文と写真:鈴木まほ
日本ではブリーダー業というれっきとした職業があるにも関わらず、ブリーダーを悪者のように見立て攻撃する人がいることにいつも疑問を感じていた。
今回は批判も覚悟でこの記事を書くことを決めた。新たな気付きに繋がる人が1人でも増えると信じて―――。
同じことを二度言うが、ブリーダーは国が認めた立派な職業である。命を扱うが故、後ろ指を指されることも多いが私自身ブリーダーに対してネガティブなイメージはない。
あなたが大切にしている可愛い家族の一員の犬は、遠い昔ブリーダーが日本で良い遺伝子を残そうと頑張ってきた結果ではないだろうか。
世の中にこれだけの犬種の犬がいて、自分好みの犬種を選び家族に迎え入れることが出来る。これはブリーダーが今まで頑張ってきてくれたおかげだと思う人はいないのだろうか。
ブリーダーは”本当に”悪ですか?
劣悪な環境で管理もままならぬ状況で育てるブリーダーは登録はく奪に向けて声をあげるべきだが、愛犬家が犬を想い育てた犬を売る行為の何が悪いのだろう。
犬の「命」に価値をつけるのではない。寝る間を惜しみ親犬と子犬の世話をする。遺伝子的に問題のない健康な犬を作るその行動そのものに「対価」を与えるのは当たり前ではないか。
ここまで読んで腹が立った人も、是非最後まで読み進めてほしい。
あなたが想像している以上に、ブリーダーがいなくなった日本の犬達はもっと不幸になる。その未来の一部を私と一緒に想像してみよう。
ここから先は新たな発見はどこにあるか考えながら読んでいってもらえたら嬉しい。
キレイ事じゃない。あなたは保護犬を飼えますか?
ブリーダーがいなくなれば、皆保護犬から犬をもらう。里親が増えるから安心だ。
そう思っている人の何人が「保護犬飼育経験者」なのだろう。
面白い事に、里親になるよう強く呼びかけている人の中にはブリーダーやペットショップから犬を飼った人※もいる。ブリーダー廃止や反対を訴えながら。
※ブリーダーやペットショップで飼ったから愛護活動をしてはいけないという意味ではない。ここで伝えたいのは言動と行動が一致していない人のことを指す。(例:ペットショップで飼ったのにブリーダー反対!など)
正直に言う。
私は2匹の保護犬を飼った経験があるが、初めて保護犬を見た時はニオイと見た目の酷さにショックを受けた。あなたが想像している以上に現実は辛いものである。
この時私は理想と現実のギャップに悩まされた。犬が好きで次飼う時は保護犬を幸せにする。強い意志の下、里親になろうと愛護団体へ向かったのに…その日は犬を引き取らずに帰った。
そして自分の不甲斐なさに泣き、苦しんだ。
犬が好きでも即決できない現実がそこにあったのだ。
結果的に犬に選ばれるようなかたちで縁があり、病気も気にならない程幸せにしたい子に出会ったから保護犬を家族に迎え入れた。
もし、この時この子と出会っていなければ私は生涯、犬を飼わない選択肢を選んでいたかも知れない。犬が飼いたくても飼えない現実に悶えながら。
あなたは命を選ばないと言い切れますか?
私はミニチュアダックスフンドが大好きだ。足が短くて胴が長くてチョコチョコと動き回る姿に癒される。恐らくあなたにも好きな犬種がいるだろう。
トイプードル・チワワ・パグにピンシャー。頭にパッと浮かんだ犬がいるに違いない。
私は保護犬を飼った。でも命を選んだのだ。たくさんいる犬達の中から無意識に自分好みの1匹だけ選んだ。これは紛れもない事実。
ペットショップで購入していないとはいえ家族にする子を選んだことに変わりがないということ。好きな犬種の自分に興味を示してくれた子を家族にした。
こんな私を軽蔑しますか?命を選んだ私に。…でもこれが人間の真の姿だ。
中には自分の目の前に差し出された犬を家族に迎え入れられる人もいるだろう。こういう人には尊敬の念を抱くが、この決断が出来る人はごくわずかであると…私は思う。
これから先、ブリーダーがいなくなったとしたら、向こう数年は自分の好きな犬種を選び保護犬を家族に迎え入れることが出来るかも知れない。
日本中が保護犬から犬を飼う。…今いる犬種を”意図的”に増やさなければ純血種は日本からいずれ途絶えてしまうのではないか。
―――保護犬の中には「野犬」といって、山の中などで育った犬達も保護されている。これらの犬は雑種でペットショップに並ぶ犬とは違う見た目の場合が多い。
小さくて可愛らしい人気の犬種とかけ離れた大きくたくましい、番犬にピッタリの見た目の犬かも知れない。昔から日本に住み着いていた土着犬のような…いわゆる雑種が保護犬のメインになる気がしている。
想像してほしい。
あなたは犬が飼いたい。保護団体へ行く。尻尾を振ってあなたを待っている犬達はみんな理想とかけ離れた姿をしている。
犬は犬に違いない!私はこの中から選びます!
果たして何人の人がこの決断をできるだろうか。
さらに言えば、保護犬は過去の経験から噛み癖や人間にとって困る癖をもつ子もいる。中には家族に迎え入れても懐かない子さえいる。
そして何よりも保護犬は子犬よりも成犬が多い。子犬しか飼わない選択肢をもつ人も多い中、ブリーダーがいなくなった未来はどのようにして子犬を家族に迎え入れるのだろうか。
ブリーダーは居ない。ペットショップで飼いたい犬種は選べない(買えない)。保護犬しか選択肢がない日本の未来は…一般人が繁殖させた子犬に需要が訪れる未来が容易に想像できる。
保護犬でも子犬は人気があり殺到している事実を私は知っている。
保護犬を家族にしてほしい。でも現実は保護犬以外の選択肢も”誰か“が作り出す。
既に、今現在も素人が犬を繁殖させ譲渡したり売買されている。ブリーダー規制ばかりが強まる一方で知識のない素人の繁殖は取り締まりの対象外なのだ。
仮にブリーダー廃止が行われた後の未来の道は出来つつある。
一般人の繁殖は悪質ブリーダーよりもタチが悪い。繁殖に責任もなければ、逃げ道もいくらだってあるからである。
無知こそ悪である。素人繁殖の恐ろしさ
某SNSでは交配を希望している方達のためのコミュニティーがあり、毎日のように「お嫁さん・お婿さん募集」といった形で自分の愛犬との交配相手を探している。
ここでのやり取りは皆、素人同士で行っている。
ブリーダーは繁殖させる犬種の知識を持ち、動物取扱業登録を持っている者が犬を繁殖させている。そのため掛け合わせの悪さや、遺伝子的に問題が出やすいなど知識と経験を駆使して犬を繁殖させる。
しかしここはどうだろうか。
自分の飼っている犬の子孫が欲しいがために、交配相手を探している。疾患やミックス犬の恐ろしさを知らずに「子犬が欲しいのでよろしくお願いします」と楽し気に募集をしているのだ。
ブリーダーが悪なら一般人の繁殖は何と呼べばいいのだろう―――。
ミックス犬をご存知だろうか。
人間が意図的に2種類以上の純血種から作出した交雑犬を「デザイナードッグ」と呼び、チワワやダックスなど別の犬種をかけ合わせて作る犬の事だ。
ミックス犬は純犬種に比べるとまだまだ歴史が浅く、知られていないことも多い上、ミックス犬を更に交配させると遺伝的な疾患を持った子犬が生まれやすくなると言われている。
まだ純血同士の交配を希望するなら良いものの、自分が可愛いと思う犬種同士で交配させている人も少なくない。
ブリーダーは犬について知識はあるが、素人は「可愛い」だけで繁殖させ、そして自分が欲しい1匹を残して残りは販売している人もいる。
中には販売に味を占めて悪質ブリーダーよりも酷い繁殖を繰り返している者もいる。金額はあれやこれやと追加されブリーダー以上の価格になることもザラで、健康被害が出ても購入後亡くなっても責任は取らない。
何故なら販売者は素人だから。一般人の繁殖こそ規制が必要なのではないだろうかと日々思う。
チワワとプードルの異種間での交配を例に挙げてみる
元々チワワは難産で帝王切開を起こしやすい犬だ。
母犬の産道に比べて赤ちゃんの頭が大きく、難産になることが良くあるためである。それがチワワよりも体の大きいプードルの血が入る。
母体がどうなるか想像できるだろうか。
帝王切開で母体が無事ならまだ良いが、出産前に子宮破裂を起こしたり、出産時に母犬が力尽きることだってある。赤ちゃんが産道より大きくて中で詰まり母体・子犬共に命を落とす危険もある。
更に、異種間の交配で誕生した赤ちゃん犬は目がない・耳がない・指がないといった奇形が産まれやすいと言われており、見た目に問題がなくても体が弱いことも珍しくない。
こういった犬を「可愛い・うちの子の遺伝子を残したい!」といった理由で作り上げる素人は問題視されず、ブリーダーだけが規制されていく考えがおかしい。
もちろん、規制は必要だ。より良い日本を作るために欠かせないものである。だが、もっと大切なことを放置して指摘しやすい部分だけの規制をしているようでは日本は良くならないのではないか。
ブリーダーがいなくなった日本で子犬繁殖のメインは、今子犬を陰で繁殖させ販売させている素人にシフトしていくのだろう。
「ブリーダー廃止=保護犬を迎える選択肢のみ」を考えて声をあげている人も多いが、一般人の繁殖を野放しにしている日本では到底無理な話である。
ブリーダーを「悪者」にしないために。今あなたに出来ること
ここまでブリーダー廃止後の未来は、新たな問題が発生する可能性があることをお分かり頂けたと思う。
繰り返しになるがブリーダーは悪ではない。悪質なブリーダーのみが罰せられるべきで、本来、犬を愛してやまないブリーダーには感謝をするべきなのだ。
あなたが憎むブリーダーのうちの「愛犬家タイプ」が、未来に続く健康な犬を繁殖させているのだから。ブリーダーがいなければ日本のペット事情は崩れてしまう。
ペット先進国でも「生体販売」は行われている
よく「生体販売」が問題視されているが、ペット先進国イギリスでもブリーダーは犬を販売している。日本のようにペットショップでの販売はないが、人工的に繁殖をさせ命を扱う職業自体はある。
ペット先進国のイギリスでも健康的な犬を育てた「対価」をブリーダーに支払っているのである。こうやって考えれば、生体販売自体も「悪」ではないことが伝わるだろうか。
では、どこに日本とイギリスの差があるのか。
それは、
日本以上に犬に対する想いが強いため日本のように簡単に犬が飼えない点。犬自身に社会的地位が設けられている点が大きく異なる。
人間と犬の命が平等に扱われているのだ。
具体的には、
- 犬を飼う時は調査が入り条件をクリアしないと飼えない
- 犬を飼う前に費用や自分たちが幸せに出来るか想像する
- 留守番をさせる場合はドッグシッターに頼む
- 犬を飼ったら飼い主と犬が一緒にしつけ教室へ通う
- 散歩は基本ノーリード。カフェや交通機関も乗れる
日本のように「犬を飼おう!」で犬を家族に迎え入れることは出来ないし、仕事だから留守番を1匹でさせることは許されない。留守番時はドッグシッターに日中ケアしてもらうか、ドッグデイケアで犬を預けに行く。
散歩は基本ノーリードだが、そのためにはしつけをキチンと行う必要がある。公共の場やカフェでも一緒に過ごせるように犬と共に飼い主がしつけを学び実行する。
飼い主と言っても1人じゃない。家族全員でしつけを学び犬と向き合う。
犬が犬らしくあるために、そして家族に迎え入れることで幸せになれるように考えて行動している。
一方日本はどうだろう。
犬を購入する前にどれだけ犬を幸せに出来るか、金銭面の問題は無いか、しつけ問題やお留守番事情を…考えて飼う人はどれだけいるだろう。
犬を人間と同等の命として扱うということ。これは日本に根付いていない文化のため、非常に難しい問題である。
昔から犬をパートナーとしていた国と家畜扱いをしていた日本。根本が違うところからのスタートだということを理解した上で、私達が「今出来ること」を考え直す良い機会なのではないだろうか。
何度も言うが生体販売はその人が犬にかけた時間に対しての「対価」である。命を軽視しているから値段が付いている訳ではない。生体販売をしても命が平等な国があることを伝えたかった。
無責任はやめよう。ブリーダー廃止を願う前に
生体販売が悪いのではない。ブリーダーが悪いのでもない。
何も考えずにブリーダーを選び、犬を飼う人がいるから悪質ブリーダーを生み出してしまう。
悪質ブリーダーが増えれば、それだけブリーダー全体の印象を悪くしてしまう。しかし、そうなる原因は犬を飼う側にもあるということを知って欲しい。
犬のことを学びもせずに、犬にとって負担な理想像を押し付ける。
その証拠に「この子はこれ以上大きくならないですよ」といった販売文句をよく耳にする。成長はそれぞれで小さければ良いわけでもないのに「小さい個体」が好まれるが故、そのような発言に繋がるのだ。
需要があるから供給がある。犬が犬らしくいることよりも、ぬいぐるみのような可愛さを求めてしまう人がいるから悪質ブリーダーの需要は増す。
我々がするべきことはブリーダーの廃止を目指すのではなく、悪質ブリーダーを排除するために出来ること・するべきことを学び実行することだ。
そうすることでブリーダー全体の質が上がり、悲しい命を増やさない結果に繋がるだけでなく、これから先の未来も健康的な犬をパートナーにしていけるのだから。
むやみにブリーダー廃止を目指し、素人繁殖がはびこる未来を促してはいけない。
はじめまして、Instagramの記事を読んでこちらに来ました。
私もブリーダー廃止には反対です。
私も色々思う事があり、こちらHPの記事に共感したのでコメントさせて頂きました。
私は普通の一般人ですが、今まで捨て犬、血統書付き、現在は保護犬と十数年以上犬飼っています。