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異世界転生…されてねぇ! 作者:タンサン

第一章「陰陽術編」

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3話「あ、名前聞くの忘れた」





「ねぇねぇ、ちょっとくらい良いじゃん」

「どうせ暇だろ?一緒に来いよ」

「や、やです…」


 帰り道。気分転換に繁華街を通りながら帰っていると、メガネの女の子がチャラ男に絡まれているのを発見した。絡まれている女子は、制服的にうちの学校の生徒だな。

 チャラ男の片方は中々のガタイの良さだ。そのせいか、通行人はみな見て見ぬ振りで通り過ぎていく。


「はなして、ください……」

「なに?声小さくて聞こえないよ?」

「一緒に行くって?イェーイ、乗り気じゃん」


 メガネっ娘の腕を掴み、無理矢理どこかへ連れて行こうとしている。

 はぁ、放っとけるわけないよなぁ。


「おい。嫌がってるんだから離してやれよ」


 周囲の通行人からは『まじかよ……』といった視線が送られる。こちとら大マジですよ。確かに、見て見ぬ振りが普通なのかもしれないが、神様を助けた時のように、体が動いてしまうのだ。

 自分でも、難儀な性分だと思うよ。うん。


「おいおい、ヒーロー気取りか?クソガキ」

「痛い目見たくなかったら引っ込んでろよ」

「いやいや、引っ込むのは……お前だろっと!」


 そう言いながら、ガタイのいいチャラ男に思いっきりタックルを決める。

 うまいことクリーンヒットしたのか、チャラ男は勢いよく吹っ飛び、路地裏のゴミ置場へ消えていった。成功だ!


「来て!」

「あ、はい!」


 そのままメガネっ娘の手を掴み、走る。

 後方からは残された細身チャラ男の叫び声が聞こえるが、無視だ無視。



 しばらく走り続けてたどり着いたのは、少し遠くにある公園だった。


「大丈夫?」

「は、はい……はぁ、はぁ、大丈夫、です」


 息が切れている。逃げるためとはいえ、走らせすぎた。


「ごめん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です……あの、助けてくれて、ありがとうございました」

「いやいや、無事でよかったよ」

「あ、でも、本当に、ありがとうございました……」

「いやいや……」


 ……勢いでここまで来てしまったが、会話が続かない。この子も話すの苦手みたいだし、俺自身も女子と話すのに慣れてないしなぁ。解散が無難だな。


「それじゃあ、この辺で……って、それ!そのスライムのキーホルダー、あの人気小説のやつだよね!?」

「あ、はい。知ってるんですか?」

「もちろん!漫画版買い逃して、それ手に入れられなかったんだよね」

「あ、私、別のパターンのやつも、持ってます。2冊、買ったので」

「おお、凄い!」


 その後、驚くほど会話が盛り上がった。人気ラノベからマイナー漫画まで、話してみると物凄く趣味が合ったのだ。やはり、オタク文化は偉大だな。


「あ、結構遅くなっちゃったね」

「そう、ですね」


 公園の時計を見ると、もう5時を過ぎている。まだ4月なので、もう日が沈み始めていた。

 もう少し話したいが、仕方ない。お開きだな。


「送っていこうか?」

「大丈夫です。近くに、お姉ちゃんと、友達が、来ているみたいなので」


 スマホの画面を確認したメガネさんが、そう呟いた。また絡まれないかと心配だったが、一緒に帰る相手がいるなら大丈夫そうだな。


「あの……今日は本当に、楽しかったです。また、話したいです」

「うん、俺も楽しかったよ。また話そう」

「はい!それじゃあ、また」


 そう言い残し、俺の帰り道とは反対の方向へと駆けていった。

 いい出会いができたなぁ。神様、生き返らせてくれてありがとう!


「あ、名前聞くの忘れた」


 名乗るのも忘れた。

 ま、いいか。同じ学校ならきっと会えるだろう。


 繁華街へ向かう救急車の音を聞きながら、俺は家路につくのだった。



 

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