- 社会的孤立がメンタルヘルスに及ぼす影響を考えるとき、最も重要な要素は、「その人が孤独を自覚しているか否か」だ。孤独感は、不安やストレス、認知機能の低下を引き起こす。
- 孤立していると感じる期間が長くなればなるほど、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすリスクは高まる。
- 社会的に孤立した状況で心の健康を保つためには、運動や瞑想のほか、できる限り外に出て自然に触れるようにするのが効果的だ。
- この記事では、医療に関する記述の確認を、カリフォルニア州サンタモニカにあるプロビデンス・セント・ジョンズ健康センターの小児家庭発達センターに所属する心理療法士で、LMFT(結婚・家庭に関する認定セラピスト)の資格を持つマイラ・メンデス(Mayra Mendez)博士に依頼した。
ある調査によると、孤独を感じるアメリカ人の割合は5人に3人以上に達し、その数は増加の一途をたどっているという。そして今、新型コロナウイルスの感染拡大によって、ある程度の社会的孤立を感じる人の数はさらに増えている。
今は、すべての人がソーシャル・ディスタンシング(社会的距離をとること)を推奨されている。これは、周囲の人と6フィート(約1.8メートル)以上の距離を取り、食料品店など、不特定多数の人が出入りする場所に足を運ぶ機会を最小限に抑えるというものだ。さらに、新型コロナウイルスに接触したおそれがある人は、少なくとも14日間、自宅で隔離生活に入るよう要請されている。
このようなストレスが高まっている時期に社会的に孤立した状態に置かれると、不安が募り、メンタルヘルスにマイナスの影響を及ぼすおそれがある。この記事では、可能な限り心の健康を保つための方法をまとめてみた。
社会的孤立は心身にダメージを与える
人間は社会的動物であり、孤立した状況は健康に大きな影響を及ぼすと指摘するのは、ニューヨークにクリニックを構える精神科医のズラティン・イワノフ(Zlatin Ivanov)博士だ。
「人間のシステムは、社会的なものも、心理的・生物学的なものもすべて、社会的な集団や他者との交流の中で発達してきた」と、イワノフ医師は語る。
「社会的孤立は多くの場合、孤独感や不安、ときには抑うつ状態などのマイナスの影響をもたらす」
社会的孤立の定義は難しいが、最も重要なのは、本人が孤独を感じているかどうかだ。これを科学者たちは、「自覚的な社会的孤立(perceived social isolation)」と呼んでいる。この状況は、心だけでなく身体の健康にもマイナスの影響を与えるおそれがあるという。
これまでの研究で、「自覚的な社会的孤立」は、抑うつ状態や認知機能の低下、心臓の不調、免疫系の働きの低下などに関わっていることが判明している。加えて、ある研究では、孤独が冠動脈疾患や脳卒中のリスクを30%増加させるおそれがあると指摘している。この研究論文の執筆者によると、その原因はストレスレベルの上昇、睡眠の質の低下、そして不健康な生活習慣といった要素にあるという。すべて、人との関わりや社会的責任が少ない場面で陥りやすい状況だ。
免疫疾患を持つ子どもを抱えていて通常の状況でもソーシャル・ディスタンシングを順守しなければならない家族は、心身の不調に悩むケースがあることが知られている。イワワノフ医師によれば、孤立が及ぼす影響は、時間の経過とともに深刻化するという。
「孤立している時間が長引くほど、不安や孤独感、抑うつ状態など、心理的な不調の兆候を見せる可能性が高まる」と、イバノフ医師は指摘する。
社会的孤立の中で、心の健康を保つには
孤立の悪影響に関するこれまでの研究の多くは、他者と容易にコミュニケーションを取ることができない人たちに目を向けてきた。しかし、何百万人もの人々が物理的に隔離されているにもかかわらず、テクノロジーを介して連絡を取り合うことができているコロナウイルスの場合は事情が違う。
ビデオチャットなどのテクノロジーを用いて、親しい人たちと連絡を取り続けることは、社会的孤立の期間中に心の健康を守るのに役立つ重要な方法の1つだ。
イワノフ医師はほかにも、以下のような習慣を生活に取り入れるよう勧めている。
運動:運動にストレス軽減効果があることは、多くの研究で裏付けられている。運動をするとエンドルフィン(多幸感をもたらす化学物質)の分泌が促され、逆にコルチゾールやアドレナリンなどのストレス系ホルモンの分泌は少なくなる。社会的孤立の中にあっても、安全に留意してランニングしたり、デスクの横でワークアウトをするなどして、強い身体や筋肉を維持することはできる。
瞑想:瞑想は、不安や抑うつ状態を軽減することが、研究により判明している。瞑想用のモバイルアプリに関する2019年の研究では、大学生の被験者に1日10分間の瞑想を試してもらったところ、憂うつな気分が軽減され、レジリエンス(心の回復力)が高まったとしている。しかも、このアプリを頻繁に使い続けた被験者ほど、この傾向が強まったという。ただし、こうした効用が長期間にわたって持続するかどうかを検証するためには、さらなる研究が必要だ。
自然:自然と触れ合うこと、つまり屋外に出て太陽の光を浴び、緑の多い場所に出かけることは、気分の改善につながるという。これは、不安との関連が指摘される脳の部位、前頭前皮質の活動が低下することによるものだ。外に出られる状況にないなら、自然の音(雨の音や鳥の鳴き声など)を聞いたり、自然の写真を見たりするだけでも効果があるはずだ。
ここまで挙げてきた活動は全般的に、ドーパミン、セロトニン、オキシトシン、エンドルフィンなどの神経伝達物質の分泌を促すもので、こうした物質すべてが、心の健康を促進し、気持ちを安定させてくれるとイワノフ医師は解説した。
また、孤立した生活の中でも、プラスに捉えられること(家族と一緒の時間を過ごすことや新しい趣味に挑戦することなど)に意識を集中させると、気分が上向きになり、孤立の悪影響と戦う上で役立つという。例えば、32名の健康な人を被験者とした小規模な研究では、「感謝」の瞑想が、メンタルヘルスの改善や感情の制御に役立ったとの結果が出ている。
この研究では、脳の画像スキャンから、瞑想中は脳内の結合が活発化し、被験者の心拍数が下がることが判明した。ただし、研究チームは、長期的な効果を検証するには、さらに調査が必要だとしている。だが、自分が感謝している物事に関する瞑想は、試してみると役立つ可能性があるというのがイワノフ医師の見解だ。
「自分を幸せな気持ちにしてくれるもの、日々の生活に喜びをもたらしてくれるものに意識を向け続けるべきだ」
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)