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(辰夫)まだ戻ってきやぃんのか?
テルヲが栗子を連れ戻すために出ていったきり もう10日です。
千代ちゃん 結局 また学校行かれへん。
(辰夫)戻てきよったらおっちゃんが きつう お灸据えたるさけ。
(千代)ガツンと言うたって。
おう。おう。おう。
(きみ)その おなごも おなごやど。
ひょっとしたらもう戻てきやぃんのとちゃうけ?
いいや 三味線 置きっ放しやし。
あの女 初めから戻るつもりや。
ただ うちを困らすために出ていきよったんや。
はあ~ おっとろしい女やのう。なあ。
それ見透かしてる千代ちゃんも大概 末恐ろしいけどな。
(辰夫)おう お帰り。(きみ)お帰り。
(勝次)千代 これ今日の宿題。
おおけに。先生に頼まれただけや。
何や 答え書いとれぃんやんけ ほら。(勝次)何で わいが やらなあかんねん。
宿題は自分でやらな役に立てぃんやろが。
心配いらん。このままやったら うちの人生間違いのう お先真っ暗や。
明日 どねなるかも分かれぃんのに先のことなんか考えても無駄や。
(ため息)
ほんま生きるて しんどいな。
そう思わへんけ?
♪「オレンジのクレヨンで描いた太陽だけじゃ」
♪「まだ何か足りない気がした」
♪「これは夢じゃない(夢みたい)」
♪「傷つけば痛い(嘘じゃない)」
♪「どんな今日も愛したいのにな」
♪「笑顔をあきらめたくないよ」
♪「転んでも ただでは起きない」
♪「そう 強くなれる」
♪「かさぶたが消えたなら」
♪「聞いてくれるといいな」
♪「泣き笑いのエピソードを」
♪~
翌日 2人がやっと戻ってきました。
(テルヲ)どや べっぴんやろ。 羨ましいか?あ… あほ!
この度こちらに嫁いでまいりました栗子と申します。
(唾を飲み込む音)(裏声で)隣…。
(せきばらい)隣の小林です。
こねな田舎暮らし思てもみやぃんことでお力 お借りすることもありますやろけどどうぞ 末永
う よろしいにお頼申します。
あっ… そ… そら もう困ったことがあったらいつ何時でも 言うてきて。おっちゃん!
ん? あっ… そや ほな 去ぬわ。
はあ?おう 愛想なかったのう。
はっ?(辰夫)さいなら。ちょ… ちょ…。(テルヲ)おう さいなら。
ちょっと おっちゃん!
あいつ 絶対悔しがっとる。わいの勝ちや。 ヘヘ。
何の勝負やねん。おい 千代!
お前 栗子お母ちゃんに謝れ。
お前 栗ちゃんにひどいこと言うたそやないけ。
お父ちゃんが一生懸命 何べんも詫び言うてやっと許してもうたんや。感謝さらせ。
今度は どねな約束しさらしたんや?
おおかた何かうまいもん食わしたるとか。
せやねん せやねん。うなぎやろ それから すき焼き…。
何で知っとんねん お前 それ。うちは ええて言うたんや。
けど テルヲさんがどねしてもて言うよって。アハハハ…。
あほ! うなぎ買う銭 どこにあんねん!ミミズでも食うとけ!
銭やったら ある。はあ?
(鳴き声)
ついに この時が来たわ。
千代ちゃんとテルヲは 歩いて1時間程の小さな町にやって来ました。
どこも ええ匂いや。
うち もう あかん。おなか減って気ぃ失う。
(テルヲ)今は我慢せえ。後で好きなだけ食わしたる。
お父ちゃん…。えっ?こいつ ほんまに高う売れんのけ?
お父ちゃんを信じぃ。こいつはな ただの鶏やあれぃん。
ほれ 見てみ。 何や珍しい品種でなこの美しゅうて 長~い鳴き声が何や 物好きの間でど
えらい人気らしいわ。
♪~
何見てんねん。 いやらし。
次!
ここは町で大きなガラス工場を経営している峰岸社長のお屋敷です。
今日は ここで観賞用の鶏の品評会が開かれております。
うわあ…何や分かれぃんけど ものすごいな。
流星丸が貧相に見えるわ。
だ… だだだ大丈夫や 大丈夫や。
社長 どないです?
ここまでのもんは なかなか おまへんで。
(峰岸)あきまへんな。
次!
次!おい! おい! おい ちょお待て おい!
(騒ぐ声)
いや すんません。 社長はんもうちょっと よう見てもらわなうちの流星丸のよさは分かれへ
んで。
鶏冠の大きさ 色 形 どれも並。
羽の色艶も さほど ええことない。
素人が育てるとな あななんねや。 なあ。
いやいや…まだ鳴き声 聞いとらへんがな。
長鳴きかい。
鳴かしてみい。
よう聞いといてや。さあ 流星丸… 鳴け。
鳴け。
(テルヲ)あれ…。
今日は 慣れんとこでちょっこと硬なってんのやろか? なあ。
あっ せや。 千代 お前 鳴け。
はっ? はっ? 何言うねん。
つられて 流星丸も鳴くはずや。
嫌や そね恥ずかしこと ようしやんわ。(テルヲ)何でも好きなもん食わしたる。
コケコッコー。聞こえるか!
コケコッコー!(テルヲ)もっぺんや!
もっと流星丸の気持ちになれ!
コケコッコー!
おいおい。 おい おい おい。 おい。もうええ。 わしも忙しいんや。
次!
(騒ぐ声)
あの…。
ほんまに ええのやろかな?(峰岸)はっ?
この子 鳴き声だけはほんまに すごいんやで。
何でか知りたい?何でや。
うっとこ 貧乏やさけまともに餌やられやぃんねん。
せやさけ この子は いつもおなか減ったって 大声で鳴いとんねん。
この子の鳴き声は生きるための鳴き声やさけ。
せやのにな 見た目だけで判断するやてガラス工場の社長さんや何や分かれぃんけどおっち
ゃんの目は曇りガラスやな。
このコマンジャコちこっと言うてくれるやないか。
ええもん見したるわ。
どや きれいやろ。
お母ちゃんの形見やねん。
おっちゃんの工場でもこねなん作ったらええのに。
社長。
見せて 見せて。
はあ~…。
お前… サエの子か?
社長… サエのこと知っとんのけ?
知っとるも何も あの子はなちょうど あんたと同じぐらいの頃はうちで奉公しとったんや。一生
懸命 働く子やったわ。16かそこらに辞めたあとはしばらく顔見せんかったけどな…。
亡うなる ちょっと前辺りにひょっこり現れてこのガラス玉 買うて帰りよったんや。娘にやる言
うてな。
(峰岸)お月さんに似た珍し色のガラス玉やったさけよう覚えとる。
そうか… お前 サエの子か。
おおけに。
ええんけ それだけで。残りは 帰ってから よばれる。
ヨシヲも楽しみにしとるさけ。勝次にも この前貰た分 返さな。
せやな。 たんとあるしな。
これも何かの縁や。 なあ。
流星丸 買わしてもらおかい。
お母ちゃんのおかげやな。
そねやな。
さっ 行くで。
♪~
なあ お父ちゃんは お母ちゃんのこともう好きやないんけ?
ん? 好きやない。
…って言わんとな栗ちゃんに どつかれんねん。
情けな。あねな女の どこがええねん。
何もせんと遊んでゴロゴロしてばっかりやないけ。
お母ちゃんとは まるで違う。せやろ。 せやさけ ほれたんや。
似ててみ 思い出してしまうやないけ。
あっ せや! お母ちゃんのお墓にお供え持っていこけ。
今日のお礼しやんとな。今から?
栗ちゃんに内緒やで。よっしゃ 走るぞ~!
暗なったら お墓にお化け出るど~!え~ 嫌や! ちょっと待ってえや!
速いって! お父ちゃん ゆっくり!
(雷鳴)
(ヨシヲ)姉やん…。
(足を滑らせる音)
(雨音と雷鳴)