悪魔との目覚め2

「ん」と短すぎる声に合わせて渡されたのは、かの有名なハンバーガーショップのモーニングコーヒーとバーガーだった。ご丁寧に紙袋に入ったままのそれをパッと落とすように渡され、反射的に両手でキャッチする羽目になる。訝しげに彼を見つめれば、毒なんて入れてないから食え。と無愛想に相手は呟いた。

しかし、なぜこんなに良くしてくれるのだろう。昨日から赤の他人にここまで優しくするなんて、いささか裏があるのではと勘ぐってしまう。昨晩のことは覚えてないが、そういった関係を築いてしまった以上ある程度情が芽生えてしまうのだろうか?なにぶんこういう過ちは初めてなものでわからない。

「ありがとうございます。あの、図々しいお願いなのは承知なのですけど、昨日の事は忘れてください」

暫しの沈黙の後、男の視線はホームの改札へと逸らされる。まるで私の話を聞かなかったことにされたようだ。

「あの……」
「まずは賃貸だろ。行く前に食え」

ごく自然な形で話を逸らされ、もう一度お願いするタイミングを失ってしまう。朝から思ってたけど、話し方に少し違和感があるのは何故だろう。外国の人なのだろうか。

「もう行く。じゃ、またね」
「え、ちょっと!」

 また?いくつもの疑問符が解決しないまま彼は朝の改札を通り、ホームの階段へと吸い込まれるように消えてしまった。あっという間に嵐が過ぎ去った方を眺め、いい匂いのする紙袋に視線を落とし、一人茫然と立ち尽くす。

あまりにも呆気ない別れ方にここに着くまで、借りていたものを思い出し名前はあ、と声を漏らした。

「上着」

 借りた上着を返しそびれてしまった。でも逆にまあいいかと開き直ったりもしている。これから彼との付き合いが続くと決まったわけではないし、わざわざ顔を合わせて返す必要もないだろう。なんとなくだが彼の家までの道のりを覚えているし。ドアにかけるなりして返せばいい。

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