、にわかに変わる。
「中等校に5名 感冒で死亡」(同7日、鹿児島新聞)
11月8日、医学博士の談話が掲載された。「3、4日熱発し快方に向かうと極(ごく)軽く思っていたが、病症悪性なるが分かった。肺炎を起こして死亡する者多い」。ただ、県内各地でピークを迎えた感染の連鎖は、誰も止めることはできなかった。
「流感の死者約4千 罹病(りびょう)者は30万人に上る 予想外に猛威を極めたり」(12月18日、鹿児島新聞)
重大事件の解決に人生をかけた在職20余年の「老刑事吉富氏」。島津義弘没後300年の記念祭に力を尽くそうとしていた「山口翁」。5人の子を残して出産直後に亡くなった母親…。2カ月で数千の県民の命が連れ去られた。
本土では感染が下火に向かう12月、「魔の手」は南の島々に伸びつつあった。県庁に電報が届く。
住用村に流感患者1700名発生す医師無く困難甚(はなは)だし至急警察医の派遣を乞(こ)う(同4日、鹿児島新聞)
大島警察署からの悲痛な叫びだった。
◆新聞記事の引用箇所は読みやすさを考慮し、一部表記を変え、ルビをつけました。
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