ひとり情シスの立ち位置は、非常に微妙だ。

あなたの会社を例にしてみよう。あなたの周りにはきっと、パソコンを苦手とする人がいるはずだ。その人がある日突然「マウスが動かなくなった」などと騒ぎはじめたとする。周りの人は(あなたも含めて)目の前の仕事で忙しいので「情シスの田中さん(仮)に聞けばいいんじゃないですか」なんてちょっと冷たいことを言ったりするだろう。不幸にも呼び出された情シスの田中さん(仮)がよくよく見てみると、原因は「USBが充分に差し込まれていなかっただけだった」なんてオチだったりする。これ、すぐに解決できてめでたしめでたし、とはならないのだ。

こういった情シスが便利屋さんとして扱われることは、大なり小なり多くの会社で存在する。もちろん、パソコン周りの不具合がすぐに解決できることで業務効率が高まり、ひいては企業全体の利益にもつながるだろう。しかし、情シスの本来の業務は「社内のパソコン便利屋さん」ではない。パソコンをはじめとしたハードウェアや業務効率を上げるソフトウェア、社内システムに関わるインフラなど、企業の成長を促すIT戦略を立案するとともに、自社の情報システムを守り続ける。それが情シスという仕事だ。

百歩譲って情報システム部門に100人以上在籍するような大企業であれば、パソコン周りが苦手な社員をフォローする役割があってもいいかもしれない。ただ、それがひとり情シスであればどうであろうか。規模が違うとはいえ、やらなければならない業務は似たようなものだ。ひとり情シスは常に多忙を極めることになる。1カ月休みをとっていない、なんてひとり情シスも結構いたりするのだ。

  • ひとり情シスが「便利屋さん」として扱われている姿

    ひとり情シスが「便利屋さん」として扱われている姿

上記のようにひとり情シスが「便利屋さん」として扱われていると、多くの弊害が生まれる。その最たる例は、企業のIT戦略が進まなくなることだろう。多忙で手につかないという場合もあるが、一番深刻なのは、話を聞いてもらえないほど軽んじられてしまう点にある。

その企業のためにIT戦略を考え、こうした投資をした方がいいと訴えたとしても、社内からの認識は「便利屋さん」「問い合わせ先の人」「普段何やっているのか分からない人」だ。ましてや直接的な利益を生み出す営業部門でもない。意思決定者(たとえば社長)としても、優先順位を下げて対応してしまうだろう。

ひとり情シスは、常に孤独な戦いを強いられる。

そんなひとり情シスを応援すべく、ソフトクリエイトとマイナビニュースで開設した「ひとり情シスチャンネル」。その取り組みの一つとして、この度「ひとり情シス向上委員会」を発足することにした。その活動の第一弾として、「ひとり情シスの社内地位を向上させるキャッチコピー」を募集する。いままで述べてきたような、微妙な立ち位置にいるひとり情シスを、あなたのキャッチコピーで救ってほしい。

キャッチコピーは、どのように考えればいいのか?

とはいえ、このまま皆さんに「よろしく!」と投げても乱暴である。そこで、本コンテストにおけるキャッチコピーの書き方の一例を紹介したい。筆者は元コピーライター(といってもC級だが)なので、参考となるナレッジをお届けできるはずだ。

最初に考えるべきは、ターゲットのキモチ

キャッチコピーを誰に読んでもらいたいのか。キャッチコピーを読んだ後、どんなキモチになってほしいのか。その後、どんな行動を起こしてほしいのか。まず考えるのはターゲットについてだ。

ターゲットとなる人たちは、普段どんなことを考えているのか。どんなことに困っていて、喜びを感じるときはいつなのか。そういったターゲットのキモチについて考えを深めていく。

コツとしては、多くの人の共通項を探すよりも、たった「ひとり」を想定して考えることだ。たとえば今回であれば、ターゲットを社長にしてもいいし、一般社員としてもいい(自分自身でもいいかもしれない)。身近な人の中からターゲットと近しい人を選び、その人が普段どのようなことを考えているのかを想像する。そうすることで、「会社の社長って普段なにを考えているんだろう」とざっくり考えるよりも、ターゲットのキモチについてより具体的に想像しやすくなるはずだ。

  • 具体的な「ひとり」を思い浮かべて、ターゲットについて考える

ひとり情シスの魅力について考える

ターゲットのキモチについて考えると同時に、訴求するものについても調べなければならない。

プロのコピーライターは、「仕事の半分は調べ物」と言ってもいいくらい商材について調べる。その商材はどのようなメリットがあるのか。そのメリットによってどのような生活を実現できるのか。いま、世間からその商材はどのように思われているのか。競合となる商材との違いはなにか。とにかく徹底的に調べる。

今回に関していえば、ひとり情シスについて調べよう。ひとり情シスとはどのようなワークスタイルなのか。ひとり情シスはどのように思われているのか。ひとり情シスの困りごとはなにか、などなど。参考となるページも以下に載せるので、ぜひご覧いただければ幸いだ。

・ひとり情シスチャンネル https://news.mynavi.jp/lp/2019/business/enterprise/hitorijoshisu/

  • 訴求するものに関しては、徹底的に調べる

「What to say」と「How to say」

さて、ターゲットのキモチを考え、ひとり情シスについてもある程度調べた。最後に考えるべきは、「What to say(なにを言うか)」と「How to say(どう言うか)」だ。

こうしたキャッチコピーのコンテストで一般の方がやりがちなのは、とにかくダジャレをつくる、五・七・五のカタチで語呂をよくする、うまいことを言おうとする、といったHow to say(どう言うか)だけを考えてくることだ。

たしかに表現が上手なキャッチコピーは爆発力がある。思いついたらぜひとも応募してほしい。しかし、表現が上手なキャッチコピーと、効果が見込めるキャッチコピーは違うこともあるのだ。見た目はキレイだが中身のない人間が魅力的ではないように、表現が上手なだけでなんの意味もないキャッチコピーは、効果が見込めないコピーの代表例だ。

では、効果が見込めるキャッチコピーを書くにはどうすればいいのか。筆者がコピーライターとして仕事をはじめた際、師匠によく言われたのは「How to say(どう言うか)は大切だが、What to say(なにを言うか)はもっと大切だ」という話だ。そしてWhat to sayを考えるために必要なのが、ターゲットと商材について調べ、想像することなのである。なぜなら、ある程度の知識がないと、その商品が実現できることはなにか、その中でターゲットが魅力に感じそうなことはなにかが分からないからである。

たとえば、“刺身によく合う醤油”があったとしよう。スーパーの売り場で、その醤油の前にどんなキャッチコピーがあれば買ってもらえるか。コピーのコンテストで募集すると、以下のようなものがたくさん応募されてくる。

  • うまい刺身を、Show You

いや、本当の話なのである。「刺身によく合う」という事実だけでWhat to sayについて考えることを辞めてしまい、いろんな表現(How to say)を考えて応募してくる人が多い。これではあまりにもったいない。

ここで一旦、刺身によく合う醤油の特長について考えてみよう。刺身によく合うということは、刺身がおいしくなるということだ。それはつまり、高級店で出している刺身もさることながら、スーパーで売っている刺身もおいしく食べられるということになる。

また、“刺身によく合う醤油”のターゲットについても考えてみよう。スーパーに置かれているということは、主婦の方などファミリー層がターゲットだろう。子どももいるかもしれない。その場合、特売品のような安くなったものを狙って買いにくる方も多そうだ。たとえば以下のようなコピーはどうだろうか。

  • 本日の特売品のお刺身が、ご馳走に変わります。

ダジャレではないし、うまいことを言っている訳でもない。しかし、スーパーの売り場で書いてあったら、少なくとも「うまい刺身を、SHOW YOU。」より買うキモチが湧くのではないだろうか。このように、どうやってうまいことを言うかよりも、その商品が実現できることを考えて、シンプルに表現したほうが、キャッチコピーとして優秀な場合が多々ある。

  • What to sayとHow to say

元コピーライターだったら、どう考えるか

もし私がこのコンテストに応募するのなら、どんなことを考えるか。

ターゲットは社長のような意思決定者より、一般の社員としたい。ならば自分をターゲットとして考えてみる。目の前の仕事に追われており、周りに気を遣う余裕はあまりない。当然、ひとり情シスがいたとしても、気にかけることはないだろう。関係がない人、パソコンやシステム周りで困ったときに聞ける人、くらいの認識だ。好き嫌いというより、無関心といった方がいいかもしれない。

となれば、今回のキャッチコピーでひとり情シスの社内地位を上げるためには、「(私のような)無関心な人たちにひとり情シスを自分ゴトとして捉えてもらう」ことをめざせば良いのではないか。

ひとり情シスの特長についても考えてみよう。ひとり情シスは最初に述べたように、全社的に影響を及ぼすIT・システム関連に関わっている。多くの社員はひとり情シスに対して無関心であるが、ひとり情シスにお世話になっていない人は、実は一人もいない。この事実を訴求できれば、自分ゴトとして捉えてもらえるのではないか。たとえば以下のようなコピーはどうだろう。

  • そのPC,そのシステム、ぜんぶひとり情シス製です。

ひとりで情シス業務をすべてやっているということは、もしいなくなった場合、引き継げる人は誰もいないということになる。そのポジションの重要性を伝えることでも、自分ゴトとして捉えてもらえるかもしれない。たとえば以下のようなコピーはどうか。

  • ひとり情シスの失踪は、社長の失踪よりヤバイ。

いままでキャッチコピーの書き方について考えてきたが、雰囲気はつかめてもらえただろうか。このやり方が絶対の正解という訳ではないし、いままで書いてきたサンプルのコピーがぜったいいいコピーだと言うつもりもない(そんな自信はない)。ただ、応募いただく際、参考になれば幸いだ。ぜひとも気軽に、自由な発想で応募してほしい。

実際のひとり情シスの取り組みについてはこちら
https://www.softcreate.co.jp/rescue/blog/article/7
・ひとり情シス川柳 https://news.mynavi.jp/lp/2019/business/enterprise/hitorijoshisu_senryu/
・情シスレスキュー
https://www.softcreate.co.jp/rescue

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