それでも大事に思っていたわ
ほんっと最低。
今夜何度目になるかわからない、その言葉を吐き捨てて、抱えている恨みとは何の関係もないお店の呼び出しボタンを押す。
「芋焼酎。焼き鳥もも二つとやみつきキャベツください」
定員さんがやってくるなりメニュー表を開きながら食べたいものを片っ端から頼む。あれからというもの、あてもなく歩いた末に通りがかった居酒屋に入り、名前は一人で酒を煽っていた。
いわゆるヤケ酒というやつだ。明日は休みだしもうどうにでもなれという気持ちでジョッキの中に入った酒を一気に飲み干している。
「なに、急に呼び出して」
グラスに浮かぶ氷を眺めていると、頭の上から可愛らしい声が降ってくる。既に酔いが回っていた名前はああ。彼女の声を聞くのは久しぶりだなとほんのり頬を赤くした顔で頭上を見上げた。急な連絡にも駆け付けてくれたのは学生時代に仲良くしていた同級生のネオンだ。彼女は店内で名前と目が合うなり、「あらら、もうできあがってる」と向かい側の席に腰を下ろした。
「ネオンー。聞いてよ、私振られた」
「え、なんでまた。この前には式場選んでるって……」
「浮気。しかも半年前から」
「うっわ最低」
「でしょ、仕事から帰ってきて突然言われたからね。あり得ないったら」
ネオンも開いた口が塞がらないと言った様子で、目を丸くして驚いている。やっと口を開いた彼女に今後の運勢占ってあげようか?と提案されたが今はそんな気分ではない。やんわり断っておいた。
「ま、そんな奴と結婚前に別れられたんだからある意味ラッキーだったかもね」
確かに。あのまま惰性で付き合っていたら二人の未来はうまくいかなかっただろうし、お互いの気持ちが伴わない結婚をしたって、きっとどこかで摩擦が生じる。これで良かったのだ。
「どうして私はこう、ダメ男しか寄ってこないんだろう」
「そりゃ、見る目がないからに決まってる」
「もっとオブラートに包んでもの言ってくださいネオンさんー」
みる目がない。ごもっとも過ぎて何も言い返せない。半ば焦り気味に結婚を急いでいた事が良くなかった。ここまで来れば、明日から優雅な独身貴族を貫こうとさえ考えてしまう。いや、独身貴族になろう。独り身最高。
「もう誰とも付き合わない」
「みんなそう言っていつの間にか新しい恋見つけてくるから」
「私はしない。もう絶対恋しない」
そんな愚痴を零しながら音を立てて机に突っ伏す。世間は華金と呼ばれる日。給料日も重なってか、居酒屋はガヤガヤと騒しい。箸で食器をつつく音が絶え間なく聞こえてくるし、タバコの煙で店内は少し煙たい。
こうしてみんな楽しそうに笑っているのを見ると、だんだん卑屈になってくる。自分だけが不幸にみまわれているようで、ひどく悲しい気持ちになった。ネオンはそんな涙目になっている私をみかねて、向かい側から優しく頭をポンポンと撫でてくれる。
「飲んで忘れよ」
「うん。勿論そのつもり」
「奢るから、好きなの頼みな。でもお酒は程々にね」
「うん……ありがとう」
男運は最悪だけれど、友達には恵まれている。
卑屈な気持ちを追いやるように、彼女と他愛のない会話を交わしながら料理をつついた。
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