那覇空港を出発した東京行きの日本航空(JAL)904便が4日正午ごろ、左エンジンを損傷、那覇空港に引き返し緊急着陸した。同機には沖縄タイムス社デジタル部の黒島美奈子部長が搭乗していた。二つあるエンジンのうち一つでの航行を余儀なくされた同機。揺れや降下で機内に動揺が広がったという。黒島部長の脳裏には「死」がよぎったという。不安に包まれた緊迫の30分をルポした。
4日午前11半ごろに那覇空港を離陸してから20分ほどたったころだった。
いきなり、ドン!という大音量と、機体の左側から大きな衝撃を感じた。直後、これまで経験したことのない振動も感じた。
私は、座っていた後部右側通路の座席から、座席五つ分隔てた左側通路の窓を思わず見た。視線の先には、左側窓際に座る男性が、窓の外を覗き込む姿があった。
何かがあった。鳥が機体にぶつかった? 雷が落ちた? これまで聞きかじった情報の断片が頭に浮かんでは消える。しばらくすると、機内アナウンスが鳴った。
ただいま、大きく揺れました。いま原因を調べています。
えっ? 「大きく揺れましたが、安心してください」じゃないの? いつもと違うアナウンスで、私はようやく、トラブルが起こったことを理解した。
ここまで、およそ5分くらいだろうか。ふと通路上のモニターを見ると、さっきまで12000メートルだった高度が、5000メートルまで下がっている。初めて死が頭をよぎった。
再び、アナウンスの声。「機長によりますと、左側のエンジンが損傷したようです。機長の判断で那覇空港に戻ることになりました」
もう一度モニターをみた。数十秒ごとに切り替わる画面に今度は、飛行機の進路図が示されていた。那覇空港から北西部の海上を飛んでいることが分かる。飛行機の頭が、海上を左旋回している。祈るような気持ちで、モニターの高度と、窓の外の景色を確認した。
機内はガタガタとなる振動音や、アナウンスがなる他は、静かだ。遠くから赤ちゃんの泣き声が聞こえるくらい。天井から、酸素マスクが降りてきている座席もあった。
しばらくして後方から、機内スタッフらしき男性2人が、急ぎ足でやってきた。左側通路席から窓の外を確認しているみたいだ。
家族にラインしておこう。上空では届かないだろうけど、万が一のために。もしかしたら、この便の異常がすでにニュースになっているかもしれない。「いま、飛行機がエンジントラブルで、那覇に引き返しています。たぶん大丈夫だから心配しないでね」
非常時に残す言葉じゃないが、そんな文しか思い付かなかった。
そんな時、三度目のアナウンスがなった。「機長です。左側エンジンの損傷が分かりました。この機は、ただいま右側エンジンだけで飛行しています。私たちは、こうしたときのために日頃から十分な訓練を受けています。乗客のみなさまは、どうか座席に座ったままでお願いします」
冷静な声で、語りかけるようなアナウンスに、少し安心できた。この間、十数分。乗客に適宜情報が与えられ、安心を与えている。機内で声をあげるような客は一人もいなかった。
幾度目かのアナウンスが告げた。「当機はまもなく那覇空港に着陸します」
右側の窓から、ビルが見えてきた。那覇を離陸してたった数十分のことなのに、懐かしい故郷の土地を久しぶりに見たような気持ちになった。機体の振動が少しずつ強まり、バーン。まるで滑走路に機体が叩きつけられるような音がした後、機体は止まった。
拍手が起きるかも知れないと思ったが、機内は静まったまま。そのくらい危機迫った状況だった。私は、隣の席の人と小さく拍手した。 おわり

















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