市野塊
新型コロナウイルスの脅威が国内に広がり始めた2月、札幌市に住む男性は高熱にうなされていた。新型コロナの感染がわかり入院したが、みるみる容体は悪化。体外式膜型人工肺(ECMO〈エクモ〉)と呼ばれる生命維持装置に命を託した。
北海道では、14日に初めて海外渡航歴のない道内居住者の新型コロナウイルス感染が報告され、首都圏より一足早く感染者が増え始めていた。
「本当に迷惑掛けてスイマセン」「何とか一日も早く治るように頑張ります」。新型コロナに感染し、市立札幌病院に入院した自営業の男性(62)は28日、次男(35)にLINEでメッセージを送った。
自動車のディーラーの仕事を退職後、次男と2人で昨年4月、車の販売や修理をする会社を起業した。従業員は2人だけだが、軌道に乗り始めていた。入院直後も頭の中は体調よりも仕事だった。
異変に気づいたのは2月19日。体がだるい。翌朝の体温は38・5度。その日以降も38~40度の熱が出た。男性は旭川市の自宅に妻を残し、仕事のために札幌市で一人暮らしをしていた。同じく札幌市内に住む次男に食事を届けてもらうようにし、男性は家から出ずに安静にしていた。
近くの病院で2度インフルエンザの検査を受けたが、いずれも陰性。次男が市の保健所に問い合わせたが、海外渡航歴やせきがないことを伝えると「その症状はコロナじゃない」と返された。3度目の検査も陰性だったが高熱が続き、医師が保健所に相談し、PCR検査を受けることができた。28日、陽性とわかった。
新型コロナは「自分には関係ない」と思っていた。記憶をたどると、「さっぽろ雪まつり」が開催された2月上旬、多くの人でにぎわった時期に、繁華街ススキノに何度か1人で飲みに行ったことが思い当たった。ふだんから目をこすってしまう癖もあった。ウイルスがついた手で目をさわったりこすったりすることで感染する可能性も指摘されている。ただ、感染の原因ははっきりしなかった。
入院翌日の29日、容体が急変した。息をいくら吸っても苦しい。頭もぼーっとする。CT画像では肺にすりガラスのように白く曇る場所があり、担当医師は「急速に肺炎の病状が悪化している」と感じた。
3月2日、新型インフルの治療薬のアビガンとぜんそく薬のオルベスコを使い始めたが悪化は続き、3日に人工呼吸器を装着。それでも正常な酸素量を保てず、危険な状態に陥った。担当医師は4日、市内で最重症者の治療を担う札幌医科大病院に急きょ転院を相談した。
転院の狙いは、エクモを使うことだった。エクモは、血液を体外に取り出して二酸化炭素を取り除き、酸素を加えて再び体内に戻す生命維持装置だ。治療法が確立しないなか、肺の負担を取り除いて休ませるしか手がなかった。
男性は、転院先の札幌医科大病院でエクモを使うことになった。
エクモの太い管が、男性の首と右足の太ももの付け根から差し込まれた――。記事の後半では、目の離せない治療の様子を紹介します。容体が安定した後、孫から届いた手紙のつたない文字に、思わず目頭が熱くなったそうです。
「いつお亡くなりになられても…
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