「自分は他の人と同じような政治的意見を持っていると思っている」人ほど、日本人の平均値からズレている。この事実は、もしかしたら、陰謀論についても、自分を「普通」と思う人ほど、突飛な説を受け入れてしまう傾向につながっているのではないか…。筆者はこの点について、「リスト実験」(List Experiment)と呼ばれる特殊な方法を使って陰謀論の受容程度についてより深く検証を試みた。
リスト実験は、主に、人々の「本音」を探る際に用いられる。たとえば、先日のアメリカ大統領選挙で指摘された「隠れトランプ派」はまさにこの好例である。「隠れトランプ派」とは、本当はトランプ氏を支持しているにもかかわらず、世論調査で答える際には「トランプ支持を表明すると、自分も差別主義者のように思われるかもしれない」と社会的な体裁を気にして、本心と異なる回答をする層を指す*3。
こうした回答者の心理傾向によって世論調査の結果に偏りが生じることは「社会的期待迎合バイアス(Social Desirability Bias)」として既によく知られている(遠藤、2012;善教、2015)。とくに、意見表明がためらわれるようなセンシティブな話題を質問をすると、一部の回答者は「本音」を隠して、社会的に望ましい方の、いわば「ウソ」の回答をしてしまうことがよくある。
リスト実験は、こうして隠されてしまう「本音」を引き出すために開発された統計的な推論方法である。筆者の問題関心である『人々は、陰謀論を「本音」ではどう考えているか』を明らかにする上では、極めて有用な手法だといえる。
リスト実験の方法を簡単に説明しておこう。リスト実験では、まず、被験者をランダムに複数の実験群(グループ)に分けたうえで、実験群ごとに内容が異なる意見リストを提示する。リストの中に「ターゲット」となる意見を加える実験群(処置群)と、それを加えない実験群(統制群)を用意しておくのだ。
そのうえで、被験者には、各リストの中から賛成(もしくは反対)の意見の「数」を回答してもらう。つまり、回答者は、個別の意見ごとに賛否を答える必要はなく、単に「賛成(反対)した意見の数」を答えるだけでよいので、より本音に近い回答を引き出すことができる。そして、もし統制群と処置群の回答数の平均値に(統計的有意な)「差」があるとすれば、それは、「ターゲット」となる意見が選択されたことによって生じたと解釈できる*4。