中国の海洋進出 言行不一致が過ぎる

2020年11月28日 08時14分
 中国は東アジア首脳会議(EAS)で「南シナ海の平和を守る」と強調した。一方、海上警備を担う海警局に外国船舶へ武器使用できる新権限を与えるなど、実効支配を強める動きが気がかりだ。
 オンライン方式で今月中旬に開かれたEASで、米国のオブライエン大統領補佐官(安全保障問題担当)は、南シナ海などで「中国の行動が平和と安定、(周辺国の)主権を脅かしている」と批判した。
 中国は今年、南シナ海で弾道ミサイルを発射する軍事演習などを強行した。米国だけでなく、日本や東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国もEASで懸念を表明したのは当然である。
 これに対し、中国の李克強首相は「中国は南シナ海の平和と安定を守ると強く決意しており、国際的な舞台での法の支配を擁護し、推進している」と強調したが、実行が伴ってきたとは言い難い。
 南シナ海での領有権をめぐる紛争を防ぐために重要なのは、法的拘束力のある「行動規範」の早期策定である。李首相は二〇一八年末、「三年以内の交渉妥結」を表明したが、中国の軍事演習や人工島建設強行こそが、策定交渉のブレーキになってきた。
 さらに懸念されるのは、中国の全国人民代表大会(国会)が今月公表した、海警法草案である。中国が管轄する海域で違法に活動し、停船命令などに従わない外国船舶に、海警局は武器を使用できる−などと規定された。中国側の一方的な判断で武器使用できるような権限強化を、ASEANは強く警戒している。
 東シナ海情勢への影響も深刻だ。二十四日の日中外相会談で、日本側は沖縄県の尖閣諸島問題で懸念を示したが、来日した王毅外相は「日本漁船が頻繁に敏感な海域に入っている」と反論した。日本領海に中国漁船の保護を名目に海警局船舶などが侵入するケースが目立っているのが実態であり、新権限によって不測の武力衝突すら招く危険性もある。EASで菅義偉首相が南、東シナ海について「法の支配、開放性と逆行する動きが起きている」と、中国を念頭に批判したのは当然だ。
 十月下旬に北京で開かれた共産党の重要会議「五中全会」では、南シナ海での敵国空母の航行阻止を想定した軍事訓練など「戦争に備えた訓練の全面強化」が確認されたという。EASという国際会議で李首相が明言した「平和と安定を守る」という約束と、言行不一致が過ぎるのではないか。

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