パンデミック初期に中国とヨーロッパで実施されたロックダウンによって大気汚染の改善と早期死者が減少、米ノートルダム大学研究報告
2020.11.24ロックダウンでPM2.5と早期死者が減少
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの初期に、感染拡大を抑えるために中国とヨーロッパで取られたロックダウン(都市封鎖)の措置により、大気汚染が改善され、数千人の命が救われたとする研究結果が報告された。
米ノートルダム大学のPaola Crippa氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Planetary Health」9月22日オンライン版に掲載された。
大気汚染は、環境汚染による死因の筆頭とみなされている。WHO(世界保健機関)は、大気汚染を死因とする2016年の早期死亡者数が、世界で420万人に上ったとしている。
早期死亡は多くの場合、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患と関連している。代表的な大気汚染物質である微小粒子状物質(PM2.5)は、大気中に浮遊する2.5µm以下の微細な粒子である。
PM2.5は、その小ささゆえに肺胞の中にまで入り込み、呼吸器疾患をはじめとした種々の疾患を引き起こすことが危惧されている。
Crippa氏らは今回、ヨーロッパと中国の2,500を超える地点で、2016〜2020年に観測されたPM2.5濃度のデータを、化学輸送モデル(三次元空間において大気中の微量物質の変化を記述する数値モデル)シミュレーションに統合して、1日単位でのPM2.5の濃度場を予測した。
また、COVID-19パンデミックからの4つの景気回復シナリオを想定し、それぞれのシナリオでの早期死亡率を推定した。
4つの景気回復シナリオとは、1)速やかに通常の活動が再開してPM2.5の放出も元に戻る、2)段階的に通常の活動が再開し、PM2.5の濃度も3カ月かけて増加する、3)10〜12月に感染拡大の第二波が生じる、4)ロックダウンが解除されることなく2020年末まで続く、である。
その結果、中国では、2月1日〜3月31日の間のCOVID-19による死者数が3,309例と報告されているのに対して、PM2.5関連の早期死亡は2万4,200件回避されたものと推計された。
また、中国に比べてCOVID-19の死者数がはるかに多いヨーロッパでは、2月21日〜3月17日の間に、2016〜2019年の平均値と比べて推計2,190件のPM2.5関連の早期死亡が回避されたものと推計された。
さらに、長期的には、4つのシナリオのいずれを想定するかにより、中国で7万6,400〜28万7,000件、ヨーロッパでは1万3,600〜2万9,500件の範囲で、PM2.5関連の早期死亡が回避されるものと推計された。
こうした結果を受けてCrippa氏は、「われわれはこうしたロックダウン措置を、世界で初めての強制的な大気汚染物質低排出シナリオの実験とみなして、今回の研究を実施した。このリアルワールドでのユニークな実験により、強力な対策を実施すれば、汚染が深刻な地域でも、短期間で大気の質を大幅に改善できることが明らかになった」と述べている。
その上で、「今回の研究で得られた結果は、大気の質を改善するためには、そのことに特化したコントロール対策が必要であることを示す一例として役立つ」と付け加えている。
大気汚染を改善するための公的な方策としては、電気自動車への補助金交付、公共交通機関の利用促進、および産業に対するより厳しい排出制限を課すことなどが考えられる。
Crippa氏は、「COVID-19パンデミック対策として導入されたのと同様の規模の介入が、広範かつ体系的に取り入れられれば、現代人が抱える環境および健康の差し迫った危機の解決に向けて、大きく前進することができる」との期待を語っている。(HealthDay News 2020年10月28日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(20)30224-2/fulltext#%20
構成/DIME編集部
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