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異世界転生…されてねぇ! 作者:タンサン

第一章「陰陽術編」

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2話「ドジって普通に蘇生させてしまった」


 異世界に転生したかと思ったら、遺体安置所にいた。わけがわからない。

 ふと、足の指に違和感を感じて目を向けると、タグのようなものが付けられている。

 遺体を識別するために付けられているやつか。でも、表には何も書かれていないな。めくると……「すまんのぉ、またドジってしまった。辻褄を合わせるから、もう少しそこで待っとってくれ」と書かれていた。

 異世界ではなく、普通にこの世界に蘇生させてしまったという事か。


「神様……気をつけてって言ったのに」


 とりあえず、神様の言う通りしばらく待つことにした。













 あれから丸一日がたち、無事に帰宅できた。

 あの後、警察官が何人も駆けつけ、礼服に着替えさせられ、警察署で表彰式が行われ、記者や報道関係者から質問責めにあった。


 どうやら、俺は凶悪犯を捕獲したスーパー高校生。と言う事になっているらしい。

 意味がわからない。


「あ、手紙が届いてる」


 差出人は、神様だ。


『すまんのぅ。ドジって普通に蘇生させてしまった。辻褄を合わせるために、お主が死んだことは無かったことにしておる。そして始業式に出られなかったのは、凶悪犯に襲われてそれを返り討ちにしたから、と言う事にしておいた。本当にすまんのう。お詫びではないが、ちーと能力はそのままにしておる。期待していた異世界ではないが、達者でのぉ』


 まぁ、チート能力がそのままなのはありがたい。それに、家族や友達と離れるのは寂しかったので、異世界転生でなくても全然問題ない。


「とりあえず、明後日の学校の準備でもするかな」


 始業式は金曜だった。今日は土曜日。

 出られなかった始業式の分、月曜の学校は気合を入れて臨むとしよう。











「えっと、結城幸助(ゆうき・こうすけ)です。よろしくお願いします」


 登校初日。始業式のガイダンスに出られなかった俺は、教壇でひとり、自己紹介をした。めっちゃ緊張した。



「あれがスーパー高校生か」

「すごい、昨日テレビで見た人だ」

「捕まえた犯人って、プロレスラーみたいな体格してたらしいぞ」

「しかも武器持ってたんだろ?よくそんなやつ倒せたよな」


 各休み時間、そしてお昼休み。俺は噂の中心となっていた。

 しかし、誰も話しかけてくれない。


「居心地が、悪い」


 この高校は中高一貫校で、半数が中学と同じ顔ぶれだ。そのため、すでに絆の強いグループがいくつか出来上がっている。

 残りの半数は俺と同じ外部受験生で、同じく孤立しているやつもいるが、警戒して誰も近づいてこない。尊敬や畏怖の視線が突き刺さる。

 神様の過剰な辻褄合わせのせいで、さっそくぼっちコース真っしぐらだ。


「結城くーん、いるー?」


 そんな事を考えていると、突然誰かに呼ばれた。振り向くと、立派な剃り込みの入ったザ・不良くんが俺を探している。


「葛西さんが呼んでんだけどー。結城くんって、どれ?」


 みんなの視線が、俺に集まる。不良も気付いたらしい。


「お、俺です」


 おずおずと手をあげる。


「ちょっと来てくんね?」


 剃り込み不良に、俺は体育館裏まで連れていかれた。








 膝はガクブル、冷や汗も止まらない。

 体育館裏には10人近い不良たちがたむろしている。そして、その中のリーダーっぽい髪の毛ツンツン不良が話しかけてきた。


「俺は葛西蒼司(かさい・そうじ)だ。お前が結城だな?」

「は、はい」

「凶悪犯を捕まえたってのは、本当か?」

「は、はい」


 こ、怖えー。身長は、俺よりも頭一つ以上でかい。俺は160台なので、180くらいあるのかもしれない。


「どうやって捕まえた?相手はとてつもない大男で、素手で熊を殺した事もあるやつなんだろ?銃まで持ってたって聞いたぞ?」


 神様ー!どんな化け物を倒した事にしてるんだよ!


「そ、それが、はっきりと覚えてないんです。気付いたら捕まえてたっていうか……」


 報道関係者に問い詰められた時も、こう言って誤魔化した。


「とりあえず、お前が倒したって事で間違い無いんだな?」

「そ、それはその……」


 急に、胸ぐらを掴まれた。ちょっ、足浮いてる足浮いてる!どんな馬鹿力してんだよ!


「ソージ!あんたなにやってんの!?」


 突然、赤髪ショートの女子生徒がこちらに近づいてきた。

 誰だ?


「アカリか、何しに来たんだよ」

「何しに来たじゃ無いでしょ!外部生無理矢理連れ出して、あんたこそ何しようとしてんのよ」


 どうやら、お知り合いらしい。周りの不良たちも認める仲なのか、2人のやり取りを黙って見守っている。


「うっせぇなぁ。わがったよ、離しゃいんだろ離しゃ。もしかしたらと思ったが、おれの勘違いだったみたいだしな」


 一瞬、俺を見下すような目を向け、胸ぐらを掴む手を離した。少し浮いていたので、うまく着地できずに転ぶ。散々だ。

 最後に舌打ちをされ、葛西とかいうツンツン不良は仲間を引き連れて校舎へと戻って行った。

 ひとまず、助かった。


「君、大丈夫?」

「あ、はい。助けてくれて、ありがとうございます」

「いいのよ。それよりも、あいつが迷惑かけちゃってごめんね」


 優しい。あと、めっちゃ可愛い。

 何この人、アイドル?驚くほど整った顔立ちだ。


「本当は良いやつなのよ。後できつく言っとくから、私の顔に免じて許してあげてくれる?」

「あ、はい」


 可愛いすぎて、思わずはいって言ってしまった。でも、許すつもりはないぞ!

 そもそも、良いやつなわけないだろ。良くないって書いて不良じゃん。そのうえ、こんな可愛い子がフォローしてくれるなんて。羨ましい!なんか無性にムカついてきた。


「ありがと、それじゃあ戻ろっか。教室まで送るよ」

「あ、はい」







 赤髪美女は、月野燈(つきの・あかり)さんというらしい。

 アカリさんと軽い雑談をしつつ教室へ戻ると、クラスメイトが駆け寄って来た。


「結城くん。葛西くんに呼ばれてたみたいだけど、大丈夫だった?」

「ってか、今アカリさんと戻って来てたよな?どういう関係なんだよ!?」


 黒髪美人の委員長を筆頭に、質問責めにあった。

 その後、話してみると普通の人だとわかってくれたのか、友人も何人かできた。


 結果的には、ツンツン不良に呼び出されたことでクラスに馴染むことができたのだった。

 くっ……仕方ない、許してやるとするか。


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