情報公開制度は、衰退する日本の民主政治のなかで、主権者がかろうじて保持しえているきわめて貴重な権力濫用に対抗するための道具である。そう筆者は常日ごろ考えている。よって、一ミリでも制度を使いやすくするために、気づいた点を改善すべく非力ながら取り組んでいるつもりである。
神奈川県は国や全国の自治体に先駆けて情報公開制度を導入したことで知られるが、大きな疑問を感じるできごとがあった。県情報公開条例にもとづいて神奈川県警本部長(大賀眞一本部長)あてに情報公開請求をしたところ、存否を回答しないという処分の決定通知が届いた。疑問を覚えたのはその書式である。文書番号がないのだ。
筆者はこれまで多数の情報公開請求をさまざまな自治体や省庁、独立行政法人に対して行ってきたが、処分の決定通知書に番号がないというのは記憶にない。さっそく県警本部に電話で問い合わせると、「番号はつけていません」と木で鼻をくくったような回答が返ってきた。そこで、県の情報公開制度を所管する情報公開広報広聴課(加藤寛課長)に問い合わせた。職員の説明はこうだ。
「それぞれの実施機関(情報公開の宛先となる各機関)が文書管理規程にもとづいて運用している。(処分通知書にどの実施機関が文書番号を付して、どの実施機関が付していないのかは)情報公開広報広聴課としては正確に把握していない。文書番号をつけていないところが散見されるのは承知している。県警本部長の決定通知に文書番号が付されていないことも承知している」
同じ神奈川県の同じ条例に基づく情報公開制度でありながら、文書番号をつけたりつけなかったりしているというのだ。県警本部長のほかにも番号をつけていない実施機関はあるのだろうか。有無を調べて教えてほしいと広報広聴課の職員に説明を求めた。取材としての質問であると付け加えた。
これに対する職員の回答に筆者は驚いた。答える必要がないという趣旨のことをひたすら繰り返し、いっこうに調べようとしないのだ。その上で文書管理規程上も問題はないとの説明を繰り返した。
神奈川県文書管理規程21条はこう定めている、
第21条 施行する電子情報等及び文書には、次に定めるところにより、起案文書ごとに記号及び番号を付けなければならない。
(1) 条例、規則、告示及び訓令の記号は、その区分により、「神奈川県条例」、「神奈川県規則」、「神奈川県告示」及び「神奈川県訓令」とし、それらの番号は、神奈川県公報発行規則(昭和29年神奈川県規則第55号)第6条第4項に規定する法令番号簿の番号とするものとする。
(2) 訓の記号は、「訓」、「財訓」及び「財訓再」とし、その番号は、「訓」及び「財訓再」にあっては文書課に備える訓番号簿の番号とし、「財訓」にあっては総務局財政部財政課に備える訓番号簿の番号とするものとする。
(3) 指令の記号は、「神奈川県指令」の次に第5号に掲げる記号を加えたものとする。
(4) 知事又は副知事あての親展文書及び収受に基づかないで知事又は副知事の職名を用いて発する親展文書の記号及び番号は、政策局知事室長が定める記号及び番号とするものとする。
(5) 前各号に定めるもののほか、記号は、文書課長が定める課、課内室又は所の略字とし、その番号は、担当者が文書課長の定めるところにより行政文書管理システムに必要な事項を入力することにより付するものとする。ただし、これにより難い場合は、施行番号簿(第8号様式)により付すことができる。
(6) 第1号に掲げる番号は、毎年1月1日をもって更新するものとする。
(7) 第2号から第5号までに掲げる番号は、毎年4月1日をもって更新するものとする。
処分決定通知書は、異議申し立てや裁判手続きにもつながる重要な文書だ。それに文書番号をつけていないのは規程上も誤りではないのだろうか。仮に誤りでないとしても、ただちに改善すべきではないのか。筆者はそう思うのだが、頑なに実態調査と説明を拒んだ県の態度は奇妙というほかない。