モモンガ冒険譚!!   作:ブンブーン

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大分遅くなりました
申し訳ありません

誤字報告・コメント誠にありがとうございます。


第19話 傭兵の塒へ

ーーーー

俺はイグヴァルジ。

自称エ・ランテル最高の冒険者チーム『クラルグラ』のリーダーを務めている。

 

先ずハッキリ言っておく…

今の俺は最高にイラついてる。

 

何故かって?

 

あのモモンガとか言う新米冒険者の所為だ。

 

先日起きたエ・ランテル共同墓地での騒動の一件以降、奴はエ・ランテルの英雄様となり周りからチヤホヤされている。

 

俺が欲しかった『英雄』の称号を奴はたった一度の功績で手に入れやがったんだ。

 

秘密結社ズーラーノーンの悪巧みを打ち破った?

数千体のアンデッドの大群を単身で突破した?

骨の巨人(スケリトル・ジャイアント)2体を相手取り撃破した?

 

ハッ!それがどうした!

 

そんなの俺たちだって本気を出せばやれた筈だ。なのに周りの連中ときたらどいつもこいつも…いやまぁ、スケリトル・ジャイアント2体同時は正直…あ、いやいや!絶対俺らにも出来た!

 

オマケに飛び級で銅級(カッパー)からミスリル級だと〜?

 

ふざけんのも大概にしろ!!

 

俺達がどれだけ苦労してこの階級にまで昇り詰めたか分かってんのか!?

 

なのに組合長や都市長、他の冒険者共も奴の飛び級は妥当だと言いやがる。更にオリハルコン級でもおかしくないだと!?

 

まぁいい…それもこれも今回の依頼で全てハッキリするさ。

 

組合長達からの個人的な要請で奴の実力の程を改めて探れと言われた。

 

奴の化けの皮を剥がしてやるぜ。

今に見てろよ〜…ヒヒヒヒ

 

 

 

 

ーーーーー

移動に数日を要したが無事にモモンガら一行は『死を撒く剣団』の(ねぐら)へ到着した。

 

洞窟をそのまま利用した塒の出入り口らしき場所には2名の傭兵が見張りをしていた。他にも丸太を使ったバリケードを構築している様子から内部もそれなりに人の手が入っている事だろう。

 

 

「思ったよりも大きな洞窟ですね。これじゃあ事前情報よりも人数は多いかも知れません」

 

「へっ関係ねぇよ。なんだ、ビビってんのか?」

 

 

塒から少し離れた森から様子を伺うモモンガとイグヴァルジ。鉄級冒険者チームの『盗賊』とクラルグラの『野伏』が共同で塒周囲を偵察し情報を集めている。

 

今は彼らが戻って来るのを待っている状況だ。

 

 

「あの2人腰に大きめの鈴をぶら下げてやがるな。チッ!厄介だ」

 

「下手に突撃すれば鈴を鳴らされて洞窟内から増援が現れる。更に武器を準備させる時間も与えてしまう…ですよね?」

 

 

イグヴァルジは少し驚いたようにモモンガへ目を向けた。まさか新米冒険者の、それも戦士系であろう奴がそこまで敵を見て分析しているとは思わなかった。

 

純粋に先輩冒険者として素直に評価した。

 

 

「ほう、よく分かってんじゃねえか。ただの突撃バカじゃないようで安心したぜ」

 

「それはどうも」

 

「それに、近づこうにもここら一帯の木々や茂み、岩も綺麗さっぱり片付けられちまってるな。これじゃあ堂々と真正面からはそもそも難しい」

 

「やっぱり罠も張ってあると思いますか?」

 

「当然だ。あるに決まってんだろ」

 

 

そこへ丁度偵察に出ていた連中が戻って来た。

 

 

「足跡の数から見て少なくとも敵は50人前後、数は組合の情報通りだと思う。それと出入り口は正面に一つだけ。落とし穴系の罠が合計で5つはある。」

 

 

待機していたメンバー達は「なるほど」と頷いていた。出入り口と罠まで把握さえすれば、あとはさして難しくは無い。

 

傭兵達を撃破すれば良いだけだからだ。

 

しかし、事前に死の盗賊(デス・シーフ)達に調べて貰っていたモモンガは心の中で溜息を吐いた。彼らの調査は少々お粗末に過ぎる。

 

 

(出入り口は今見えてるのを含めて2つ。ここからもう少し奥ばった所に隠し通路がある。それから罠はー)

 

「いや、違うな」

 

 

突然、イグヴァルジが割って出て来た。

 

 

「罠は俺の見立てだと少なくとも8つはある。その内の2つは鳴子式の罠だ…ったく、半端な調査しやがって」

 

「な、なるほど…」

 

 

これにはモモンガも感心した。

 

道中は嫌味ばかり言って来る為、モモンガの中で彼の評価はあまり良くない。しかし、罠の数と種類をここから眺めていただけで正確に把握出来るあたり流石はミスリル級と言ったところだろう。

 

そういえば彼は『野伏』の中位職である『森渡り(フォレスト・ストーカー)』を修めているらしい。

 

『森渡り』はユグドラシルで森林地帯で一定数レベルを上げると選択出来る比較的初期枠の職業の一つで、ドルイド系の特殊技術(スキル)を扱えるのが大きな特徴だ。

 

もっともモモンガにとっては何の魅力もない職業であるが…

 

 

「それから出入り口は少なくともあと一つはあるはずだ。連中は悪行もやる傭兵団だぞ?攻め込まれた時の抜け道の1つや2つはある筈だ。」

 

 

やはりレベルや職業に関係なく『経験』と『知恵』で足りない部分を補う事は出来るようだ。

単純な強さだけで敵の技量をまで見破るのは、今のモモンガでは難しい。この辺も後でクレマンティーヌあたりに聞いてみようと思う。

 

このままでは勘付かれた時に逃げられる可能性がある為、イグヴァルジが再度調べ直すべきだと進言して来た。

 

そこでモモンガは懐(のように見せて実は無限の背負袋(インフィニティ・ハヴァサック))から2つのアイテムを取り出した。

 

 

「これを其々のチームにお渡しします」

 

「な、何だこれ?」

 

 

それは木の葉を模ったアクセサリーだった。

 

 

「これには《伝言(メッセージ)》の効果がこめられています。これさえあれば《伝言》が使えなくても遠くから互いにやり取りが出来るはずです」

 

 

皆がそのマジックアイテムを見て驚愕した。第3位階の魔法が込められたマジックアイテムなど中々お目にかかれるモノではない。そんな貴重なモノを2つも所持し、しかも当たり前のように貸し出してきたのだ。

 

 

「お前…こんなモノどこで?」

 

 

イグヴァルジは驚きとも呆れてとも取れる表情で聞いてきた。

 

 

「た、旅の途中で見つけた…遺跡から」

 

「…ほ、本当に使えるんですか?」

 

 

鉄級の女性冒険者のブリタが震える手でマジックアイテムを持ちながら聞いてきた。話を聞くより試してみろだ。早速その効果をモモンガは彼らに見せた。

 

 

《聞こえますか?》

 

「き、聞こえます」

 

 

モモンガはマジックアイテム向けて《伝言》を使うと、木の葉を模した金属部から彼の声が聞こえた。周りからは「おぉー」と言う声が聞こえる中、舌打ちも混ざっていた気がする。

 

 

「ではこれを」

 

「あっは、はい」

 

 

ブリタの鉄級チームとイグヴァルジのクラルグラに1つずつ手渡した。しかし、なぜか皆の顔は何処か不審がった目でマジックアイテムを見つめていた。

 

 

(あ、あれ?なんかやっちゃったかな?)

 

 

実はモモンガも知らない《伝言》に関するある出来事がこの世界で昔起きており、その所為で1つの国が滅びていたのだ。それもあって彼ら含めこの世界の大体の人々は《伝言》を便利とは思ってはいても信用はしていない。

 

しかし、《伝言》含め第3位階の魔法が込められたマジックアイテムは希少だ。それを簡単に貸してくれたモモンガの手前、無闇矢鱈と「信用出来ない」と言って返すことに気が引けていたのだ。

 

 

「えっと…な、何か?」

 

「い、いえ!使わせて頂きます」

 

 

鉄級チームはリーダーが震える手で懐へ仕舞い、クラルグラはイグヴァルジが持つ事となった。

 

再度調査した結果、裏手に抜け道がある事が分かった。勿論、デスシーフは先に見つけているしモモンガも把握していた。

 

 

「それじゃあ、鉄級チームはそのままあの正面入り口を見張ってろ。俺たちとモモンガは裏手から傭兵を仕留めていく。討ち漏らしが出て来たら、可能ならそっちで対処しろ」

 

《了解》

 

 

早速モモンガが手渡したマジックアイテムを使っている。どうやら使い心地は良いようだ。後でクラルグラのメンバーから聞いた話では、普通の《伝言》はもっと雑音が混じっていてよく分からない事も珍しく無いらしい。

 

それはユグドラシルでは無い現象だった。

 

裏口は岩に見せかけた張りぼてで塞がれていた。外す前にイグヴァルジがユグドラシルには無いマジックアイテムの罠解除の鐘(ベル・オブ・リムートトラップ)を取り出した。

 

手持ちサイズの鐘で彼が振るとチリーンという音が鳴り響いた。

 

 

「よし、開けるぞ」

 

 

どうやら罠はちゃんと解除出来たらしい。早速張りぼてを取り外すと、岩肌で凸凹した洞窟が現れた。あまり手入れはされていないらしくかなりカビ臭い。

 

早速中に入ると岩陰に設置タイプの弩弓が見えた。イグヴァルジのマジックアイテムの効果で既に解除はされている。

 

 

「気を付けて進めよ、特にそこのデカブツ。テメェが一番潜入とはかけ離れた外見してんだからな」

 

「分かってますよ。迷惑は掛けません」

 

「へっ、どうだかな」

 

 

相変わらず辛辣な言い方だが彼なりの気遣いだと受け止めた。確かにモモンガは『野伏』や『盗賊』のスキルは持ち合わせていないが、デスシーフ達が代わりを務めてくれている。今も不可視化でモモンガの周りに数体付いているのだが、イグヴァルジ達は気付いてない。

 

幾つもの罠をイグヴァルジ達が解除しながら暫く進むと、汚いカーテンで仕切られた空間に出た。簡素な木製テーブルには酒瓶や食いカスが乱雑に散らばっていた。

聞こえてくる下品な笑い声から傭兵達は今酒盛りをしている最中なのだろう。

 

 

「…10人くらいか。俺らだけなら何とかなるな」

 

「どうする、イグヴァルジ?」

 

「よし、先ずはー」

 

 

クラルグラのメンバーが打ち合わせをしている最中、先に斥候に向かわせたデスシーフからの送られて来た情報が丁度届いた。

 

 

(傭兵達のレベルは……殆ど10も無いじゃないか)

 

 

これならイグヴァルジ達でも余裕で対処出来るし、ブリタ達でも何とかなる。見た目が暴力に慣れた人間特有の悪人面なだけでただの雑魚だ。

 

 

(これなら俺が出る幕もな……なに?)

 

 

モモンガは傭兵団の中に1人突出して高いレベルの個体を見つけた。

 

 

(……レベル27だと?)

 

 

10前後程度しかない中では不自然なほどにレベルが高い。モモンガからしたら他と大差ない雑魚なのだが少し興味が出てきた。

 

 

(傭兵団の頭か?…だとしてもコレはー)

 

 

考え込んでいると思わず身体が近くの荷物にうっかりぶつかってしまった。その上に置かれていた酒瓶が床に落ちるとガシャーンッ!と大きな音が鳴り響いた。

 

 

「あっ」

 

「だ、誰だ!?」

 

 

先程まで酒盛りしていた傭兵たちが音を聞きつけ一斉に武器を取り迫ってきた。

 

 

「お前ぇ…」

 

「すみません、つい」

 

 

イグヴァルジが「余計なことを」と恨み籠った目で睨み付けてきた。しかし今は余計な争いをする暇はない。

 

 

「な、何モンだテメェら!!」

 

「冒険者プレート?…チッ!俺らを殺りにきたってワケか!?」

 

「やっちまえ!!」

 

 

傭兵達が一斉に襲いかかって来た。流石は戦争以外は野盗まがいの事をしているだけもあり、その攻撃に一切の躊躇がない。

 

 

「クソっ!やるしかねぇか!!」

 

「恨むぞモモンガぁ!!」

 

 

悪態を付きながらも、クラルグラのメンバー達は各々の相棒とも言える武器を手にして傭兵達を迎え討つ。モモンガもあまり広くない洞窟内では不向きなグレートソードを抜く。

 

奥から更に数十人規模の傭兵たちが現れた。

 

個々の実力が上でも数の差は馬鹿にできない。これでは流石にイグヴァルジ達に分が悪い。

 

 

「不備は明らかにコッチだよな。ここは気合を入れるとするか」

 

 

モモンガはその手に持つグレートソードを迫り来る傭兵達に向け振るった。

 

無論、ただ振るうだけでなく、新しい会得した戦士系特殊技術(スキル)の『旋風剣』を発動させた。これは相手にダメージを与えるよりも広範囲に吹き飛ばし(ノックバック)効果を発動させるスキルだ。

ある程度弱い相手を少しの間だけ行動を阻害させる効果を与える為、10前後の雑魚集団相手なら丁度良いだろう。

 

 

「はぁぁ!!!!」

 

 

次の瞬間、イグヴァルジ達は驚くべき光景を目の当たりにした。モモンガの振るったグレートソードの風圧によってテーブルや酒瓶、この空間に置いてある多数の荷物が傭兵たち諸共吹き飛ばしたのだ。

 

 

「「ギャアアアアア!!!!!」」

 

 

彼の大剣の射線上にあった全てが洞窟の壁に叩きつけられ、辺りは瞬く間に更地と化した。傭兵たちは一緒に飛ばされた瓦礫に埋もれ、完全にノビている。

 

 

「ま、マジかよ…」

 

 

クラルグラのメンバーは信じられない光景を目の当たりにし呆気に取られていた。

モモンガの実力を疑っていなかったと言えば嘘になる。幾ら何でも飛び級で銅からミスリルは前例が無い。嫌でも疑いたくはなるものだ。それも苦労してミスリルにまで昇り詰めた同業者なら尚更というもの。

 

だが、今ハッキリと分かった。

 

たった一振りで数十人もの傭兵団を容易く倒したその実力……モモンガは逸脱者としてのチカラを持っている。

 

 

(何だよアレ…おかしいだろ)

 

 

本来ならもっと奴のチカラを見極める必要があるのだが、たった一振りを見せられただけでその圧倒的なチカラの差を思い知らされた気分になった。

 

傭兵団…『死を撒く剣団』は決して弱くない。個人差はあれど幾つもの戦場を駆けて生き抜いてきた古強者もいる。だがモモンガはそれらを嘲笑うかの如きチカラで薙ぎ伏せた。

 

彼の膂力は人間のソレを凌駕している。

英雄級と言われてもおかしくは無い。

 

だが彼の…イグヴァルジの意地(プライド)が彼を認める事を許さなかった。

 

 

「おいモモンガ!!」

 

 

イグヴァルジは苛立ち剥き出しの足踏みでモモンガに近づく否や彼の頭…というより漆黒の兜をスパァンと引っ叩いた。突然の行動に呆気に取られるモモンガだが、そんな事などお構いなしにイグヴァルジは指をさしながら大きすぎない声で怒鳴った。

 

 

「こンの馬鹿野郎が!アレほど周りに注意しろっつっただろうが!テメェがどうなろうが知ったこっちゃねえがな、俺や俺の仲間にまで危険に晒すようなマネだけはすんじゃねぇ!!あぁ!?『どうにかなっただろう?』ってか!?いいか!!今回はテメェの馬鹿力で何とかなったのかも知れねぇがいつもそうなると思うな!!周りの事を考えねえ行動が不必要な犠牲を生む事に繋がるんだ!!テメェは自分のチカラにかなり信頼と自信があるみてえだが、今回の件で周りからの信頼は落ちたと言ってもおかしくねぇぞ!!ミスリルになって浮かれる気持ちは分からなくもねぇが、仕事と私事の心構えはキチンと切り替える位はしとけ!!冒険者として大成してぇんならな!!!」

 

 

殆ど息継ぎもせず言いたい事を全て吐き出した。イグヴァルジは肩で息を切らしながらも此方を尚も睨み付けている。

 

他のメンバーは勿論、モモンガも突然の説教に面食らってしまった。

 

 

「…さっきも言ったとおりテメェがどうなろうと知ったこっちゃねぇよ。だがな、俺は多くの修羅場と経験を経て今のミスリル級にまで昇り詰めたんだ。まだまだ経験の少ねぇ新人に冒険者としての心得を叩き込むのも俺らベテランの仕事だ。ムカツク奴でも…それが先輩の義務って奴だからだ」

 

 

俺もそうだった…。イグヴァルジは脳裏にある冒険者の後ろ姿を思い浮かべた。彼は性格そのものな兎も角、冒険者としての経験や知識、心得を学ぶ事が出来たのはその冒険者から教わったからだ。

 

ふと我に帰るとモモンガはイグヴァルジに深々と頭を下げていた。

 

 

「すみませんでした、イグヴァルジさん…さっきの自分は軽率でした」

 

「ふ、ふん…まぁ次からは気ぃつけろよ」

 

 

イグヴァルジは通り過ぎざまに彼の肩にポンと叩いた。正直モモンガが素直に謝罪するとは思っていなかったのだ。ああ言う手合いは自らのチカラに過信するあまり誰彼構わず粗暴な態度を取るものだからだ。

 

少なくともそう言った態度が出ない分、まだまだ救い様はあるとイグヴァルジは思った。

でもそんな所がやはりちょっと苛付いたのか、踵を返しモモンガの方へ再び向かうと彼に軽く蹴りを入れた。「え?何でですか?」と理解不能な様子のモモンガは首を傾げる事しか出来なかった。

 

 

「っにしても結構な数倒したな」

 

「ほぼ全員じゃねぇのか?」

 

「いや、まだだ。だが、数は少ない…ほとんどお前が倒したと見ていいかも知れねぇなクソが」

 

「それは褒めていると思っていいでしょうか?」

 

「勝手に思ってろ」

 

 

多数の慌ただしい足音が迫って来るのに向けてクラフトとモモンガは武器を構える。

 

 

「よし…あと一息だ!!」

 

 

 

 

ーーーーーー

ブリタら鉄級チームは塒の出口を離れた森の茂みから監視をしていた。外で見張りをしていた傭兵たちが慌てて中に入るも、何やら地鳴りの様なモノが塒が聞こえて来た。

 

果たして無事なのかは不明だが今は祈るしかない。

 

 

「はぁ…」

 

 

ブリタは先ほどから溜息ばかりしている。

命を賭けた依頼の最中とは思えないが、何だが不満げな様子だ。ここへ来るまでの道中、どうしたのか聞いてみたが「何でもない」と苛立ちながら言われた。

 

 

「ブリタ…本当に大丈夫か?」

 

「え?……あー、うん」

 

「心ここに在らずって顔してたぞ?」

 

「え?うそ?…ごめんなさい」

 

「ま、まぁ別にいいけどよ……なんかあったらいつでも相談に乗るぜ」

 

 

ブリタは苦笑いを向ける。仲間に対する申し訳なさで心が一杯だった。でもそれ以上に今自分自身に起きてる身体的異常が強く出ていて仕方がなかったのだ。

 

 

(あーー…もう…イライラする)

 

 

ぶっちゃけて言えば『欲求不満』だ。

 

数日前のンフィーレアとの一夜以降、色々と疼いてしまって仕方がなかった。移動中は仲間や他のチームの目もある為、自分でスる訳にもいかない。日が経てば経つほど火照りが強くなる。

 

こんな自分が情けなく思うし、大事な依頼をこんな事で遅れを取るわけにもいかない。

 

 

《聞こえるか?此方クラルグラのイグヴァルジだ》

 

 

そこへ塒突入していたクラルグラとモモンガのチームから《伝言》が届いた。ブリタ達は先程モモンガから受け取った貴重なマジックアイテムを使い応答に答えた。

 

 

《塒にいた傭兵達は粗方始末した。これから中を調査して他にも傭兵が居ないか調べる。そっちは引き続き監視しててくれ》

 

「わ、分かった。気を付けろよ」

 

 

《伝言》を切った。

数十人もの傭兵団が突入してから僅か1時間で壊滅させた事に皆が感動していた。

 

 

「やっぱりスゲェなミスリル級は!」

 

「あぁ、俺らもいつかはって思ってたが…まだまだ遠いな」

 

「お前もそう思うよな?…ん?ブリタ?」

 

「へ?え、えぇ…そうね」

 

 

また呆けてしまった。

駄目だ駄目だと頬を叩き気合いを入れ直す。

 

 

「ん?なんか背後から聞こえなかったか?」

 

「え?」

 

 

仲間の言葉にブリタは振り向いた。

背後は鬱蒼と生い茂る森しか存在しない。傭兵達が外に居る気配はない為、気のせいじゃないかと思った。だがー

 

 

 

「き、気のせい…じゃない!!」

 

 

地面と木を凄まじい力で押し退ける様な音が近付いている。地鳴りが近づいて来る音からソレは地面の下を移動している事が分かった。

 

 

「な、なんか…ヤバい!!」

 

 

直感的にそう理解出来た。

今近いているソレは人間が立ち向かえる様な存在ではない。

 

鉄級チームはマジックアイテムを使い、クラルグラとモモンガに《伝言》を送った。

 

 

 

ーーーーーー

残りの傭兵達も粗方片付けたクラルグラとモモンガ達は待機組に連絡後、更に塒内を隈なく探索する事になった。しかし、傭兵達の姿は無く、あるのは未発に終わった罠ばかりだった。

 

クラルグラのメンバーの1人が「もう終わっちまったんじゃないか」と楽観的な発言もあったが、モモンガはまだ終わってない事に気付いている。

 

 

(あのレベルが高い奴は何処かに居るはずだ…)

 

 

本来ならデスシーフの案内の元、ソイツの所に行きたいのだが今は合同で依頼に当たっている。イグヴァルジからの説教も素直に反省するべき点ばかりだったので、『野伏』系の職を持たないモモンガは黙って付いていくしかなかった。

 

 

「ん?…おい、アレは…」

 

 

とある場所へ差し掛かった時、イグヴァルジはあるものを見つけた。そこは厚いカーテンで何重も仕切られており、恐る恐る中へ入る。

 

すると目の前に簡素ながらも木製の牢屋の様な部屋が見えた。部屋の中には数人の女性がボロボロの状態で発見された。息はあるがかなり憔悴し切っている。

 

 

「恐らく傭兵どもに襲われた商隊かなんかだろう。性欲処理として使われていたんだな」

 

 

一行は直ぐに彼女達を牢屋から助けだした。クラルグラの1人が懐から薬草で作られた緑色の1番安いポーションを彼女達に与えようとした。しかし、その前にモモンガが赤いポーション…下級治療薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を彼女全員に振り掛けた。

 

心の傷は癒せないが身体的な傷なら癒す事が出来る。彼女達の傷が瞬く間に消えていく光景に、イグヴァルジ達は驚いた。

 

 

「お、おい、お前のそれは…」

 

 

イグヴァルジが彼に問い掛けようとした時、凄まじい悪寒と恐怖が魂もろとも襲い掛かった。イグヴァルジだけではない。クラルグラのメンバー全員がその現象に襲われていた。

 

 

(な、なんだこりゃあ…!!??)

 

 

声を発する事すら出来ずに思わず両膝を地面に着けてしまう。彼はこの現象がモモンガから発せられている事に気付いた。

 

 

「クソどもが……」

 

 

コレは『怒り』だ。

純粋なヤツの怒りが凄まじい威圧感となって周囲に溢れて出ていたのだ。あまりの恐怖から意識が勝手に逃げようとしている。

 

イグヴァルジは長年の経験というギリギリの意地で意識を持ち堪えさせたがそれが精一杯だった。

 

 

「《睡眠(スリープ)》」

 

 

モモンガが彼女達に《睡眠》の魔法を掛けた。彼女たちが魔法により深く寝入るとモモンガから発せられていた威圧感が嘘のように消えた。

 

 

「すみません……彼女達をお願いします」

 

「あ、あぁ…わかっ、た」

 

 

イグヴァルジはそれしか言えなかった。

彼と同じくギリギリ意識を残していたメンバー達が、捕まっていた彼女達を塒の外へと連れて出して行った。

 

 

(いかん…思わず《絶望のオーラI》を発動してしまった)

 

 

イグヴァルジと2人きりになったモモンガは改めて自らの行動を猛省した。

 

傭兵団に捕まっていた彼女達。その扱いを聞いたモモンガはエンリとクレマンティーヌの姿を思い浮かべた。もし2人が奴らの目に入れば狙われていたかもしれない。

 

クレマンティーヌならまぁ…普通に切り抜けられそうだが絶対とは限らない。

 

 

(アイツ、自分のチカラを過信する傾向が強いからな)

 

 

もし2人が狙われ、捕まってしまったら…彼女達と同じ末路を辿る事になっていただろう。そう考えただけで制御しようのない怒りが込み上げてくる。ハッキリ言って不愉快極まりない。

 

もし傭兵達を片付ける前に彼女達を見つけていたら…最悪全員殺していたかも知れなかった。生かして捕らえれば追加報酬有りとの事だったがそんな事など知った事ではない。

 

 

(最後の1人…あのレベルの高い奴は殺してもいいだろうか?)

 

 

あんな非道な事を平然とやる連中だ。

殺したところで悲しむ奴など居るはずがない。

 

レベルがあの中で異様に高いのは正直興味はあったのだがもうどうでも良くなっていた。傭兵団のトップなのかどうかは不明だが、連中と(つる)んでいる時点でマトモな奴では無いだろう。

 

また燃え滾る溶岩の如き怒りが込み上げてきた。

 

 

「おい」

 

 

バシッと背中を叩かれた。

隣へ顔を向けると訝し気に此方を見つめるイグヴァルジがいた。

 

 

「許せねぇ気持ちになんのは分かるがな。あんまり気い張り過ぎんな。みっともねぇぞ」

 

 

彼のその言葉でモモンガは我に返った。

 

自分はすぐに感情的になり過ぎる場合がある。そのレベルが高い奴がレベル差を無視出来る異能(タレント)を持っていた時の事を全く考えていなかった。それに下手に相手を殺す様な真似は人間の姿での活動に支障をきたす可能性だってある。

 

 

「すみません…何度も」

 

「ったく…こんな手の掛かる奴がエ・ランテルの英雄なんて呼ばれるとはなぁ。シャキッとしろシャキッと!」

 

 

イグヴァルジは軽く蹴りを入れるがモモンガは項垂れるばかりだ。モモンガは何度も手を煩わせてしまった事にショックを受けていた。

 

それを見兼ねてか、イグヴァルジは頭を乱暴に掻きながら大きな溜息吐くと、モモンガの目の前へ移動し指を突きつけた。

 

 

「いいか?俺は認めてねぇが、ミスリルになっちまった以上テメェはエ・ランテル冒険者組合の看板背負ってんだぞ?テメェの見っともねェ行動が組合の看板に泥塗る行為だと思え」

 

「…」

 

「ハッキリ言う。お前の実力は認めてやるよ……嫌々だけどな。だが、一人前の冒険者じゃねえ…お前に不足してんのは冒険者としての圧倒的な経験と知識だ。……本来なら一つずつ階級を上げながら、その階級に見合った実力が付くものなんだ。ごく稀に2階級まで上がる奴もいるがな。…とにかく、普通は色んな依頼をこなしながら実力を付け、仲間との連携をより高度なモノにしていくんだ。ある程度備わったら組合から昇級試験を受けて見事合格すれば階級が上がる。普通はそうやってのし上がって行くんだ。」

 

 

項垂れていたモモンガの頭は少しずつ上がり、スリット越しから真剣に話しをしているイグヴァルジを見据えていた。

 

 

「だがお前は本来ならそうやってコツコツと貯めて行く…チカラとな違う経験を無視して一気に上位冒険者階級のミスリル級に来ちまったんだ。あの一件で得たお前の功績はそれほどのモンだったってわけだなクソが。まぁ前例の無い飛び級だ。上の連中も相当悩んだのかもしれねぇが、今のお前の行動を見て分かったよ。やっぱりあれは誤りだった」

 

「イグヴァルジさん…」

 

「お前はチカラはあっても、経験や知識が無さすぎる……まぁ、俺がお前を認めない理由には単純に気に食わねぇってのもあるがな!」

 

 

厳しい様だがイグヴァルジはハッキリと彼に伝えた。

 

イグヴァルジはモモンガが気に入らない。それは紛れもない事実であり、自他ともに認める自分勝手な感情に過ぎない。しかし、彼がモモンガを認めない理由はそれだけではなかった。

 

先も述べた通りモモンガには冒険者としての経験が圧倒的に不足している。ミスリル級という上位冒険者と成り得ても右も左も分からない事は数多い。チカラはあっても経験がない。

 

優秀な訓練成績を有していても最も重要な実戦経験がない事と同じである。実戦では訓練では教わらない応用的なモノを学ぶ事が出来る。そしてそれは生き抜く上で最も重要である事が多い。

 

4割…いや、3割程度だが、そんなまだまだ半人前もいいとこな経験しかない彼をミスリル級にしてしまったと言う…先輩冒険者としての負い目も少なからず感じていた。だから彼の化けの皮を剥がし、鉄級…良くて銀級くらいにまで降級させようと思ったのだ。

 

何度も言うが妬みも含めて彼はモモンガが気に入らない。

 

 

「だから……ん?おい、聞いてんのか?」

 

「イグヴァルジさんって…優しいんですね。ありがとうございます」

 

「は、はぁ!?」

 

 

イグヴァルジは思わぬ言葉と感謝に動揺した。一瞬、嫌味か皮肉のつもりで言ったのかと思ったが、雰囲気からして素で言っているのだと分かった。

 

 

「い、いきなり気持ち悪ぃ事言うなよ…ったく!」

 

「フフフ、はい」

 

「ケッ!…な、何笑ってんだ?」

 

 

モモンガの中で彼の評価は大きく上昇した。

何だかんだ言いつつ彼は所謂、『面倒見の良い上司または先輩ポジション的存在』なのだ。

 

排他的なブラック企業で勤めていたモモンガ…鈴木悟からしたらまさに有り難いことこの上無い存在だ。駄目な後輩を見捨てずに指導してくれる人は、先行き不安な社会人にとって心強い。

 

今冷静になって思い返してみれば思い当たる節が所々あった。

 

道中、其々のチームで互いのことを知り合うために話し込む事もあったがその度にイグヴァルジが厳しい指摘が入る。その時の空気感は少し重かったが、アレは弛んだ空気を引き締めようとしていたのだと分かった。鉄級チームで装備の不備があった時は少し意地悪げだが、ちゃんと抜かりが無いよう確認してくれていた。

 

傭兵団との戦闘もそうだ。

 

皆のチームワークは見事なもので各々の不足している部分と長けた部分を絶妙に補い合っていた。アレは互いに信頼し切ってなければ出来ない行動だ。

 

 

(色々と誤解してたなぁ…まぁ私事の嫌味もあるんだろうけど)

 

 

何故ほこほこした空気を出しているモモンガにイグヴァルジはバツが悪そうな顔で文句を言おうとした時だった。

 

 

(…誰か来る?)

 

 

敵感知(センスエネミー)》で洞窟の奥から何者かが近づいているのが分かった。アレは例のレベルが高い奴だ。遅れてイグヴァルジも誰かが此方に向かっている事に気付いたらしく、すぐに切り替えた。

 

 

「裏の抜け道から寡兵が来ただの何だのと騒いで、静かになったからてっきりもう始末してるもんだと思ってたが……こいつは驚いたな」

 

 

奥からのらりくらりと現れたのは、ボサボサに四方に伸びた青髪の男だった。

 

その体躯は比較的ほっそりとしているが、その肉体は鋼鉄のように引き締まっており、イグヴァルジはその身体が単純なトレーニングではなく戦いの中で鍛え上げた身体だと分かった。服装は他の傭兵達とそこまで差異の無い、機動性を重視した比較的軽装備をしている。

 

 

(コイツは…ヤベェ…!)

 

 

イグヴァルジはひと目見て瞬時に察した。

どう足掻いても勝てる相手ではない。

 

一方でモモンガは興味深そうに観察していた。

 

 

(レベル27…ガゼフより1つ下か。出会ってきた人間の中では3番目に強いな)

 

 

彼の身に付けている装備もちゃっかり鑑定。首飾り型(ネックレスタイプ)指輪型(リングタイプ)のマジックアイテムも2、3個装備している。効果は自身の身体能力を向上と盲目耐性付与など、特に何の面白味もないものばかりだ。効力そのものも微妙。

 

その中でも少しだけ気になったのが腰に備え付けている武器だ。

 

 

(あれって『刀』だよな?)

 

 

刀はユグドラシルでもポピュラーな武器だった。特に武人健御雷に至っては拘りとも誇りとも言えるくらい愛用していた武器だ。攻撃力は並の武器よりも高く、クリティカル率も高い。

 

 

(まさかこの世界にも刀があるとはなぁ…)

 

 

早速彼の持つ刀はどれ程の物なのか《上位道具鑑定》を発動させて調べた。

 

 

(属性神聖、低位魔法効果、物理障害に対する斬撃効果20%向上、物理ダメージ5%向上及び一時的効果+10%、非実体に対し30%のダメージ効果、クリティカル率5%向上……特別悪くもなければ良くもない…微妙も微妙。超微妙だ)

 

 

可もなく不可もない何ともコメントに困る効果だ。しかも名前が『神刀』と言うらしい…健御雷に昔もらった刀が宝物庫にあるのだが、こっちの方が圧倒的に格上だ。

 

 

「あの傭兵達を少人数で倒すとなれば…少なくとも俺くらいの実力はあると思ってたんだが、『野伏』か『盗賊』のお前さんはそうでも無さそうだな」

 

 

青髪の男はニヤリと笑う。対してイグヴァルジは焦りによる脂汗が滲み出ていた。

 

 

(俺の仲間が揃っていても勝てる見込みがねえ……くそっ!なんでこんなヤベェ奴がここに居ンだよ!)

 

 

イグヴァルジは心の中で悪態を吐きながらも状況を冷静に分析する。

 

 

(奴の武器は刀……防具は鎖着以外目立った物はない。機動性と回避性を優先しているって事はつまり…対多数よりも対一勝負が得意ってわけか。) 

 

 

今度はモモンガの方へ目を向けた。

 

 

(コイツも相当な実力を持ってるが…相手が悪過ぎる。少なくとも機動性ではヤツが上だろう。ここはさっき傭兵どもが酒盛りしていた場所じゃねぇ狭い通路…コイツの大剣じゃあ狭くて満足に振るう事もままならねぇ。)

 

 

恐らくモモンガと彼が戦っても剣の振り速と機動性と精密性の差で敗れると見た。自身が援護に入っても勝てる見込みは低い。

 

彼はゆっくりと腰に備えていたポーチから小さな布袋を取りだした。それは目眩し効果を持つ特殊な煙玉だ。

 

此処は一方通行の行き止まり。あの男の横を通らなければ此処から出る事が出来てない。

 

あまりにも場所も相手も悪過ぎる。

 

その為、イグヴァルジは『逃げ』に徹する事を選んでいた。せめて…せめて奴に勝てる見込みがまたあるモモンガが満足に大剣を振るえる場所まで行けば…。

 

イグヴァルジは奴に悟られないよう、首に掛けた《伝言》マジックアイテムを使ってモモンガに話しかけた。最初からマジックアイテム無しで《伝言》を使えるモモンガに繋がる。

 

 

《モモンガ、聞こえるな?》

 

《どうしました?》

 

《いいか?俺が目眩しの煙幕を張ったら一斉に奴の横を通り抜けるぞ。左右からだ、いいな?》

 

《……分かりました》

 

《押し付けるようで悪りぃがアイツに勝てんのはお前ぐらいだ…せめて広い所で奴を迎え討つ。いいな?》

 

 

モモンガは少し間を空けた後に了解の意を伝えた。イグヴァルジは腰の後ろに忍ばせていた煙袋を掴む手に自然と力が入る。

 

意を決し煙袋を地面に叩きつけようとした瞬間ー

 

目の前に暗い壁が出現すると同時に甲高い金属音が周囲に響き渡った。

 

 

「なっ?」

 

 

煙袋を握り締めたまま腕を振り上げたまま立ち尽くしていたイグヴァルジは、一瞬目の前で何が起きたのか分からなかった。

 

 

「ほぅ…いい反応するな」

 

「やれやれ、いきなり随分な挨拶じゃないか?」

 

 

この時、彼は漸く状況を理解できた。

 

目の前に現れた黒い壁は、壁では無くモモンガの大剣の腹の部分だった。これほどの大剣をいつの間に抜いていたのかも不思議だったが、あの甲高い金属音…アレは青髪の男を見て理解できた。

 

 

(い、いつの間に…抜剣してやがった?)

 

 

青髪の男は腰から刀を抜き、腰を落とした切り上げの姿勢になっていた。

そして、何よりもこの距離…あの男と自分たちとの距離はそこそこ離れており、少なくとも刀の長さから見ても攻撃範囲外にいる事は間違い無い。奴のあの場から動いていないにも関わらず攻撃が届いたという事になる。

 

《武技》の類なのは間違いない。

 

 

(《武技》の中には斬撃を飛ばすモノもあるとは聞いたことがある…だが、それは一流の剣士のみが会得出来る高級技!…それを奴は扱えるって事かよ!)

 

 

自分は全く気が付かぬままアイツから攻撃を受け、それを察知したモモンガが奴の攻撃から自分を守ってくれた。奴の腕振りの速度もそうだが、それに反応出来たモモンガもモモンガだ。

 

何はともあれ自分はモモンガに救われた。

それは確かだ。

 

 

「イグヴァルジさんは退がって下さい」

 

「え?お、おい…!」

 

 

モモンガは1本グレートソードを右手に持ったまま一歩前へ出た。

 

 

(イグヴァルジのレベルは16…とてもじゃないがアイツと戦って勝てるとは思えない。ここはやっぱり俺がやるしかないな)

 

 

青髪の男は刀を強く握り直した。

彼も長年の経験を経て鍛えられた直感と本能でモモンガがあの男に匹敵する強者であると理解出来た。

 

 

 

「…ブレイン・アングラウスだ」

 

「モモンガだ」

 

 

イグヴァルジは数歩退がり戦いの行く末を見守る事しか出来ないと判断した。とてもじゃないがあの2人の戦いに付いて来れる気がしない。

 

この時、彼は気が付かなかった。

 

先の青髪の男…ブレイン・アングラウスが放った《空斬》と呼ばれる《武技》により、首に掛けていたマジックアイテムが偶然にも紐の部分が切れて落ちてしまっていた事に。




R-18版の最新アンケートは打ち切らせて頂きます。
ご協力ありがとうございました。

多数決に従いましょう。
1番と2番が拮抗していましたね。

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