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2020年11月号

クラーケンを解き放て!

テレビ朝日アメリカ 社長  武隈 喜一

 11月13日の金曜日、Foxビジネスネットワークに出演した弁護士シドニー・パウエルは、トランプの調査チームは不正投票の大量の証拠をもっていて、カギとなる州の選挙結果を覆すために、その証拠を公にする計画がある、と語った。トランプ政権発足当時の国家安全保障補佐官マイケル・フリンの顧問を務めるパウエル弁護士は「何十万という不正な票がある。トランプ大統領は今回の選挙で地滑り的勝利を得ているのだ」と述べ、選挙の不正はシリコンバレーの巨大企業やソーシャルメディア企業、メディアによって入念に準備され実行された、と語ったあとで、こう言った。
「わたしはクラーケンを解き放つ!」。

  トランプ支持者の合言葉に

 パウエルが出演したこのインタビュー映像は瞬く間にTwitterとYouTubeを席巻し、4日間で130万ビューを記録した。そして「クラーケンを解き放て!」は陰謀論ネットのトランプ支持者たちの合言葉となっている。
 「クラーケン」とは北欧の伝説に伝わる海の巨大な怪物で、船を転覆させて海に引きずり込むと信じられていて、オオダコやクジラの姿で描かれることが多い。
 トランプ支持者たちによれば、今回の選挙では、激戦州でDominion Voting Systemという集票機械が使われていて、これはベネズエラのチャベス大統領が選挙で不正を行うのに使ったのと同じ機械で、世界中でこの機械を使って、不正が行われているのだと言う。「クラーケン」はバイデン陣営の不正を暴く巨大な証拠なのだ。
 TwitterやFacebookでは、このパウエル弁護士の映像と発言はガイドラインに抵触しないとして、野放しのままになっている。そして右翼のメディア活動家たちは映像とともにこの合言葉を盛んに拡散している。
 たとえば、インターネット右翼活動家オーステン・フレッチャーは「パウエルは素晴らしい女性だ。〈クラーケン〉が解き放たれた時、誰が真実を求めていたかをアメリカは理解するであろう」と語っている。フレッチャーは、新型コロナウイルスはリベラル左翼とシリコンバレーとグローバル・エリートたちが作り出した支配のための道具だとプロパガンダし続けている。
 見た者は誰でも海の中に引き込まれるという怪物「クラーケン」は、はたしてその姿をあらわすのだろうか。



※Foxビジネスでのパウエル弁護士(右・女性)の映像

(2020.11.17)



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武隈 喜一

テレビ朝日アメリカ 社長

1957年東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科、
東京大学文学部露西亜文学科を卒業後、出版社、通信社などを経て
1992年テレビ朝日入社。1994年から1999年までモスクワ支局長。
2010年から12年まで報道局長。2016年7月からテレビ朝日アメリカ社社長。ニューヨーク在住。

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