宝盗りディッター
トラウゴット、宝取りディッターを研究する
前作へのいいね、ブクマ、コメントをありがとうございます!
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「宝盗りディッターで相応しい主を決めるのはどうでしょう、アナスタージウス王子!」
キラキラしたルーフェンの顔が忌々しい。
原作を知っていても、不思議だ。
何故、対話で解決しようとしてたのに、ディッターをやる流れになったのだろうか・・・?
今日はシュミルを採寸するとあって、寮の中は大変華やかで浮かれた空気だった。
図書館へ魔術具を迎えに行き、警戒しながらも寮に戻り、採寸や魔法陣の確認などを済ませ、図書館へ戻しに行く最中。
ダンケルフェルガー率いる小中領地の集団が現れたのは、原作通りの流れだった。
「わたくしはシュバルツとヴァイスを、ひいては、貴族院の図書館を守ります!相手が大領地の領主候補生だとしても、図書館からシュバルツとヴァイスを奪おうとする者に容赦はいたしません!」
ローゼマインの啖呵により、大領地と敵対する事が決まってしまった。色々と言いたいことはあるがぐっと堪え、我々騎士見習いも覚悟を決める。
ルーフェンに先導され騎士見習いの専門棟へ移動する。そしてルールを確認した後、ローゼマインの「わたくしが参加するのは当然です!」発言で皆がぶっ飛び、無常にも作戦会議は始まった。
・・・分かってる、参加しちゃうのは知ってた。
でも、護衛騎士の立場から言うと、大人しくしててほしかったよなぁ!!!
ローゼマインが中心となって作戦は決まった。騎士見習いは不安気な顔色を隠せないまま、配置につく。
ディッターは原作と同じくローゼマインの騎獣に宝となる魔獣を放り込み、ダンケルフェルガーには奇襲を仕掛けるも失敗。
敵の連携に感心し、エーレンフェストの護りの拙さを露呈させる展開となった。
最終的にユーディットが投げ込んだ魔石をダンケルフェルガーの魔獣が取り込み、巨大化してパニックに陥ったところをコルネリウスと私の最大攻撃で倒し勝利という形に終わった。
原作と違い私が足を引っ張る事は無かったが、エーレンフェストの騎士見習いを鍛える切っ掛けとなるイベントであった事は間違いない。
この日の夜はローゼマインと、ディッターに参加した騎士見習いによる反省会の場が設けられた。単純にダンケルフェルガーに勝てたことを喜ぶ者もいたが、難しく顰められた我々の顔を見てその勢いも段々と萎んでいく。
「今回ダンケルフェルガーに勝てたのは、ローゼマイン様の奇策があってのことです。わたくし達の実力ではありません」
外側から冷静に戦況を見ていたレオノーラの言葉に、騎士見習いの多くが軽く目を見張った。ローゼマインやヴィルフリートの護衛騎士はその言葉に頷く。
「私も同感だ。宝を守るより攻勢に回ろうとする者が多すぎた。本来なら宝を奪われて負けていただろう」
レオノーレに同意したコルネリウスは苦い顔で「訓練の仕方を根本から変えなくてはならないように思う」と続ける。
ここから先は騎士見習いだけで話し合ってほしいと、ローゼマインはレオノーレを連れて部屋に戻る事になった。後ろに続こうとするリヒャルダを私は呼び止める。
「リヒャルダ、少し話がしたいので後で時間を取ってもらえるか?」
「えぇ、構いませんよ。後でまた顔を出します」
その言葉に頷き、再び議論の場に参加する。レオノーレがいなくなった事で、話はコルネリウスとアレクシスを中心に進められていた。
「ディッターの後でローゼマイン様も褒めてらしたが、ダンケルフェルガーは連携の訓練を日頃から積んでいたようにみえた。奇襲に動揺しても、上級生の言葉ですぐに立て直せていただろう?」
「それに、有事の際は全員がまず宝であるレスティラウト様を守ろうとしていた。宝取りディッターの最大の要を理解して動いている」
騎士見習いそれぞれの視点からの今日の反省点や今後に活かしたい動きなどを話し合い、最終的に騎士見習いの訓練法をいくつか変えて欲しいと領地の騎士団に上申書を認めて提出しようというところまで決まった。
「上申書の作成は其方に任せた」
キラキラしたイイ笑顔でコルネリウスは私の肩に手を置く。
「何を言っている?騎士団に提出するのだから、筆頭殿の仕事であろう」
「私に文書作成は無理だ」
いや、キッパリ言うな!
私とコルネリウスが上申書の押し付けあいをしていると、扉がノックされリヒャルダが顔を出した。
「反省会は終わりましたか?」
「あぁ、先ほど終わった。皆ご苦労だったな、解散しよう」
コルネリウスが解散を告げると口々に挨拶をして皆が出て行った。残ったのはローゼマインの護衛騎士であるコルネリウス、アンゲリカ、ユーディット、そして私だ。
「リヒャルダと話があるのでしょう?わたくし達も出ますね」
「いや、皆にも聞いてもらいたいので残ってもらえるか?」
部屋の外に出ようとしたユーディットを引き止めて、話はローゼマインの事だからと相談の体勢に持っていく。
「姫様の話とは?今日のディッターについてですか」
「いや、そうではなく・・・。レスティラウト様との会話を聞いて思いついた事だ」
なんの事かと首を傾げる皆に、今のローゼマインの状態を話す。
「これは推測だが・・・。ローゼマイン様は今までのお育ちの事もあり、上位者に阿るというご経験が大きく不足されているのではないだろうか」
「・・・確かにダンケルフェルガーの領主候補生に対して、一歩も引く姿勢を見せなかったな」
コルネリウスも思い当たったのか思案気な表情をうかべる。
「神殿でお育ちの頃は、本物の貴族といえば後見人のフェルディナンド様だけだったはず。洗礼式と同時に領主の養女となった事で領主夫妻は上位者であると同時に身内にもなった。残る領主候補生はボニファティウス様だが・・・言わずもがなだろう」
「かなり甘やかしてるな。あの態度では、絶対的上位者とはなり得ないだろう」
私の言いたい事が伝わったのか、リヒャルダも話に加わる。
「ヴェローニカ様がいらっしゃれば状況も違ったのでしょうが・・・。確かに姫様にはそういった教育の場が足りなかったのは事実かもしれません」
リヒャルダが困ったように眉を寄せると頬に手を当て黙り込んだ。
どういう事なのか分かっていないユーディットにも伝わるよう、私は噛み砕いて説明を試みる。
貴族の子供というのは、上位者に逆らえば家ごと潰される恐怖を言い聞かせながら育てられる。領地の貴族は領主一族を絶対的な上位者だと言われ育つし、領主一族の子は上位領地や王族には決して逆らうなと言われて育つ。
しかしローゼマインは貴族の集まる場で揉まれていないし、ユレーヴェで眠った時間的ロスもあり上位者の怖さを言い聞かせる教育の場を設けられていなかったのでは?
そんな内容をつらつらと述べると、次第に事の深刻さが伝わったようで皆が黙り込んだ。余談だが、アンゲリカは騎士見習いの反省会が始まってから一度も口を開いていないので、部屋の中にいる事を忘れそうになる。レオノーレと警護を交代してもらった方が良かったな・・・。
「・・・全て私の推測なので大きく的を外していたら申し訳ないのだが」
「いえ、わたくしの配慮の及ばぬ話でした。言われて気付くなど筆頭側仕え失格です」
本来ならば、レスティラウトに魔術具を譲れと言われたならば粛々と従わなければならない。それが領地間の順位差というものだ。図書館に通って魔力を奉納できるかどうかなど、二の次にしなければならない話だった。
しかしローゼマインの態度はそれを一切考慮していなかった。それは、知識と経験不足からくるものだったのではないかという疑惑に不穏な空気が流れる。
「私から指摘するのも角が立つ話だと思ったので、筆頭側仕えのリヒャルダと実兄のコルネリウスに判断を委ねようと思ってな」
「そうだったのか・・・。ローゼマインの教育について我が家はほとんど関わっていないのが現実だ。城ではどうだったのだろうか?」
「姫様の教育はフェルディナンド様を中心に行われています。わたくしから問い合わせてみましょう」
今日はもう遅いし解散して早く寝なさいと、リヒャルダは皆を部屋から追い出した。
これでローゼマインの教育に多少はテコ入れがされるかな?