【情シスサミット2019】情シス業務を変えるヒントがそこに
2019年9月18日、企業の業務の下支えとして働く情シスたちのサミットが開催された。情シスの業務のコツや、苦労と成功例の共有、そしてデジタルトランスフォーメーションが進む未来に向けて新たな情シスの姿を模索する場となった。当日発表されたセッションをレポートする。
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情シスサミット2019秋、開催
2019年9月18日(水)、コングレススクエア日本橋で「情シスサミット2019秋」が開催された。株式会社ソフトクリエイト主催の同サミットは、全国の悩める情シスたちに向けたノウハウ共有と、デジタルトランスフォーメーションが進んでいく未来に向けて今後の情シスの姿を模索するイベントだ。雨のそぼ降る日本橋に、全国から情シス関係者が集合した。
この情シスサミット、以前はソフトクリエイトのソリューションが一堂に会するプライベートショーの中で開催していたが、ニーズの高まりを受け、昨年から独立して開催している。そんな背景を考えると小雨が降るという条件が悪い中でも多くの来場者があったことは、いかに”悩める情シス”が多いことなのかがうかがえる。
また、会場では業務改善製品の展示ブースが設けられ、多くの人でにぎわっていた。
基調講演を始め13のセッションが設けられ、様々な企業の情シス関係者が登壇した。本レポートでは、その中から4つのセッションを紹介する。
基調講演「テクノロジで情シス改革『働き方改革』~情報システム部門が社内のHEROになる道~」
基調講演は日本マイクロソフト株式会社の小柳津 篤氏の登壇で、同社における働き方改革への取り組みと情シスの貢献について語られた。
(日本マイクロソフト株式会社 小柳津 篤氏)
日本マイクロソフトは、働き方改善実現の為、数多くのの仕組みを導入しており、働き方改革の先進的な企業として知られている。今年4月には週休3日制導入が発表され話題になったが、「そんなのは施策のほんの一部でしかない」と小柳津氏は言う。その本筋にあるのは同社が2000年代から同社が継続して取り組んでいる「ワークライフチョイス チャレンジ」という試みである。
2000年代、国内企業全体で長時間労働が当たり前であったところ、日本マイクロソフトも例に漏れず、そうした働き方では社員が疲弊し継続性がなかったと言う。
同社はこれを課題として継続性のある働き方を目指すこととし、生産性の向上のために働きやすくする施策が行われた。それがワークライフチョイスチャレンジで、あくまでも「生産性向上のため」であり、働き方改革が結果として企業活動そのものの改善につながっていることを強調した。
同社の施策は具体的にはペーパーレスへの取り組み、オフィスのフリーアドレス化とリモートワーク推進。小柳津氏はオフィスの写真のビフォー・アフターを見せ、ペーパーレスの効果をアピールした。
しかしながら、これらの実現のためには、まず手続き型業務から脱却する必要があったと同氏は指摘する。「ただ印刷量を削減するだけではなく、“プロセスを踏んで段階ごとに計画してルールに従って進む従来の業務のやり方”から、“いろいろな人材がつながりあって課題解決を行うやり方”へ変更した」という。
その新しい業務のやり方を実現するために、誰でもいつでもどこからでもつながれるプラットフォームMicrosoft Lync、コミュニケーションツールTeamsなどの技術が登場となったのだ。
「あくまでも業務量を減らさないと、紙は減りません」と小柳津氏は指摘する。日本マイクロソフトは、2009年から2019年にかけての10年間で一人当たりの生産性を200%上昇させたという。それでも業務時間や印刷量は削減できており、業務のやり方自体を変えることの重要性を繰り返した。
そのための技術的アプローチとして、小柳津氏は以下の3点を紹介した。
1.業務の整理整頓 標準化&電子化
2.圧倒的に便利で安心安全な環境整備
3.習慣化を経て実現する企業文化
上記の1、2はいわば環境整備の話である。特に2番目はリモートワークの整備のときに必ず出てくると言ってよいセキュリティとの兼ね合いの点に言及された。「社員は、少しでも不安があったら動きません」と小柳津氏は振り返る。「セキュリティや利便性に不安があれば、社員はそれを指摘することもなく、ただ黙って何もしないでいる。生産性が上がらない」。そのために安全で使い勝手のよい環境を整えることが重要なのだ。
もちろん、情シスこそがこうした環境的なアプローチを主導する立場だ。こうした変革への提案が社内の生産性向上や働き方改革、オフィス改革を引き起こすという。そして、3番目の実現のため社内に成功例を示すべきとして、働き方改革の施策をまず情シス内で試すことを勧めた。
「皆さんが活躍しない限り、変革は起きません」と、小柳津氏は情シスたちを熱く鼓舞した。
『このセミナーを聞けば情シスは社内でスターになれる!』
サイボウズ株式会社の執行役員栗山圭太氏による、kintone利用の成功事例のセッション。kintoneとは業務アプリをプログラムの知識なく作成できるサイボウズ社のクラウドツールで、電車等でも黄色い広告でよく見かけるアレだ。管理画面から、フォームや項目をドラッグ&ドロップするだけでアプリの開発ができ、修正も簡単にできる。
(サイボウズ株式会社 栗山 圭太氏)
栗山氏は、kintoneを情シスが使うことで業務システムの外部発注コストが抑えられるとアピール。業務システム開発には、業務知識と開発スキルが必要だ。栗山氏は、kintoneを使った「アプリ開発依頼アプリ」により業務部門から業務アプリの依頼が来るようにして、業務知識を補うことができた事例を紹介した。情シスがkintoneを使えれば、業務部門とのヒアリングをしながら試行錯誤してリアルタイムでアプリを作っていくことができ、定型業務の効率化が安価に実現できるという。効率化施策とは業務部門にとっては既存業務をやりにくくする施策ともなり敬遠されがちであるが、その壁を乗り越えるために「kintoneが情シスの武器になる」と例えた。
後半、栗山氏は経済産業省のデジタルトランスフォーメーション(DX)レポートについても言及した。DXレポートでは、2025年にはIT人材が約43万人不足するシナリオが指摘されている。「めっちゃチャンス。ここから情シスは攻めの時代」だと栗山氏は会場に呼びかけた。「貴重なIT人材である皆さんは怖い物なし」でやりたいことをやれる時代になるのではないか、と続けた。
そして「2025年に不足する人材を補うためには、非IT人材をIT人材に育成することが大事」と指摘した。貴重なIT人材である情シスが、今後は非IT人材である業務部門の社員に対して人材育成のサポートをする役割を担うと良いと提言した。
ひとり情シスのキモは効率にあり ~「手をかけるトコ、かけないトコ」~
ソフトクリエイトホールディングスの長尾聡行氏が登壇し、同社の“ひとり情シス”として業務の分類とそれらの効率化事例が発表された。
ソフトクリエイトは、システム運用サポートや業務効率化などを手掛けるいわば情シスのための企業である。長尾氏はその中で、同社のノウハウを実活用して情シス業務をこなす人物だ。そして「“ひとり情シス”のショールームになろうとしている」と話す。
最初に、情シス業務が多岐にわたり、特に手間とコストのかかるセキュリティ業務が重なることの厳しさを訴えた。
こうした“全部できるわけがない”業務をどう効率化していくか。まずは手のかかり具合やどこに力を入れるべきかで業務タスクを分け、手がかかるが省力化したいところと、現状手をかけられていないがもっと取り組むべきことを抽出することだ。
そして、それらのジレンマを解決するには、長尾氏は「やめる勇気を持つこと、自動化と省力化、アウトソーシング」が鍵だと語る。プラットフォームをオンプレからクラウドに移行したことを始め、省力化できるツールを積極的に採用していったという。そして業務の手間を削減すれば業務部門からも歓迎され、セキュリティが向上すれば企業全体にとって良い結果となるとまとめた。
業務分類の詳細や、同社で導入したシステムやセキュリティ施策については、今後また別記事上でふれることとしたい。
情シスHERO’s 情シス集合!クラウド活用トークセッション
AB&Companyの江木壮太郎氏らをパネリストに迎え、株式会社マイナビの星野康一氏をモデレータとしたトークセッションが行われた。
ここでは、情シスを体験してきた両氏のこれまでの苦労やセキュリティ・クラウドをどう利用してきたかなどの話題が挙げられた。
(AB&Company 江木 壮太郎氏 他)
美容院の全国展開を行っているAB&Companyでフランチャイズ含め全国店舗のインフラ整備、情報共有システム構築を行った江木氏は、もともとITへの理解が進んでいなかった業界でユーザーのIT利用に対するハードルが高かったとも明かした。「フランチャイズの個人営業店では、開業したばかりで資金がなく、PCすら買えないという店舗も多かった」と語る。江木氏はMicrosoft365を導入し、店舗間のコミュニケーションを取れるようにしたという。
その他のパネリストからは「事業部が多いのにも関わらずファイルサーバがなく、ネットワークすら満足な環境ではなかった」という声もあがった。特に顧客データベースがなかったことで機会損失や無駄なコストを招いていたとして、インフラ整備の重要性を業務部門に懇々と訴えたという。
セキュリティに対する課題としては、両氏ともハードルを感じていたようだ。江木氏は外部からセキュリティの専門家を招きアウトソーシングした事例を挙げた。そして、人事情報を扱う企業などでは、細心の注意を払いセキュリティにはコストをかけるべきと経営陣へ提案したという事例も聞かれた。特に「同じような事故が連続して起きたときなどのタイミングで、経営層へソリューションの提案をしていた」と、予算を勝ち取りやすいタイミングを狙ったとのことであった。
また、内部の人間が情報を盗み出そうとしていた事案が発生したことで、システム側での整備もだが従業員へのセキュリティ教育も重要であると語った。
”情シス一斉調査2019”から見える情シスの現状
講演のラストを飾ったのはハイブリィド株式会社の神谷太郎氏。情シス一斉調査2019の中間報告をベースに情シスの現状にメスを入れ、人材不足と言われている”情シス”人材確保についての提案を行った。
(ハイブリィド株式会社 神谷太郎氏)
情シス一斉調査2019とは
PCNW(「PC・ネットワークの管理・活用を考える会」の略称。日頃から社内のシステム管理に悩みを抱えている情報システム管理者の方を対象とした「情報収集・意見交換」の集い)及びユナイトアンドグロウ株式会社、ハイブリィド株式会社の3団体が共同で実施した、”情シスの今”を知るためのアンケート。
2017年に続き、第2回を2019年(実施期間:9/1~9/30)に実施。
調査結果によれば、男女構成比は予想通りの10%未満。情シス人材構成比も約1%とこれまでそんなところであろうといわれてきたことが、数字として証明されたことになる。
年齢構成についても、おおむね想定した通りの結果であったが、グラフとして目にすると年齢構成の高さは以上と言わざるを得ない。
しかしながら、予想になかったのは人材流動性。「転職経なし」「1回」がその半数以上を占め、結果的に勤続年数も長いということが分かった。
この実情を踏まえると企業が求める採用希望者(30代、リーダー候補、ミドルレンジ)と市場にいる転職希望者(40~50代、ミドル/アッパーレンジ)には乖離があり、人材不足と言われているのかもしれない。
また、神谷氏によれば「現実的に市場から理想的な情シス人材を見つけることは困難」であると言い、企業側も情シスとして新卒採用をしてこなかったことや転職業界も「情報システム部門」という職種を考慮してこなかった結果と考えている。
その解決策の一つとして、「ペア採用」を挙げていた。
これは、市場から獲得できる40~50代と新卒または未経験者をペアで採用する取り組みである。5~10年で人材を育てることで、次の世代へつなぐというものであった。確かに40~50代の給与は高いが、新卒または未経験者とペアとすることで、平均給与としては企業が希望している”30代ミドルレンジ”枠にはめることも可能だ。
神谷氏は最後に「情シスの未来は、情シスの手の中にある」とし、受け身ではなく、積極的な経営関与により、より良い情シスを目指そうと締めくくっていた。
講演資料はこちら
まとめ
数々のセッションで共通して聞かれたのが「新技術利用とアウトソーシング活用の重要性」と「業務部門との折衝に苦労した」という話であった。
技術面では、クラウド利用はもはや標準装備ともいえるであろう。また、効率化ツールや統合型セキュリティ製品の利用が進んでいることをうかがい知ることができた。定型的な作業はAIやツールに任せ、人間はそれらの結果をつないで人間にしかできないことに注力するというスタンスが理想のようだ。
そして折衝面では、部門間の軋轢をいかにうまく乗りこえていくかが情シスの腕の見せ所ともいえるのかもしれない。セッションでは「根気よく説明する」「改善の成功例を見せる」「インシデントのあったタイミングで訴える」と様々な手法で乗り切った事例を聞くことができた。また今後のデジタルトランスフォーメーションに際して情シスが改革を引っ張る立場になりうるという意見も複数聞かれた。
これからの時代の情シスは、技術面でも企業活動の面でも、人(部門)とITをつなぐハブのような存在であるべし、というメッセージが見えた気がする。
【執筆:編集Gp 星野 美緒】