サントリー1万人の第九では、感染症の専門医と医学部教授の計2名を「1万人の第九感染対策アドバイザー」として招聘し、開催に向けて逐一アドバイスを受け、準備を進めてまいりました。以下、皆様にご入場いただく大阪城ホールのアリーナでの安全性の検証結果について詳しくご報告いたします。
まず、大阪城ホールのアリーナには、排気システムは2系統あります。通常の空調システムで、天井の6列からなるレーンに多数開口した給気口から冷房暖房の空気が給気され、アリーナの内周沿いの溝に設けられた排気口へと流れる気流による排気と、天井に設置された4台の排気ファンによる排気がもうひとつ。これらの換気をフルで行うと、アリーナ内は、約20分に1回程度空気が入れ替わる状態になることを前提にスモークテストを行いました。
スモークの熱対策
スモークは熱で焚くため、出してすぐは温度が高い。
そこで、直径20cmほどの蛇腹(長さ約2m)を経由して、体温くらいまで冷ましてから放出することで、熱による上昇要素を排除した。
合唱者本人は、クリアマスクを着用し、首掛け式の簡易扇風機でエアロゾルを上方に飛ばすことで、クラスターの発生を防ぐ。
したがって、歌唱者の頭上に上方の気流を確保することが必須となる。
その気流を確認するテストを以下の手順で行った。
アリーナ内は、空調(給気は天井全面に放射状に16列配置された給気口から。排気はアリーナの周りを1周する側溝からと天井全体の4台のファンから。)
通常、コンサート開催時は空調をきかせている。(天井より給気+下方より排気)
アリーナ内の排気を強制的に行う際は、天井の排気ファンをまわす(上方排気のみ)
上方排気のみ行う際にはアリーナの減圧を防ぐため扉を開けなければならない
そこで、アリーナ内の気流について、上方排気4台と下方排気4台の強さの組み合わせで、アリーナ内のスモークの流れを確認した。
Aパターン | Bパターン | Cパターン | Dパターン | |
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上方排気 | 2台 | 4台 | 4台 | 4台 |
下方排気 | 4台 | 2台 | 0台 | 4台 |
スモーク流れ | スタンド席からアリーナへ | スタンド席に滞留 | スタンド席から上方へ排気 | スタンド席に滞留 |
表1. 排気の組み合わせとスタンド席の気流の関係
表1の結果、スタンド席での合唱者の安全を確保できるのは(スタンド席で上方への気流を確保するには)Cパターンのみの結果となった。(歌唱時)
しかしながら、Cパターンの上方排気4台のみ稼働すると、気温調節ができないうえに、減圧のために開けたアリーナの扉から寒気が流入する可能性があるため、歌唱のない時間帯は、合唱者に通常のサージカルマスクを装着してもらうことで「観客」とみなし、空調を稼働させ、下方排気を稼働しても可能とする。
リハーサル、本番など合唱者が歌唱するときは、Cパターンで換気を行い、それ以外は、観客とみなし、サージカルマスクを着用してもらうことで、空調を稼動させる。
合唱に必要なディスタンスは、2mとされているので「横2席 縦2列」でカウントしていたが、現場で、吉田先生の判断で「横2席 縦は空けずに前の二人の真ん中に位置する」でも1.5mは取れるため、写真のように1.5mディスタンスで実施した。
このスモークテストを受けて・・・
後日、吉田教授と浮村教授、事務局スタッフとで議論を重ね、大阪城ホールで合唱を行うのに安全と思われるポイントを割り出しました。 その結果に重ねて、後日、音響担当者、佐渡総監督、舞台監督と意見交換し、ステージ後方のスタンド席は合唱を行わず観客席とし、合唱団と観客席その間は1ブロック座席を開けることとしました。
その結果、安全な合唱団の配置、観客席を下記のように割り出しました。
なお、今後お社会的な感染症の拡大状況によりましては、大阪城ホールへの入場者人数や配置の編子、また、予定している公演内容を変更せざるを得ない場合もございますので、悪しからずご了承ください。
「1万人の第九」では、通常の会話よりも10倍近い飛沫を飛ばすと考えられる危険な歌唱を、多人数が集まって行うことから参加者相互の感染伝播が危惧されます。そこで1万人の第九クラスター発生を避けるためには、一人一人が放出する呼気が周囲の人の口に届く前に排気する工夫が必須で、事務局スタッフと8月から徹底的に検討を重ねました。
大きな飛沫はマウスシールドでかなり止めることができますが、微小飛沫はマウスシールドの上や横からどんどん漏れていきます。それを避けるために、一定の理論的な対策(首掛け扇風機の採用)は立てたものの、実際の微小飛沫の動きは会場での気流の可視化が必要でした。
そこで会場に、首掛け扇風機を使った模擬的な合唱グループを設置してスモークを焚き、すべての場所で気流の実証実験(スモークテスト)を行いました。
第一に、会場の持つ空調と換気機器の組み合わせの可能性をいくつも比較し、天井にある排気ファンのみを動かすことで、全体の気流をスムーズに上方に流せることがわかりました。
このことから、床からの排気を伴う空調を起動するところを歌う直前で停止し、合唱中は変則的な排気ファンのみフル稼働とすることにしました。
この天井の排気ファンをフル稼働することで、スタンド席のほとんどの場所で安定した上昇気流が確保できることが確認されましたが、それはさほど速い風ではありません。
そこで第二に個々の合唱メンバーが首掛け扇風機を活用して放出した微小飛沫を連続的に頭上1m程度に舞い上げることで、周辺の人にかからないようにしています。
微小飛沫をこの高さまで上げて会場の上昇気流に載せれば、合唱メンバーの放出した微小飛沫は連続して天井の排気口に流れ、休憩による換気も無用なくらいの安全性を確保できたと考え、この度、参加可能な人数の発表に至りました。
今後本番のための感染対策マニュアルを作成し、さらに様々なお願いをすることになると思いますが、「1万人の第九」の安全な実施のため、参加者のご理解とご協力をお願い致します。
『1万人の第九感染対策アドバイザー』
大阪医科大学附属病院 感染対策室 室長
浮村聡(医学博士、ICD)
藤田医科大学 医学部 教授
吉田友昭(医学博士、ICD)