1章 閑話(聖樹達の会話&シャーラ達その後)
「お母様が!!あんたが悪いのよ!!!ソニアを虐めるなんて言うから!!」
「何を言ってるの!?最初に殴ったのはあんたでしょ!?」
「いたいいたい痛い!!お母様っ!!なんとかしてっ!!」
「何言ってるの!!私の方……がっががががが」
「お前らの!!お前らのせいだ!!お前らのせいで私ま……うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴と怒号が塔の奥の部屋から聞こえてくる。
……本当にこの仕事は心臓に悪い。
懺悔の塔の護衛についたダンゼルはため息をついた。
カルディアナの聖女に7歳の成人の儀式をうけさせず、監禁し虐待した親子と、聖樹の儀式の秘密をばらした罪で、かつて大神官だった男が永遠の苦痛を味わわされている。
人は過ちを忘れやすい。
500年前、人間が聖樹ファラリナに逆らい、聖樹を支配下に置こうとした事があった。
人間は禁呪を使い、本来不死のはずのファラリナの聖女を殺し、聖樹ファラリナの力を取り込もうとするなどという暴挙をおかしたのだ。
一時は上手くいくかに見えた。
が、結局聖樹ファラリナの前に人間は敗れ、ファラリナに害をなそうとした人間達はすべて殺され、関係のなかった人間達までも、一部の聖樹からは受け入れを拒否され、緑の地から追い出された。
住む場所をなくし放浪していた人類を受け入れてくれたのが500年前までは幼木にすぎなかった聖樹カルディアナだったのである。
そのような大恩があるにもかかわらず、人間は500年たつうちにその恩義を忘れ、聖樹との誓いを破った。
事もあろうに聖樹カルディアナの愛する聖女に虐待をしていたのである。
人間は寿命が短いゆえ忘れやすい――それ故、その記憶から自らの罪を消さぬように。
記憶にとどめておくようにと、偽聖女たちが見せしめとして未来永劫苦しみを与えられることになったのだ。
そして年に一度。
一般公開される。
一般人に関しては閲覧自由だが……王族や貴族の重鎮達はその罪を忘れぬように必ず見に来なければいけない。
死ぬことすらゆるされず永遠に魔獣に食われ続ける存在。
扉の奥にはその罪人達が毎日毎日生きたまま魔獣に食われ、そしてまた復元するという死ぬこともできぬ苦痛を味わわされているのだ。
せめて狂ってしまえば楽になれるだろうに、狂う事すら許されないらしい。
時折聞こえてくる断末魔が本当に心臓に悪い。
せめて聞こえないようにしてくれないだろうか。
ここの警備の給与がいいのが分かった気がする。
本当に心臓に悪い。
ダンゼルは給与につられてこの塔の護衛になったことを心から後悔するのだった。
□■□
~聖樹達の会話~
『貴方が人間を許すとは思わなかった。
大事な愛子にあんな事されたのに』
長い黒髪の少女がぽつりとつぶやけば、紫髪の少女が肩をすくめた
『だって健気なのよ?うちの愛子ちゃん。
あんなつらい記憶ばかりなのに好きな人を忘れたくないって必死になられちゃったら、奪えるわけじゃないじゃない。
あの人間と暮らしたいと望むなら滅ぼすわけにはいかないわ』
『カルディアナは相変わらず甘いね』
今度は金髪の美女が突っ込みを入れる。
『エルディアだって人の事いえないと思うけど。
愛子ちゃん大好きじゃない』
『当たり前だろ。うちの愛子が一番だ。特に肉球ともふもふ』
『うちのリベルだって可愛いの。まだ仮初の聖女だけれど。
本当の聖女になるのはシリルと一緒にいたいって断られてしまって寂しいけれど。
そろそろ本当の聖女になってもらって帰ってきてほしい。
流石に一人は飽きてきたもの』
ファラリナが少し不貞腐れたように頬を膨らませた。
『無理矢理聖女認定してしまえばいいじゃないか』
『嫌。嫌われたくない。
あの子の母親を守れなかった負い目もある、あの子は自由に生きてほしいから』
『……結局皆愛子には甘いのよね』
カルディアナ、エルディア、ファラリナは全員揃ってため息をつくのだった。
8月に二章を開始するにあたり一章も訂正させていただきました。
大きな変更はありませんので、訂正前から二章に読み進んでいただいても大丈夫です。
■訂正部分
リーゼ年齢 18歳→15歳
ファルネ年齢 19歳~20歳→25歳
叔父の名前 グラーシ→ヘンケル
リーゼのファルネの呼び方 神官様→ファルネ様
グロシーンカット→ほのぼのシーン追加
パトリシアという馬の追加
となっております。話の大筋に変更はありません。
8月から二章がスタートする予定ですのでよろしければお付き合いいただけると嬉しいです。
宜しくお願い致します。