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【書籍化】虐待されていた商家の令嬢は聖女の力を手に入れ、無自覚に容赦なく逆襲する【本編完結】 作者:てんてんどんどん
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1章 40話 想い(1)

「一体何がおきているのですか!?」


 リベルに抱き抱えられながら、神官の正装の顔の見えない黒装束に身を包んだファルネが叫んだ。

 他にもリベルは背中にカイルを。右手にラーズを抱えて逃げている。


 シリルたちとの打ち合わせでは、シャーラ達の身体を不死身にし、4人だけを会場で拷問の限りをつくすとは聞いていた。

 そうでなければ気が収まらぬと。


 だが広場にいる人間には危害を加えない約束だったはずだ。

 それなのに聖樹が広場の人間たちにまで攻撃をはじめている。


 シリルが必死に防いでいるが情勢はやや不利に見えた。


『大変大変!身体の主導権リーゼに戻った!

 リーゼ混乱してみんな攻撃している!!!』


 ファルネとラーズとカイルを抱えながら逃げつつリベルが言う。


「まさか、虐待していた従姉や叔母を見てリーゼが混乱して身体の主導権を握ったと!?」


『たぶんそう!カルディアナ様、身体取り戻せないって焦ってる!!!』


「リベル様!!私をリーゼの所へ!!!」


『無理!!無理!!!


 リーゼ今聖女の力フルパワーで使える!リベルでも近づいたら死ぬ!!!』



――まったく世話が焼ける!!!――


 リベルの言葉とともに。今度は別の声が頭の中に響いた。


「このお声は……エルディア様!?」


 ラーズが叫んだその瞬間。


 世界は一面真っ白になった。

 先ほどまで逃げ惑っていた広場の人間の姿は消え、この空間にはリーゼ達しかいない。


『これは?もしかしてエルディア?』


 カルディアナの声に


『そうだよ。私たちだけ世界を隔離した。

 これで関係ない人間に被害はでない。

 まったくシリルをついて行かせてよかった。

 何やってるのさカルディアナ』


 言ってシリルの後ろにボワっと気の強そうな金髪の美女が現れる。


 その後ろには紫色の髪をした綺麗な少女が立っていた。


 そう、カルディアナとエルディアだ。


『リーゼの意志が強すぎて乗っ取られちゃった』


『乗っ取られちゃったじゃないだろ!?

 人間にのっとられてどうすんのさ!?』


『……本当。何で主導権をとられるかな』


 今度はリベルの後ろに黒髪の美少女が立っている。

 聖樹ファラリナだ。


「こ、これは……」


 リベルに抱えられたままのラーズが思わず声をあげれば。


『ここはあの世とこの世のそのはざま。精霊の世界。

 私達聖樹の精神体も見聞きできる世界さ』


 金髪の美女エルディアが答える。

 カルディアナに力を貸すためにエルディアもファラリナも自らの聖女がこの地へ行くのを許可していた。

 シリルとリベルがいるため、エルディアもファラリナも具現化できる。


『聖樹様久しぶり!!元気してた!!』

『いい子にしてた?愛しい子』


 リベルが嬉しそうにファラリナに言えばファラリナがニコニコとリベルを撫でる。


 その光景を眺めつつ、あのクマ。メスだったのか……と、心の中でツッコミを入れるカイル。

 カイルも黒装束を着てラーズの後ろに控えていたため一緒にこの世界へときている。


 その間にも無慈悲なリーゼの残虐行為は少し離れた場所で続いているのだが……。


 そもそもシャーラ達を死ねない身体にしてあるため聖樹達は気にもとめもしない。

 ギャー!ワー!と絶叫をあげるグラシルやシャーラ達の悲鳴も単なるBGMだ。


「カルディアナ様、リーゼは、リーゼは大丈夫なのでしょうか?

 記憶を取り除いたはずでは?」


 ファルネがシャーラ達に容赦ない攻撃を加えているリーゼを見ながら叫ぶ。

 リーゼの様子はあきらかに変だ。

 怒りを込めて攻撃しているというより、恐れて攻撃しているように見える。

 泣きながら攻撃しているリーゼの様子にファルネは胸が締め付けられた。


 リーゼのつらい記憶は抜き去ったのではなかったのか。


『それがね。記憶をなくすのが嫌って、言うことを聞いてくれないの』


「どういう事でしょうか?」


『貴方との記憶をなくすのが嫌みたい。抵抗するから記憶が消せないの』


「ですが!!記憶をなくさなければ彼女は一生苦しむことになります。

 永遠に拷問の痛みの記憶に苛まれるのですよ!?

 今あの二人を目の前にして怯えているように!!彼女の傷は癒えない!!

 はやく止めてあげないと!!」


『ねぇ。貴方があの子の幸せを勝手に決めるのは傲慢じゃないかしら?』


「……え?」


 カルディアナの言葉にファルネが固まった。


『あの子はね、必死に貴方との記憶を守ろうとしているの。

 私に逆らってまで。


 痛い思い出も。辛い思い出も。

 ファルネ様と会うために耐えた自分の努力だから。

 自分の努力を否定しないでって』


「……ですが、そのために、彼女はあのような苦痛を受けた記憶をずっと所持していなければいけないのですか!?」


 言ってファルネは涙が溢れるのが止まらなかった。


 シリルに言葉が話せないリーゼと意思疎通できるように、リーゼが思っている事を直にわかるようにしてもらった。

 そのおかげで彼女の気持ちがわかるようになり、意思疎通ができるようになったが、同時に彼女の痛みまでわかるようになってしまった。


 時折彼女が思い出す拷問の記憶は残忍で。

 自分だったら死を望んだだろうという酷いものだった。

 激しい痛みと、恐怖。普通のものだったら発狂しかねない虐待。

 あのような苦痛をずっと背負って行かねばならないのだろうか。

 あの素直で純粋な少女が背負うには、あまりにも酷すぎた。


 あのような記憶を所持していることが幸せだとは、ファルネにはどうしても思えなかったのだ。


『ねぇ、幸せって他人が決めるものなの?

 それが人間が傲慢な理由じゃないかしら』


 言ってカルディアナがファルネに触れる。


「……カルディアナ様?」


『受け取って。あの子がどれだけ幸せか。どれだけ貴方を好きか』


 同時にカルディアナの手が光り輝くのだった。



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☆悪役令嬢ですが死亡フラグ回避のために聖女になって権力を行使しようと思います☆
☆コミカライズ連載中!☆
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