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 面積は日本一狭く人口密度は市では日本一の埼玉県蕨市。狭い面積のほとんどが住宅地だけに耕地面積はわずか1ヘクタールしかない。そんな蕨産の作物を使って市内の飲食店が腕を振るった逸品料理をメニューに加えた「ベジフェス」が12日まで開かれている。

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 小宮康男さん(85)の畑を訪ねた。畑はマンションや戸建て住宅に囲まれた市街地の中に広がっていた。約2千平方メートルで育てられている野菜の緑、土の色。ここだけ空気感が違う。

 収穫するのは長ネギ、キャベツ、ハクサイ、ホウレンソウなど。市内の農家が集まって週1回直売所を開いていて、そこで販売するか市内の学校給食に卸す。

 「でもね、この程度の土地では農業で暮らしていけないよ。地方では蕨全部の農地を一戸で持っているのが普通だから」

 都市部で広い土地を所有すると税金は高い。自分の分だけ野菜を作る農家も多く、直売所で売るような人は4人しかいないという。小宮さんは「道楽だよ。道楽。自分が好きで野菜を育てているんだ」と笑う。

 こうした蕨産の野菜を地産地消の逸品にと料理人が引き受けたのが今回の「ベジフェス」だ。

 「天ぷら 東月」(中央1丁目)はネギとゴボウを天ぷらにして夜の単品メニュー(各220円)に加えた。おろしダイコンも蕨産だ。主人の川添崇史さん(38)は都内の一流店で修行して今年3月に店を構えた。蕨育ちだけに地場の野菜にも思い入れがある。「供給が継続的にできれば使っていきたい」と話す。

 他にも「日本料理くりはら」(塚越1丁目)が彩り野菜の和風バーニャカウダ、和食店の「中仙道山あつ」(中央5丁目)が里芋コロッケ、「囲炉裏と蒸し鍋 和み」(中央1丁目)が蕨野菜たっぷりのとろとろ湯豆腐鍋など、特別メニューを提供している。

 主催の蕨商工会議所では「継続して仕入れができれば、蕨野菜を使った料理を続けていきたいという店もある。でも農家も少なく高齢なので、こうした期間限定でないと難しいかもしれない」としている。(堤恭太)