序章・夏

 ためいきにまみれた映画さつえい以前、高校がまだ夏の長期きゆう中での話だ。

 とうでトンチキな推理劇を演じることになったSOS団夏期合宿から帰ってきて数日が経過し、ようやく俺は夏休み気分を味わい始めていた。

 なんせ強制連行も同然に連れて行かれたしよう合宿は、こらえしようのない団長によって出発日時が休み初日に設定されてたもんだから、長い休みの最初の数日くらいはだれにも文句を言われず昼過ぎまで続ける日々を送ろうとしていた俺のしゆうとうな計画もあえなくたん、おかげで身体からだが例年通りの夏休みモードに切りわったのは七月も残り少なくなってからである。

 言うまでもなく学校からわんさと背負わされた課題の山なんてのを切りくずす気になんか全然ならず、なーにこんなもん八月にやりゃいいのさとかノンビリ構えているうちに七月はあっさりしゆうりようしちまい、八月に入ったら入ったで俺は見事なハシャギぶりでそこら中を飛びねる妹をともなって田舎いなかおもむき、久しぶりに顔を合わせたイトコやらハトコやらおいやらめいやらと二週間ばかり川や海や山や草原で誰かにザマミロと言ってやりたいほど心ゆくまで遊びたおしてやった。

 もちろんやりたくもない課題になんぞ、学習能力のある鳥がどくの幼虫をするがごとく手を出すことはなく、結果として設問を何一つ解くことなく遊びほうけた日数だけがカレンダー上に刻まれて、いつの間にやら八月も半ばを過ぎようとしていたころ……。

 それは人知れず始まっていた……

 らしい。

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