国民投票法審議 改憲急ぐ必要あるのか

2020年11月30日 07時24分
 改憲手続きを定める国民投票法改正案の実質審議が衆院憲法審査会で始まった。約二年半前の提出以来初めてだが、コロナ禍で改憲より優先すべき課題が山積している。成立を急ぐ必要はない。
 国民投票法は、改憲案が衆参両院でそれぞれ総議員の三分の二以上の賛成を得て発議された後、改憲の是非を問う国民投票の手続きを定めたもので、第一次安倍政権下の二〇〇七年に成立した。
 今回の改正案は、駅や大学、商業施設でも投票できる「共通投票所」導入など七項目からなる。一八年六月に提出されたが、提案理由が説明されただけで実質審議は行われていなかった。
 投票方法の利便性を、ほかの国政選挙などと同じ水準に高めるものだが、運動期間中のテレビCM規制の在り方や、一定の投票率に達しない場合に無効とする「最低投票率」導入の是非などを巡る議論は改正案に反映されていない。
 野党の立憲民主党や共産党は、さらなる議論が必要だとし、この改正案の採決に反対している。
 自民党が国民投票法改正案の成立を急ぐのは、「二〇二〇年を、新しい憲法が施行される年にしたい」との意欲を表明していた安倍晋三前首相の退陣後も、改憲に積極的な姿勢を示し、支持層をつなぎ留める狙いもあるのだろう。
 ただ、新型コロナウイルスの感染が急増し、政治が今、最優先で取り組むべきは感染拡大の阻止と国民の雇用や暮らしの維持、向上にほかならない。「桜を見る会」を巡る疑惑や森友・加計問題などで損なわれた政治や行政への信頼回復も急がねばなるまい。
 改憲を必要とする切迫した状況ではなく、国民から改憲を求める声が湧き上がっているわけでもない。改憲がほかの課題に優先すべきだとはとても思えず、与党や日本維新の会などが改正案の成立を急ぐのは理解に苦しむ。
 菅義偉首相が改憲に「挑戦していきたい」としながらも安倍氏ほど積極的だと感じられないのは、国民生活に密着した課題が山積しており、それらへの取り組みを改憲より優先すべきだと判断しているからではないか。
 改憲は、与党や同調する勢力だけで進めるのではなく、少なくとも野党第一党の協力が必要だ。
 衆参両院の憲法審査会では、与野党間の信義が重んじられ、改憲に前のめりな安倍自民党時代ですら、審議を一方的に進めることはなかった。そうしたよき慣行は、これからも維持すべきである。

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