*.暗雲
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薄暗い部屋。
視界を助けるのは魔法陣の四隅にゆらめく蝋燭の炎のみ。
夜空に月はなく、わずかに輝く星明かりもぶあつく覆われたカーテンのせいで部屋には届かない。
刻々と形を変える炎の影が、蛇の舌のように青白い頬をねぶった。闇に溶け込む漆黒の瞳と髪を持つ男はやつれた様子で魔法陣を見つめている。
ひびわれた唇から細い声がこぼれた。
「古の王よ、魔族の長たる存在よ、いまここに顕現し賜え。我が身を贄に捧げん――」
詠唱のつむがれるごとに、ごぼり、ごぼりと音を立て、魔法陣からどす黒い
やがて闇に包まれた男の肌は同じく黒く染まりはじめた。皮膚を侵食した魔力は骨の内側にまで到達する。
激痛にうめきながらも、薄い唇は笑みを表して歪んだ。
「待っているがいい……エリザベス……」
狂気じみた瞳が壁にかけられた肖像の微笑をとらえた。
次の瞬間、男の姿は消えていた。
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