本日発売の「週刊朝日」に気になる記事がありました。
電車内の中吊り広告では「幻のレンブラント」の写真まで載っていて
ひと際注目を浴びている様子。早速釣られて「週刊朝日」を購入。
週刊誌買うなて、いつ以来でしょう。
320円也。
さてさて、くだんの記事とは、これ。
「毎日新聞が「世界的スクープ」と自賛した
「幻のレンブラント」報道のお粗末」
p.128から4ページほどの記事です。
まずはおさらいから。
今年の3月16日、毎日新聞朝刊に「幻のレンブラント」作品が
大阪で「発見」されたという記事が掲載されました。
MSN毎日インタラクティブに残っていたキャッシュから。
レンブラント:「黄金の兜の男」真作か 大阪の社長が所蔵
オランダ最高の画家とされるレンブラント本人が描いた可能性のある「黄金の兜(かぶと)の男」という作品を、大阪市の会社社長が所蔵していることが14日分かった。油彩画修復の第一人者で、美術史家の黒江光彦・元国立西洋美術館主任研究官が鑑定した。長年真作と考えられてきたドイツ・ベルリン国立絵画館の「黄金の兜の男」は、弟子による工房作と86年に結論づけられ、真作の存在は謎のまま。黒江元主任研究官は、所蔵者の了解を得て、オランダ「レンブラント調査委員会」で評価を受けたいとしている。
作品は、縦75.8センチ、横56.1センチで、ベルリンの作品よりやや大きい。社長が昨秋、亡くなった父親のコレクションを整理していて偶然見つけ、鑑定を依頼。黒江元主任研究官は、エックス線調査や、キャンバスの張り方など、約2カ月かけて詳細に観察・検討した。
その結果、キャンバスを強く張るための工夫として、木枠の四隅にくさびを打ち込んでいることが判明したほか、キャンバスに地塗り顔料をへらでぬり込むレンブラント手法の特徴を確認した。
さらに顔の立体感を表現する入念な筆遣いや、兜表面の細部を正確に写す切れ味鋭い技法が、レンブラント芸術中期の技法に合致。署名などはないが、表面のひび割れの状態などから、350年以上前のレンブラント一門による作品の可能性が高いと判断した。
黒江元主任研究官によると、工房作と断定されたベルリンの作品と、今回見つかった作品の構図はほぼ同じだが、陰影の表現に大きな違いがある。ベルリンの作品に比べて、よりコントラストを強調し、兜や顔を浮き立たせているという。
【高橋一隆】
◇レンブラント・ファン・レイン 1606年7月、古都ライデン生まれ。陰影に富んだタッチから「光と影の魔術師」とも呼ばれ、工房では多くの弟子を抱えた。しかし、妻の死や破産などで悲劇的な運命をたどり、1669年10月、63歳で生涯を閉じた。「トゥルプ博士の解剖学講義」などの作品がある。
毎日新聞 2007年3月16日 3時00分
↑の記事には画像も掲載されていました。
これが新発見?のレンブラント作品。
大阪市内で発見された「黄金の兜の男」
記事中にある今回見つかった作品の構図とほぼ同じで「レンブラント調査委員会」により工房作と断定されたベルリンの作品とはこちら。
ベルリン国立絵画館蔵 1650年頃
「あれ~この作品観たことあるような気がする……」
きっと上野でご覧になったのでは?
国立西洋美術館で開催された「レンブラントとレンブラント派」展(2003年 9月13日~12月14日)にこのベルリン国立絵画館蔵の「黄金の兜の男」しっかり展示されていました。
さて、さて毎日新聞さんの記事に話題を戻して。
↑の記事がスクープとして3月16日付けで掲載された4日後の6月20日に大阪のホテルで鑑定した黒江氏、大阪市の会社社長さんと息子さんの三人が、揃って記者会見を開いたそうです。この様子も毎日新聞さんは以下の記事で伝えています。
レンブラント:大阪で発見の真作絵画、下にキリスト像
大阪市内で発見されたオランダの巨匠・レンブラント(1606~69年)の真作である可能性が指摘されている 「黄金の兜(かぶと)の男」という作品の下に、キリストとみられる人物像が描かれていたことが、新たに分かった。
特殊暗視カメラによる観察で判明したもので、制作段階で構図を変更した「ペンティメント」(描き直し)らしい。 同市内で20日に開かれた会見で、鑑定した黒江光彦・元国立西洋美術館主任研究官が明らかにした。黒江元主任研究官は「ペンティメントを確認できて、限りなくレンブラント真作に近づいた」と語った。
キリスト像は兜右側の陰影の下に描かれていた。くぼんだ目に特徴があり、祭服を着て座り込んでいるように見えるという。 粗描のまま描くのを中断し、その上から褐色の絵の具で塗りつぶしたらしい。 黒江元主任研究官は、当初、兜の正面飾りの紋章として像を描いたものの、全体の構図を考えて、描き直したと推測している。
レンブラントは、熱心なキリスト教信者であったことに加え、ペンティメントは主にオリジナル作品だけに見られることから、 黒江元主任研究官は「レンブラント調査委員会の評価を受けるに耐えうる作品」と説明。また右下に署名のような文字も見つかったが、詳細は分からないという。
会見には、絵を所有する大阪市の建設会社社長、木下兼治さんも同席。
木下さんは「父の遺品で大切なもの。オランダに長期間持ち出すことは考えていないが、オランダから調査に来るなら協力したい」と話した。
「兜の男」の真作と考えられてきたドイツ・ベルリン国立絵画館の作品は86年に弟子による工房作と断定され、真作の所在は今も不明。 黒江元主任研究官の鑑定で、真作の可能性が浮上したことが今月16日の毎日新聞で初めて報道され、黒江元主任研究官らがこの日会見を開いた。 【高橋一隆】
毎日新聞 2007年3月21日 0時19分
二人の間に少し齟齬が表れているのが分ります。鑑定した黒江氏は最初の記事で「
オランダ「レンブラント調査委員会」で評価を受けたいとしている。」とし再度記者会見でも「
「レンブラント調査委員会の評価を受けるに耐えうる作品」と説明。」と発言しとにかく自分が観た感じではレンブラントの真作っぽいが、オランダの「レンブラント調査委員会」Rembrandt Research Project (RRP)にその評価を仰ぎたいと語っています。ここのお墨付きが得られないとレンブラントの真作とは言えない強い権限を有している委員会です。
先程画像をアップしたベルリン国立絵画館の「
黄金の兜の男」だってこの委員会の調査を受ける前までは正真正銘のレンブラントの真作として世界中に名を馳せていた有名な作品だったのです。泣く子も黙る「RRP」.
ところが、今回「発見」された絵の「所有者」である木下氏は記者会見でこう語っていらっしゃいます。「
父の遺品で大切なもの。オランダに長期間持ち出すことは考えていないが、オランダから調査に来るなら協力したい」
何やらとってもとっても消極的な発言です。黒江氏とのこの温度差は一体何?
そもそも「
父の遺品で大切なもの。」と言ってもこの作品「
昨秋、亡くなった父親のコレクションを整理していて偶然見つけ」たわけで…「
オランダに長期間持ち出すこと」くらい痛くも痒くもない話だと思うのは素人考えかな?
で、今から思うときな臭いお話の内幕を今週号の「週刊朝日」が暴露しています。
「毎日新聞が「世界的スクープ」と自賛した
「幻のレンブラント」報道のお粗末」
詳しい内容はここでは書きませんが、読んでビックリです。
少しだけさわりを。。。
・「父親のコレクション」から偶然見つかった絵ではない。
・そもそもこの絵、大阪市の会社社長のものではない。
これだけでも全く違った話になります。更にもっと凄い内容も。
とてもここでは書けません。本屋さんへgo!!
因みに昨夜、早速、毎日新聞さん名誉毀損だ!と報じています。
名誉棄損:毎日新聞社が「週刊朝日」に抗議文
毎日新聞社は9日、「週刊朝日」(朝日新聞社発行)7月20日号の電車内つり広告や同社のホームページの見出しなどで「本紙の名誉を著しく傷つけた」などとする抗議文を朝日新聞社に送った。
毎日新聞は今年3月16日朝刊で、油彩画修復の国内第一人者と評価される美術史家が、鑑定した油彩画について、オランダの画家・レンブラントの真作の可能性が高いと結論付けたことを報じた。
週刊朝日は、同号で絵の所有者などに関する記事を掲載。一部広告で、この記事に「毎日新聞 幻のレンブラントのでたらめ報道」との見出しを付けた。毎日新聞は抗議文で、「美術史家の鑑定に基づいた記事について、あたかも根拠のない報道であるかのような見出しで、名誉を著しく傷つけた」と抗議。見出しの撤回、謝罪を求めた。
▽山口一臣・週刊朝日編集長の話 記事には自信を持っており、広告の見出しも問題ないと考えています。
毎日新聞 2007年7月9日 20時02分 (最終更新時間 7月9日 21時46分)
一言だけ。
「美術史家の鑑定に基づいた記事について、あたかも根拠のない報道であるかのような見出しで、名誉を著しく傷つけた」と抗議。
と記事中にありますが、美術史家って当然、何度も登場している黒江光彦氏ですよね。それが一番の地雷かもよ。毎日さん。ここ数年の黒江氏についてのことは調査済みですよね??
「週刊朝日」の記事はこう締め括られています。
「
この記事(毎日新聞の記事)は、多くの美術愛好家や研究者に誤解や混乱を招く結果になったのである。」
迷宮のレンブラント【字幕版】
ジェイソン・パトリック
追記:2007年8月8日付けの毎日新聞にこんな記事がありました。
「開かれた新聞:座談会 世の空気に流されず、公正な検証と批判を」
◇絵画報道訂正記事、経緯を報告
本紙は3月16日朝刊で「オランダの巨匠・レンブラントが描いた『黄金の兜(かぶと)の男』の真作の可能性がある絵画が大阪で見つかった」との記事を掲載しました。この中で、絵画は「大阪市の会社社長が亡父のコレクションとして所蔵」と記述しましたが、事実ではないことが分かり、7月31日朝刊に訂正記事を掲載しました。その経緯を報告します。
記事を書いた記者は今年2月中~下旬、知人の社長から「亡父のコレクションからレンブラントの絵が見つかった。著名な美術史家に鑑定してもらう」と聞かされました。美術史家は3月以降、鑑定実施。記者は美術史家に5~6回取材、「真作の可能性がある」との鑑定結果を記事にしました。
美術史家は多くの西洋美術に関する著作や油彩画修復の実績があり、鑑定は、エックス線や暗視カメラを使った科学的手法も取り入れて行われました。鑑定結果は記者会見でも公表されました。7月に入り、一部週刊誌が本紙記事の疑問点を報じ、本紙はその見出しに抗議しました。
絵の来歴に関しては、実際は社長が知人の絵を一時所持していたもので、絵は5月上旬に社長の手元から離れたことが判明。社長は再取材に対して、当初の説明が事実ではないことを認め、「あちこちに出回った絵であるかのような印象を持たれたくなかったので、事実を言わなかった」と話しました。
結局、記者は鑑定結果を中心に記事を書き、絵の来歴に関しては、社長の事実ではない説明を基にして裏付け取材が欠けていました。また、原稿を点検するデスクも記者の取材不足を発見できませんでした。これらの点で問題があったことを教訓とし、取材の基本を忠実に守ることを肝に銘じなければならないと考えています。【大阪本社社会部長・若菜英晴】