温泉ホテルで生じたマスク未着用の宿泊拒否をめぐるトラブルについて、Jcast Newsで報じられています。この記事には、事実関係の誤りや不鮮明な箇所が散見されますので、説明します。


・ホテル側が110番したと主張したようですが、私も110番に連絡し警察の出動を要請しました。

・「その理由としては、体調や健康の問題を挙げたが、具体的な内容は言わなかったという」との箇所に関して。
私は、個人の健康上の理由を開示させることには慎重であるべきで、プライバシーとの折り合いもつけるべきだと考えます。本件の場合は、支配人から「それはどういう理由なんですか。言えないんですか」等の煽り口調の発言があり、そのような人物とセンシティブな個人情報を共有することはできないと判断しました。

・本件で問題になったのは、ホテル飲食会場でのマスク着用です。記事では「食事時のマスクは合理性がないなどと主張している」と書かれています。
国のガイドラインでは、「ビュッフェ方式において、食事の個別提供、従業員による取り分け、もしくは個別のお客様専用トングや箸等を用意し共用を避けるなど」の対策を宿泊施設に求めています。この温泉ホテルは上記で例示されているいずれの対策も取っていませんでした。客に負担を求める以上は、まずは宿泊施設としてできる限りの施設面での整備や工夫を行った上でなされるべきでしょう。なお、国の指針でもバイキング会場での飲食に客のマスク常時着用を求められているわけではなく、このホテルのマスク対応には合理性はありません。

私は、マスク着用自体について賛成でも反対の立場でもありません。(よく誤解されますがマスク反対派ではありません。)効果や作用は専門家の間でも議論が分かれる点で、着用の認否は個人のリスク判断によってなされる余地があってもよいのではないかと思っています。
マスク未着用の少数者権利を保護すると同時に、ある程度の「マスクをしない自由」と自己判断の余地を認めるべきと考えています。合理性と必要性を欠いてあらゆる場面でマスク着用の強要が今の社会で盲目的に行われていることについては至極残念に思っています。
私のマスク着用についての見解は、こちらに書きましたのでご参照下さい。

・「法律上の規制はなく、マスクを強制できないといった内容の主張」をしていたとの箇所に関して。
本件での力点は、旅館業法上マスク未着用をもって宿泊拒否できない点にあります。宿泊約款の宿泊拒否の定めも、旅館業法上の趣旨に照らし合わせて判断されます。宿泊拒否は極めて限定的な場合のみ認められ、支配人の一存で安易に「お帰り下さい」とすることはできません。

(余談ですが、新型コロナ対策の下で「発熱がある場合にはお断りする」等としている宿泊施設も散見されますが、旅館業法の定めに反します。コロナの時期に、感染防止対策に振れるあまり、個人の権利やそれを保護する法の趣旨が軽視される風潮は良くないと思います。)

・Jcastの記事では「夕食代は返金するので退場してほしいと告げた。」と書かれていますが不正確です。支配人が私のもとに来た時点では、30分程経過していますので既に半分以上食べ終わっている状態でした。既にバイキング時間の半分近くに差し掛かっている時点で食事を中断することには何の合理性もありません。私も、夕食には手を付けていたので返金を求めてもいません。ここで、問題になったのは以後の宿泊を継続することを認めるか否かです。夕食会場からの退場に問題を矮小化するような書き方は不適当です。

・宿泊拒否の申し出に、私はお断りしました。「既に浴衣に着替えて寛いでいて、今から新たな宿泊先を不可能です」と申し上げたところ、「それならマスクを着用して頂けるんですか」と支配人からお尋ねがありましたので、それに関しましても否の返事をしました。この温泉ホテルは、市街地から少し離れた場所にあり交通の便が悪く、近くの別の宿泊先を見つけるにも夜になってからでは極めて困難でした。

・警察の出動後に、私とホテル側がそれぞれ警察官と話をし、以後の宿泊をめぐる妥協点が探られました。私の方にも説得工作がありました。一名の警察官から「泊めてほしいんでしょ、それならマスクしたら」との説得がありましたが、「マスクの着用を促すのは、警察の仕事ではなく、マスク警察の仕事です」と申し上げました。(緊迫した現場が少し和みました…。)他方で、支配人は、ホテルの宿泊約款の紙を見せて必死に警察官に正当性をアピールしているようでしたが、認められていませんでした。

・記事にある「会場の端にある席に移動するよう強く求めた」というのは不鮮明です。(記者の方が状況を理解されていないのではないかと思います。)私は、ホテルでの夕食を楽しみにし一番乗りで会場入りして、一番奥の窓際の席に位置していました。この席は他の宿泊客との接触も少ない場所です。ここから別の席に移動する必要性はありませんし、そのような申し出もありません。もしかすると記者さんは、板前が着座中の食事机を移動させようとしたことを「端の席に移動するよう強く求めた」と示唆しようとしているのかもしれません。食事机の移動に関しては、会場外に机ごと移動させることを意図した行為であり別件です。

・朝食時に「スタッフを振り切って入場しようとした」の箇所も誤りです。
私が朝食会場の入り口付近の廊下に現れたところ、男性従業員が「来たぞ」等と言い、支配人を含めた3名の男性従業員が登場しました。食堂入口の狭いスペースで、私に体当たりしたため転倒する事態になりました。

ピーチ航空の件に関しても、
・「他の乗客に大声を出すなどして…降機させられた」と書かれているのは事実誤認です。離陸後に生じたトラブルは、私とピーチ社のCAとの間のものです。他の乗客との絡みはありません。「(意図的に)大声をあげた」と「(もともと体質上)声が大きい」が異なることも既に説明しています。
・「男性は独自の主張を続けている。」との言葉使いも、中立性を期すべき報道ニュースの書き方として相応しくありません。

(なお、この温泉ホテルの事件に関して「ここでも独自の主張を繰り広げている」と記事で書かれていたのは大変残念です。ネット上でも当たり屋のような誤った印象が広まっていますが、明確に否定します。私は今年に入って20泊近く宿泊施設を利用しましたが、このようなトラブルを生じさせたのは伊東園ホテルズの施設のみです。コロナ対策の名の下に、権限濫用や物理的排除が生じることはあってはならず、宿泊施設の不適切な対応は社会的に是正されるべきであると思います。)


・J-CASTニュースでは、男性にもツイッターを通じて取材を申し込んでいると書かれています。執筆された記者の方からDMを頂き、返信しました。誤認箇所は訂正の上、当事者の主張を正しく報じて頂きたいと思います。