風流人と野暮男。
「………土方さん。風鈴なんてどこに仕舞ってあったんです」 聞き慣れない音に引かれてやってきた斎藤が、さも珍しいものでも見つけたかのような表情で歳三に声をかけた。 暑い盛りであっても、襟元一つ乱さず汗一つ掻かない斎藤である。対して、暑そうに卓上で墨を磨る歳三の額には汗が光っていた。 「………ここの主人に借りたんだよ。こう暑くちゃ公務にも支障が出る」 「しかし、どうして副長室の部屋の前の廊下に飾るんですか。公務に支障が出る、と言えば、毎日暑い中巡察に出かける隊士達の集まる 大部屋の前の方がいいでしょう」 斎藤は障子を開けたまま、廊下で涼やかな音を奏でる風鈴に目を移した。青銅の釣鐘型の風鈴である。風が吹くたびに、短冊が揺れ て、『ちり、ちり』と何とも涼しげな澄んだ音を奏でていた。 歳三はジロリと斎藤を睨む。 「大部屋の前に飾られるよりも、ここに飾られた方が、風鈴も喜ぶ」 歳三の言葉の意味がわからず、斎藤は首を傾げる。 「風鈴が喜ぶ? あんた、何言ってんですか」 「…………」 歳三は暑さの所為ではなく顔を真っ赤に染めると、俯いて墨を磨るのに専念する。斎藤は後ろ手に障子を閉めると、膝をついて歳三の すぐ脇に座った。 障子を隔てて聞こえる風鈴の音が、僅かに羅紗がかかったように遠く聞こえる。 「………な、何だよ。用事がねぇんなら、さっさと隊務に励みやがれ」 気恥ずかしさで顔を真っ赤に染めつつ、歳三はうるさそうに左手で斎藤の体を払う。その腕を掴むと、斎藤は尋ねた。 「さっきあんたの言った言葉の意味がわかりかねます。風鈴など、所詮は銅や鉄の塊じゃないですか。そんなものに、あんたは『喜ぶ』だ の何だの、まるで人間に対する物言いをする。それが私には理解できない」 淡々と説明する斎藤に、歳三は嫌な顔をする。 「俺、お前のそういうところ、嫌い」 「そうですか」 「全然情緒がなってねぇよな」 歳三はガシガシと親の仇でも取るかのような勢いで墨を磨り続ける。 「どうせ、大部屋の隊士達もお前と同じで風流がわかんねぇ野暮男ばっかだ。あんなところに風鈴を飾ったって、飾るだけ無駄だろうが。 それならこっちに飾った方がいい」 顎を伝う汗を拳で拭い、歳三は唸る。 「……そこに座ってるだけなら、団扇で扇ぐぐらいしたらどうだ」 相変わらずの女王様然とした態度に怒る様子もなく、斎藤は手を伸ばして団扇を取ると、無言で歳三を仰ぎ始めた。 「なるほど」 今まで黙って団扇で歳三を扇いでいた斎藤が、ふいに声を上げた。そして薄く笑みを浮かべる。 「……何が、なるほどだ」 「土方さん、暑そうですね」 「………は?」 「少し、涼しくさせてあげますよ」 「え?」 斎藤の手が歳三の右手に伸び、手の中から墨を奪う。 「ちょっと…おい、返せよ、会津藩への報告書書かねぇと……」 「そんなの、後でいいでしょう。日が暮れて涼しくなってからで」 斎藤は墨汁が零れないように卓上の奥に押しのけると、歳三の腕を引いて畳の上に押し倒した。 「さ、斎藤!?」 「今さっき言いましたよね。私は全く情緒がなってない、と。風流のわからない野暮男、と」 「え? あ、あぁ、まぁ……」 斎藤の手は、そうしている間にも器用に歳三の着物の帯を解き始めている。緩んだ襟ぐりに手を差し伸べれば、うっすらと汗の滲んだ肌 に指が吸い付いていった。 「だから、私にもそれなりの情緒や風流があるという事をお教えしようかと思いまして」 「だ、だからって……どうして、俺を裸に剥く必要がある!?」 暴れて体を起こそうと試みるが、斎藤の力は強く、びくともしない。そうしている間にも、着物は剥ぎ取られていく。 「風鈴のように良い声で鳴いて、汗を掻いて風に吹かれれば、涼しくなりますよ」 「は?」 歳三の考える『情緒』や『風流』 とは程遠い斎藤の解釈に頭がついていかない歳三は、唖然となる。 「い、意味わかんねぇよ」 「とにかく、運動すれば汗を掻く。汗を掻けば体の熱が逃げて涼しくなる。違いますか」 「…………」 言葉を無くした歳三の股間に手を差し入れ、斎藤は巧みな手淫を開始する。 「あ、ちょ……ッさ、さいと……ッ―――――――ッぁ、ん」 「良い声ですね。表の風鈴とは比べ物にならない」 「!!!!」 歳三の顔が恥ずかしさで真っ赤に染まる。汗で滑る胸の飾りを執拗に撫でられ、歳三の背に汗が滲んだ。 「な、何が…涼しくなる、だ……ッ あ、暑くなるの間違いじゃ……ねぇのか、よ……」 着実に快感を高められ、歳三の息があがる。汗の滲むうなじに、髪が張り付いた。 「――――――…ッや……ぁ!!」 「自分の部屋に飾っておきたくなるぐらい、綺麗な声ですね。その綺麗な声をもっと聞かせてくださいよ」 斎藤はうっとりとした口調でそう囁くと、歳三の耳朶を甘く噛んだ。ぞくり、と寒気にも似た鳥肌が立つ。不覚にも感じてしまった。 汗の玉が伝い落ちていく内腿を抱え上げられ、汗で濡れた指が、臀部をまさぐる。 胸に触れる斎藤の胸板は熱を帯びて熱く、触れると隙間もなくなるぐらい密着した。 「や……やめ……ッはや、い……!!」 「私はもう我慢できないんですよ」 斎藤の顎を伝う汗が、ぱたりと歳三の鎖骨に落ちた。その感触でさえ、歳三の性感は敏感に感じ取ってしまう。 「む……ッ無理……ッ」 「初めてじゃないんだから大丈夫ですよ。それに汗のぬめりもある」 そう言って、汗で濡れた体をこすり付けてくる。「あ」と声を漏らして、歳三は身を捩った。 「………ッあ、ああッ っふ……ッう、んんッ……んぅ……ッう、うう」 みちみち、と狭い器官を割り裂いて、斎藤の一物が侵入してくる。斎藤の体を押しのけようとして胸板に押し当てた手は汗で滑り、その まま無意識に抱きしめる恰好になる。しがみつくものを探して、歳三は目を閉じた。 「………動きますよ」 そう言うが早いか、斎藤の腰が緩やかに動き始める。汗のぬめりも手伝ってか、下肢の卑猥な音に混じって、互いの身体が擦れあうた びに起こる濡れた音に、歳三は昂奮した。 「随分と中を締め付けますね……。気持ち良いんですか、土方さん。指で慣らさずに入れたのに、あなたのここはいやらしい音を奏でてい るじゃありませんか…。ほら、聞こえるでしょう」 斎藤はそう囁きながら、わざと歳三の耳にも聞こえるようにゆるゆると腰を動かし、濡れた音を出させる。 「あ、い、いや……ッぁ!!」 「嫌なわけないでしょう。あなたは好きなんだ、ここをこうされるのが」 斎藤は薄い笑みと共に、奥を一気に抉るように突き入れる。奥の悦い処に当たるのか、歳三の体は弓なりに反った。 「ほら、またきゅっと締め付ける…。いやらしい土方さん」 「………ッあ、あッん、ん、ん、」 歳三の顔が上気する。汗で髪が張り付き、熱で目がとろんと濡れる様は、ぞくりと来るぐらい艶かしかった。 「中に出しますよ」 「――――――ッひぁッ!!!……あ、あッあ!!!!」 歳三の中で暴れていた斎藤の一物の精汁が、歳三の内臓の奥底へと吐き出されていく。それと同時に果てたのか、歳三の体もびくび くと小刻みに痙攣していた。 (夏の盛りの契りも………また良いもんだな) 玉のような汗を滴らせ、ぐったりと四肢を投げ出している歳三の体を見下ろしながら、斎藤は薄く微笑んだ。
「…………どうです。少しは涼しくなったでしょう」 「どうだか。……結局井戸に汗を拭いに行ったんだから、同じだ。………それに」 井戸で汗を流し終えた歳三は、さっぱりとした顔で部屋に戻ってきた。 「お前が……アレを、中に……中に、出すから、洗うの…大変だった」 汗を流し終えた歳三の体はしっとりと冷たくて、心地が良い。 「だって、お好きでしょう。中に出されるの」 「!!!!!」 歳三の顔が真っ赤に染まる。 「で、出て行けよ……ッ 用事は済んだんだろッ 俺は忙しいんだッ」 歳三は怒鳴りながら、手身近にあった団扇を斎藤に投げつける。 「せっかく汗を流す運動をして、井戸の冷たい水でさっぱりして涼しくなったというのに、酷い言い草ですね」 斎藤はそう言いながら立ち上がる。 「また暑くなったらお呼びください」 「だ、誰が……ッ」 ぴしゃりと閉められた障子に、歳三は唇を噛む。 確かに一汗掻いた後は涼しくなる。汗を流せばすっきりする。だが………。 (どうせなら、道場で稽古でもしませんか…ぐれぇの事は言えってんだ) まだ体内に燻る熱に、歳三は困り果てていた。癪ではあるが、斎藤に抱かれると物事が全てどうでも良くなってしまうぐらい、気持ちが よくなるのだ。そして実際、茹だる様な暑さはどこかへ飛んでいってしまったように感じる。 (………お前のせいだ) 歳三は障子の外で無邪気に音を奏でている風鈴に、当たった。
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*あとがき*
夏です。暑中見舞い小説を書こう!と思い立って書いたものの、
涼しくなるどころか、汗だらけで余計暑くなってしまいました(苦笑)。
この季節、箱館モノは正反対の季節だし、多摩時代は暑いの関係なさそうだし…
という事で、ジメジメと暑かったであろう京都時代にしました。
一番人気の斎藤が相手なだけに…風流とは無縁の、ただヤッちゃうだけの話になりました。
何はともあれ、夏はこれからが本番ですね!!
夏バテに気をつけて、頑張りましょう!!
でも、東京39度って暑すぎませんか!?
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