
地上では新型コロナウイルス感染が拡大しているが、宇宙からは新たな医療実験に挑戦する宇宙飛行士の野口聡一氏が元気なメッセージを送ってきてくれた。民間宇宙船「クルードラゴン」にアメリカの宇宙飛行士3人と共に乗り込み、フロリダ州のケネディ宇宙センターから飛び立ち、国際宇宙ステーション(ISS)に無事、ドッキングを果たした。これから半年、宇宙での生活が待っている。
今回の宇宙船を開発したのは、2011年に「スペースシャトル」計画を断念したアメリカ航空宇宙局(NASA)ではなく、ベンチャー起業家のイーロン・マスク氏である。かつては宇宙開発で世界をリードしてきたNASAだが、財政難から国家プロジェクトを放棄し、民間への委託を余儀なくされてしまった。
そのため、アメリカはISSに人や物資を送るためにはロシアの宇宙船を利用せざるを得なくなった。アメリカの弱みに付け込んだロシアは毎回、使用料8600万ドルを請求。これにはアメリカのプライドは相当傷ついたようだ。
そこに名乗りを上げたのがクレジット決済サービスペイパルで儲けた1億ドルを投入し、2002年に「スペースX」を立ち上げ、宇宙ビジネスへの参入を目指していたマスク氏である。当初は打ち上げ失敗の連続であった。しかし、失敗をバネに、とうとうNASAを唸らせる成功を勝ち取ったのである。
NASAが宇宙開発を担っていた頃は、宇宙船は一回限りの使用しかできなかった。それでは打ち上げを重ねるごとに膨大な経費がかかるため、スペースXでは「もったいない」と「リサイクル」の発想で、何回でも使用できる宇宙船を開発したのである。
このアイディアを宣伝することで、マスク氏は新たに19億ドルの資金調達にも成功。何しろ、ツイッターのフォロワー数は4000万人というマスク氏は強気である。これまでの成功をベースに富裕層を対象にした宇宙観光旅行という新ビジネスを打ち上げる準備に余念がない。
そんな順風満帆のマスク氏であるが、今回のケネディ宇宙センターでの打ち上げ会場には入ることが叶わなかった。というのは、直前に発熱したので、念のためPCR検査を受けたところ、2度も陽性反応だったことから、同センターへの入場を断られたからだ。しかし、自分の健康に自信があったようで、再度、検査をしてみると、今度は2度とも陰性であった。
マスク氏曰く「PCR検査は当てにならない。新型コロナウイルスに関してもウソがはびこっている。騙されないようにしたい」。そういえば、マスク氏がマスクをしている姿は見たことがない。
要は、政府のガイドラインや一般常識に囚われていたのでは新規ビジネスには成功できないとの反骨精神がマスク氏の取り柄なのだ。「PCR検査ではなく、自分の感覚を研ぎ澄ませ」とばかり、わが道を行く姿勢を堅持している。大いに参考にすべきではないだろうか。
「ワクチン開発、成功間近」の裏で
とはいえ、世界各国では新型コロナウイルスの感染者が5500万人を突破し、死者も130万人を超えたため、治療薬や予防用ワクチンへの期待は高まる一方だ。もちろん、こうした数字には裏があり、危機感を煽ることで、治療薬やワクチンの開発を加速させようとの製薬業界の思惑も隠されているとの指摘もある。マスク氏が「騙されるな」と警告を発しているのも、そのためであろう。