研究目的で持ち去られたアイヌの遺骨。返還する先が決まっていない遺骨が、いま北海道の白老町にある民族共生象徴空間=ウポポイに移されています。
明治から昭和にかけ、人類学などの研究目的で、道内各地の墓地から持ち出されたアイヌの遺骨。中にはむき出しの状態で保管されるなど、尊厳をないがしろにする扱いを受けました。
平取アイヌ遺骨を考える会の木村二三夫共同代表は、先祖の遺骨を取り戻す活動を続けています。
木村さん「非人道的な行為だよね。普通は重罪だよ。それがまだ野放しにされている」
全国12の大学におよそ1600体が保管されているアイヌの遺骨。北海道大学のキャンパスの片隅にある納骨堂には、いまも940体以上の遺骨が眠っています。
奪われた遺骨と先住権を取り戻そうと、道内のアイヌの団体は2012年ごろから相次いで裁判を起こし、和解が成立した地域にはこれまでおよそ100体が返還されました。
一方、国はガイドラインを作り身元がわかった遺骨に加え、身元が判明していなくても掘り出された地域がわかっている遺骨は、10月25日までに申請を受け付け、審査の上、返還。申請がない遺骨は11月5日から白老町のウポポイへの集約を進めています。
日本政府は、「尊厳ある慰霊」に配慮すると説明する一方、木村さんは、先祖が一方的に強制移住させられた歴史から、この状況に異を唱えます。
木村さん「上貫気別(平取町)に移住させられて、そして発掘によって北大に移住させられてだよ、骨になってからも移住させられて。そして白老に集約されると3度目の強制移住になる。こんな馬鹿げたことがあるのかなと。何でアイヌだけが」
アイヌには集落全体で死者の霊を慰め、遺体を故郷の土に還す風習があります。ウポポイに移すことは強制移住と同じであり、掘り出された場所が分かるものは申請のあるなしにかかわらず、その地域に返すべきだと、木村さんは主張します。
遺骨返還問題の研究者は残された課題を指摘します。
苫小牧駒澤大学・植木哲也教授「集約した遺骨は研究するのが学問の進歩、科学の進歩のために価値があることだという人もいる。報告書の内容では研究にストップがかけられていない。逆に推奨することもできる」
遺骨がウポポイに集められた後も国は引き続き返還の申請を受け付けます。一方でこうした遺骨について、アイヌ関係者や学者などで構成される「検討委員会」の話し合いで了承されれば、研究材料とされる余地が残っているのです。
木村さん「子どもがおもちゃを欲しがっているようなものだよ、いまの学者はいろんな屁理屈をつけたり、ごまかしを入れてまだ研究しようとしているだけだから」
「尊厳ある慰霊」とは何か。その意味が問い直されています。
《ポイント①》
「先住権」とは、先住民が住んでいた土地の所有権や、領域の自然資源の入手権、遺骨の返還を求める権利などを指します。しかし、4月に成立した「アイヌ新法」では、アイヌが「先住民族」と明記された一方、「先住権」は認められていません。遺骨は国に申請すれば返還されるようになってきましたが、アイヌの人たちが裁判に訴えるのは、遺骨の返還だけではなく、この「先住権」を勝ち取りたいからということなんです。
《ポイント②》
近年になって遺骨のDNAを取り出して、人類の起源を探ろうという研究が盛んになっています。研究を続けたい人たちにとっては、慰霊施設にある遺骨を活用できるなら…という思いがあるようです。
《ポイント③》
研究目的で収集されたアイヌの遺骨は記録がなかったり、誰のものかわからなかったり、管理もずさんでした。今回、遺骨を移送した北海道大学は管理体制について「アイヌの尊厳に対する適切な配慮を欠いていた」とのコメントを出しましたが、発掘そのものについては「法的に問題があるとする記録が見つかっていない」として、謝罪はしていません。
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