2章 1話 プロローグ
絶望が。
聖なる都市カルディアナを支配した。
カルディアナが眠る陽光の月の儀式の最終日に。その悲劇は起きた。
500年前起きた恐怖の具現。禁呪によるグールの出現と聖樹への反乱。
王都の中心の広場で怒号が飛び交い、悲鳴が響く。
「逃げろ!!グールだ!!グールがでたぞ!!!!」
突如各地に現れたグールが人々を襲い始めたのだ。
普通の人かと思われていたそれが、いきなり苦しみだしたと思ったら咆哮をあげて姿が青白く変化していく様は異様な光景だった。
徐々に人の肌が鱗と化し青白い肌になり牙をはやし変貌していく様子は紛れも聖書で恐れられ畏怖の対象とされるグールそのものだ。
グールは500年以上前。
人間が聖樹に対抗するために生み出した禁呪。
過去ファラリナの力を奪おうとした禁忌の魔法。
既に過去の出来事となり人々にとっては絵本や聖書でみるおとぎ話や伝承の中の話――のはずだった。
そのおとぎ話の存在が突如街中に現れ人々を襲おうと動きだしたのである。
街の人達は誰一人その真実を知ることはなかった。
かつてファラリナに滅ぼされたはずのダルシャ教徒達が各地で一斉にグール化して人々を襲い出したのということを。
ただわけもわからず現れたグールに人々は逃げ惑うしかなかったのだ。
「さぁ!!カルディアナ王都が滅びれば人間は滅亡を迎える!!
我らだけを聖樹に挑ませ、敗れた途端我らを迫害した人間達に復讐を!!!!」
小高い時計台の上から眼下に広がる逃げ惑う人たちと自らの部下がグールと化して人々を襲い始めたのをみたダルシャ教徒が歓喜に震えたその瞬間。
ズゴゴゴゴゴゴ
ものすごい音をたて、それは現れた。
カルディアナの王都の中心に聖樹カルディアナを超える巨大な木が突如姿を現したのだ。
そちらに慌てて視線を移せば木の上にたたずむのは金髪の赤い瞳の少女。
「なんだ!?まさかあれが聖女か!?」
月夜に金色の髪をなびかせて微笑む少女が手をあげた途端
ザシュ!!!!!
――カルディアナ王国全土に無数に伸びた木々がグールだけを貫き、ぐちゃぐちゃとグールの復元力が追いつかなくなるまで痛ぶり続ける。
逃げ惑う人々を助けるかのように蔦がグールめがけて飛んでいき、喰らいつくしているのだ。
人間だったころの原型をとどめたそれを容赦なく、潰し、切り刻み、血を飛び散らせているのである。
「ありえないっ!!!
たかが聖女があのような力を使えるなど!?
聖樹が眠る陽光の儀式中だぞ!?
聖樹が聖女に乗り移ったわけでもないのになんでこんな広範囲攻撃を!?
聖女がそんな力を使えるだなんて聞いたことは………」
邪教徒が悲鳴をあげれば
――人間の知識ごときで何がわかるのかしら?
ファラリナで成功したからと調子にのったようだけれど……。――
どこからか可愛いらしい声が直接脳に響き邪教徒が目を見開いたその瞬間。
少女がこちらを見た。
ニコニコと笑を浮かべーーそして口が動く。
「みつけた」
――と。
それと同時にまた声が頭の中に響く。
――ごめんね☆うちの聖女ちゃんは規格外の最強だから☆――
それが邪教徒が、最後に聞いた言葉だった。
木の蔦に身体が貫かれていたのだ。
邪教徒は理解した。この少女こそ、カルディアナの聖女ソニアだという事を。
そして頭に直接響く声の主は聖樹カルディアナだという事を。
これは、最強すぎる無自覚聖女と、聖女をまったく制御する気のない聖樹に翻弄される人間達の苦労話――かもしれない。
お世話になっております。てんてんどんどんです。
「虐待されていた商家の令嬢は聖女の力を手に入れ、無自覚に容赦なく逆襲する」
が、書籍化できました。これも皆様のおかげです。ありがとうございました!
書籍化にともない全43話の2章をスタートします!
2章スタートにつき、1章の方も修正が入っております。
よろしくお願いいたします。
☆書籍化概要☆
作品名「虐待されていた商家の令嬢は聖女の力を手に入れ、無自覚に容赦なく逆襲する」
レーベル:エンターブレイン(KADOKAWA様)
作画:くろでこ様
発売時期:8月31日
詳しい概要は活動報告にて掲載させていただいております!
また別作品「悪役令嬢ですが死亡フラグ回避のために聖女になって権力を行使しようと思います」もコミカライズ化が決定しました!
マンガpark様(無料で漫画が読める漫画アプリです!Webでも読めます!)で秋から冬にかけて連載予定です!こちらも併せてよろしくお願いいたします!