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大統領選でQアノン台頭 米福音派に近く日本も注意を

東京大教授 堀江宗正氏

時事評論2020年11月13日 17時06分

米国大統領選挙が終了した。落選したトランプ候補は選挙の不正を訴えるが、デマとして扱われている。

選挙中に見えてきたのはトランプ支持者にQアノンの陰謀論が浸透していることだ。2018年頃、匿名掲示板4チャンなどから、「Qクリアランスの愛国者」「匿名のQ」(Qアノン)という名前で、デマが拡散するようになった。Qクリアランスとは政府の機密情報を知ることができるという意味である。彼らはQドロップという暗号のような投稿をし、閲覧者がそれを解読する形で拡散する。

その前身は16年の大統領選で出たデマ「ピザゲート」。あるピザ屋でクリントン民主党候補陣営が小児性愛者と連絡し、人身売買を行っているというものだ。人の血と体液を飲む悪魔崇拝の儀式もしたとされる。それを信じた男が子どもの解放のために銃撃するという事件まで発生した。

Qアノンの名が知られるようになってから、2件の殺人、1件の児童誘拐、山への放火、橋の封鎖、工場の占拠が行われ、FBIはテロの懸念を表明した。彼らはトランプを「闇の政府」を一掃する救世主と崇めるようになる。一方、トランプはQアノンに関連するツイート129件を8月までに引用またはリツイートした。

Yahoo!ニュースとYouGovの調査ではトランプ支持者の半数がQアノンを信じている。これは米国民の4分の1に相当する。しかし複数の世論調査では7%程度の支持という結果である。調査時期や質問文に左右される流動的で曖昧な支持だと言える。

福音派信者への浸透も指摘される。牧師がQアノンを紹介した事例は複数確認されている。投稿で聖書が引用され、終末論や黙示録の様相を呈する。しかしトランプを救世主とするなど、明らかにキリスト教から逸脱している。オーストラリアのM・セイヤーズは、コロナ禍で物理的に教会から離れた信者たちに一体感をもたらし、急速なキリスト教信者減少の間隙を埋めたポスト・ポスト・キリスト教だとする。

Qアノンはトランプ同様にコロナを否認し、欧州でもマスクをしない過激なデモ活動を展開している。日本でも11月3日頃、大統領選の結果が出ていないのに「#トランプ大統領勝利」「#日本の準備は整いました」というタグのツイートが一斉に投稿された。「神の計画が無事に成就」「闇が光に包まれて、浄化」「世界が平和で楽しい地球時間に」「みなさんのおかげで、よりポジティブに」など、既存のアセンション主義(2012年以後の地球の次元上昇の主張)と似た言葉づかいで、広がっていることがわかる。日本では反中勢力もトランプを救世主扱いしており、メディアと政治家を巻き込んで融合しそうだ。

情報科学者は、SNS管理会社を巻き込む情報疫学の対策を提言する。スーパースプレッダーの隔離と、偽情報発生段階でのファクトチェックによる免疫獲得である。同時に宗教指導者による批判も有効だ。グラハム牧師を輩出したホウィートン大のE・ステッツァーなども警戒を呼びかける。日本の教団も、信者がのっとられないか注意が必要であろう。

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