2010年12月15日11時9分
■球場との10年契約、重荷
「向こうが判断したんだから、しょうがないでしょ」。TBSホールディングス(HD)の幹部が疲れ切った表情でつぶやいたのは、10月27日のことだった。
プロ野球、横浜球団の売却を目指し、親会社のTBSHDが住生活グループ(G)と続けていた交渉が、この日で決裂した。最終段階まで話が進みながらの破局だった。
両者の話を総合すると、本拠地を巡る意見の食い違いが破談理由の一つになった。
住生活Gは横浜からの転出に意欲的だった。潮田洋一郎会長は「一切の前提条件なしに、来季からすべて我々のフリーハンドでいけると思っていた」。交渉では新潟、静岡、京都を候補地に挙げたという。
住生活Gが移転にこだわった理由は何か。考えられるのが、球団と横浜スタジアムの契約関係だ。
現契約では、球場内の広告や物販収入はすべてスタジアムに入る。「選手強化費」として約3億円が球団に還元されるとはいえ、こんな契約は他球団には例がない。球団が1978年に川崎から移転した際、球場建設の実現に地元の経済団体が尽力した経緯が背景にあるが、球団には今や重荷でしかない。
球場使用料は入場料収入の25%という歩合制。昨季、球団の同収入は約32億円で、使用料は約8億円だった。額は他球団と比べて突出して高くないが、基本契約は10年間見直せない。ある球団幹部は「不平等条約」とまで言う。移転を主張した住生活Gの潮田会長は「10年契約が今年度末で切れる。考え直すには一番良い時期だと思った」。
スタジアムの鶴岡博社長は「契約はひどくない。悪いのは球団の放漫経営だ。努力もしないで言い訳ばかり」と反論する。長期契約は球場の安定経営に欠かせないとし、約3億5千万円かかる人工芝の張り替えなど、施設改修費も負担していると主張する。
球団と球場のこじれた間柄だけでなく、行政との対立もマイナス要素だった。新ブランド「リクシル」の浸透が買収目的と潮田会長が説明すると、松沢成文・神奈川県知事が「会社の宣伝さえできればいいという論理には違和感を覚える」と発言。潮田会長が「うっとうしい」と応戦し、険悪なムードとなった。
今や、球団と行政は協力関係にあるのが常識。例えば2005年に参入した楽天は、県営宮城球場を約66億円で改修。見返りとして県から営業権を与えられた。球場使用料を年間7千万円払えば、広告スポンサー料(約25億円)や入場料収入(約33億円)などをすべて得られる。横浜に、そうした恩典はない。
住生活Gの撤退で、横浜の身売りは振り出しに戻った。球界関係者によると、横浜市内の複数企業が水面下で球団を共同保有することを検討したが、まだ現実味はないという。景気は依然厳しく、買い手探しは難航も予想される。
売るに売れず、思い切った改革も難しい。横浜の売却破談劇は、プロ野球界に暗い影を落とした。他球団の首脳の一人は言った。「早くTBSはオーナーから降りた方がいい。やる気のあるオーナーがやれば、がらっと変わる可能性がある。このままではプロ野球全体に悪影響が広がる」
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様々な問題が浮き彫りになった今年のプロ野球。「クライシス(危機)」の深層を探った。