主人公は、僕よりすこし年上の少年たちだ。同世代とはいえ中学生くらいの1、2歳の差はけっこう大きい。当時はずいぶん年上に見えて雲のうえの存在のようなひともゴロゴロいた。だから僕が見てきたあの時代をきっと主人公たちはすこし違う感じかたで生きていたんだと思う。その小さくて大きな差を埋めるために小説を書く前にいろんなことを調べたり、話を聞いたり、今の渋谷の街を歩いたりした。...
主人公は、僕よりすこし年上の少年たちだ。同世代とはいえ中学生くらいの1、2歳の差はけっこう大きい。当時はずいぶん年上に見えて雲のうえの存在のようなひともゴロゴロいた。
だから僕が見てきたあの時代をきっと主人公たちはすこし違う感じかたで生きていたんだと思う。その小さくて大きな差を埋めるために小説を書く前にいろんなことを調べたり、話を聞いたり、今の渋谷の街を歩いたりした。感覚的には映画やドラマの撮影地を決めていくロケハンみたいな感じで。どんな風景の中で彼らが走り回っていたのかできるだけ細部まで想像をして、それを写すように書いていった。取材ノートは懐かしいものであふれた。当時憧れだったウォークマンを手に入れてそのずっしりとした重さに驚いた。
そのガチャンという音に、カセットテープを自動でひっくり返すオートリバースという機能があんまり好きじゃなかった当時のことを思い出した。いろいろうまくいかなくてもどかしい気持ちで頭のてっぺんからつま先までパンパンだったことを思い出した。そして当時どうしようもなく嫌だったその気持ちがとても大切なことのような気がした。きっとそれがこの物語をつくるきっかけになったのは間違いない。
よく小説を読んでくれたひとから「高崎って親衛隊だったんだ」と言われたりするんだけど、そんなことは全然ない。これは全部調べて想像して書いたものだ。当時のアイドル親衛隊を調べていくとその組織の完成度の高さに本当に驚く。10代の少年たちがこんな全国的な組織をつくりあげることができるなんて。全国統一を夢見る姿なんてまるで戦国時代の武将のようだし。なんて大人だろう。同じ時代に同世代だったとはまったく思えない。僕なんか50を過ぎた今でもお会いするたび「小泉今日子って実在するんだあ」といちいち思ってしまうのに。
この時代を動かしたのは、何かに夢中になる興奮だ。そこから生まれるエネルギーだ。そしてそれを誰かといっしょに追いかける喜びだ。アイドルって、そういう生きる喜びを教えてくれる存在なのかもしれない。今回の主人公は、ジャニーズJr.の猪狩さんと作間さん。
現役のアイドルが、熱烈なファンを演じる。彼らがこの物語に何を感じて、それをどう表現するのかとても楽しみだ。きっと小説ではつかまえきれなかったものがつかまえられるにちがいない。目をつぶってドラマを浴びよう。あの時代に飛び込んで、彼らの呼吸と同調して、物語のなかに入ろう。
高崎卓馬
( 原作・脚本担当 )