100名の社員が在籍する会社のヘルプデスクを6年半にわたり勤めてきた「ひとり情シス」の経験から、ヘルプデスク業務の最適解を模索していく本コラム。第1回では遠隔サポートによる効率化、第2回では問い合わせ件数を減らすための工夫について見てきました。これらをふまえ、第3回では社内のITリテラシー向上について掘り下げていきましょう。
業務範囲外の問い合わせが多いヘルプデスク
学校のシステムを運用する会社で「ひとりヘルプデスク」の経験を持つU氏は、多種多様な問い合わせに対応してきました。社内向けのヘルプデスク業務にも関わらず、授業で利用する機器の映像や音声関連のサポートに呼び出されたり、社員の私物PCやスマートフォンのトラブル対応を求められたりと、業務範囲外の問い合わせも多かったといいます。
「システムやPCに詳しそうというイメージで、本来サポートする必要のない問い合わせがくるのは、ヘルプデスク業務の“あるある”話で、便利屋的に扱われている情シス担当者も多いと思います。私のケースでは、業務に使っていない私物のスマートフォンの使い方を聞かれることがよくありました」
本来の業務となるPC関連の問い合わせでも「PCの電源コードが抜けている」「ルーターの電源がオフになっている」「ログインパスワードを忘れた」など、初歩的な原因によるトラブルが多かったと話すU氏。こうしたヘルプデスク業務の負担を減らし、効率化を図るには、どのような試みがあるか考えてみましょう。
社内教育でITリテラシーを底上げする
たとえば、適切な社内教育を実施して社内のITリテラシーを底上げすることは、高い効果が期待できます。社員にITの自己解決能力が備われば、ヘルプデスクだけでなく情シス部門全体の負荷が軽減。情シスが本来の生産的な業務に専念できるようになり、企業の業績向上にも繋がります。近年では情報セキュリティの重要性も高まっていますが、社員のITリテラシーを高めることで、そうした意識も身につくでしょう。
その社内教育の方法としては、OJT(On-the-Job Training)やeラーニングなどがありますが、U氏によると、重要なのは継続して行うことだそうです。1回の学習だけではすぐに忘れられてしまい、あまり効果はないとのことでした。
とはいえ実際は、ひとりヘルプデスクという立場で、独自に社内教育を実施するのは難しいものです。社内教育を推進するとなると、たとえば人事部や総務部など他の部署との連携(交渉)が必要で、そのための時間や手間、費用もかかります。ひとりヘルプデスクがいきなりそのような交渉を行うのは、現実的ではないでしょう。
社内の協力が得られるような体制を整える
社内教育の推進は難しくても、ひとりヘルプデスクという立場において、ふだんから他部署と連携して業務を進められる環境があれば、場合によっては少しでも負担を軽減できます。
「本来なら、ヘルプデスクは、すべての部門と繋がる業務です。各部署の状況がいち早く入ってくるため、各部門との密接な連携が行えればトラブルを未然に防いだり、損害を最小限に留めたりできるでしょう」
U氏はこのように語りますが、こうした社内の積極的な協力が得られるようなヘルプデスクはある意味、理想といえ、実際は “困ったときの便利屋さん”止まりだったりします。
そもそもヘルプデスクは黙々と対応をしていればよい業務ではなく、ITに詳しくない社員に説明できる話術や、辛抱強く対応する忍耐力など、円滑なコミュニケーションを実現するスキルが求められます。中にはクレーム的な問い合わせもありますが「切羽詰まった相手の心情をくみ取り、余裕を持って対処することで信頼を得られる」とU氏は語ります。社員に寄り添い、ひとつひとつのトラブルに真摯に取り組む姿勢こそが、少しずつ社内に味方を増やし、ヘルプデスク業務に対する理解も深められる……というのは、やや理想的過ぎる考え方でしょうか。
とはいえ他部署と密に連携できるような環境を作るなら、地道に関係性を築いていく姿勢が求められますが、残念ながらそれには近道がありません。数多くの業務に振り回されている現状を今すぐにでも変えたいひとりヘルプデスクにとって、このアプローチは即効性に欠けるため、長い目で進めていくべき取り組みといえそうです。
マニュアルで自己解決してもらう
PC、スマホ、タブレットなどマルチデバイスの活用が当たり前となった現在、ひとりヘルプデスクの対応には限界があり、やはり社員の「自己解決能力」は不可欠です。社員教育の体制や、他部署との関係性を構築する以外で、何か自己解決能力を高める手段はないものでしょうか。U氏によると最も現実的で即効性があるのは、マニュアルの作成でした。
「手間はかかりますが、マニュアルを作成するのが効果的です。基本的な使い方やトラブルは、社員それぞれがマニュアルで調べるようにすれば、自然に自己解決能力が身についていくはずです」
マニュアルがあれば、問い合わせがきても「まずはマニュアルを見てほしい」と伝えることで、一次対応にかかる手間を減らせます。再度問い合わせがあった場合も、今度はその社員も理解を深めているため、質問内容も具体的になり、対処にかかる時間も削減できるでしょう。 多忙を極めるひとりヘルプデスクが業務の合間を縫ってマニュアルを作成するのは、現実的かどうかという課題はありますが、一件のマニュアルが今後何人ものユーザーによる問い合わせを減らしてくれることを思えば、その効果は大きなものといえます。
理想のヘルプデスク業務に近づける
ここまで3回にわたってヘルプデスク業務の現状と改善手法を見てきました。PCの導入から関わり、リモート接続やFAQ、チャットボットなどの技術で問い合わせ対応の効率化・自動化を実現。さらにはマニュアルの作成に少しずつ手を付けてみることで、理想のヘルプデスク業務に近づいていけます。
ヘルプデスクはある意味「何でも屋」のポジションで、業務の大変さはなかなか周囲に伝わりにくいものです。とはいえその責務を一人で負うのは健全な状況とはいえず、唯一のひとりヘルプデスクが倒れてしまうと、会社全体が回らなくなるリスクをはらんでいます。
短期的にはマニュアルの作成を進めていき、長期的には他部署との関係性を深めることで連携を強めていく……。当たり前のことかもしれませんが、そうした日々の積み重ねの上にこそ、理想のヘルプデスク業務は実現できることでしょう。
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