斎藤一の光源氏的夜伽物語

 

「………今、何て?」

 土方歳三は一瞬耳を疑った。目の前できちんと背筋を伸ばして正座をしている男の口から、その外見とは似つかない言動が飛び出したから

だ。

「いえ、だから、もう一度繰り返しますが」

 と、目の前の男…斎藤一はほんの少し頭を垂れながら繰り返す。

「私に、あなたを調教させていただきたい」

「…………ちょう、きょう」

 歳三は鸚鵡返しに言葉を繰り返す。朴念仁といった感じの目の前の男は、「えぇ」と頷いている。どうやら本気のようだ。

「調教ってぇと……あれか、馬や犬を躾ける……」

「まぁ似たような意味でしょう、『躾』という観点では」

「俺ぁ、犬畜生じゃねぇぞ」

 歳三はむっとして斎藤に食ってかかる。斎藤は平然と応えた。

「当然でしょう。あなたは一集団における副長という重要な位置におられる方ですよ。そんな偉いあなたを、犬畜生と同じ扱いで躾けてもいい

わけがないでしょう。違いますか」

(こいつの言い方って、たまぁに俺の燗に触りやがるんだよな……)

「だから、先ほど私が言ったのは、『情を交わした同士』としての調教ですよ。別にあなたを犬畜生と同じ扱いをするわけじゃない」

「俺にはお前の言ってる意味がわかんねぇんだけど」

 歳三は困惑した表情で斎藤を窺う。

「自分の生まれた日を改めて祝ってもらったりする慣習は、私の故郷にもありませんがね」

「俺の故郷にもねぇよ、そんなの」

「だけど、その日ぐらいは私のわがままを聞いてもらいたくなったりするもんなんですよ」

「はぁ」

「だからですよ」

 歳三は、ますます斎藤の言っている意味がわからなくなる。

「こないだ、久方ぶりに貸本屋で源氏物語なる本を見つけましてね。随分と夢中になって読み耽ってしまいましたよ」

「………?」

 斎藤は生まれつき頭の回転が速いのか、歳三の知らないところでいきなり話題転換が始まる。

「それがどうかしたのか?」

「光源氏と紫の君、ご存知ですか? 案外そういった情緒的な本がお好きなあなたの事ですから、若い頃には一度か二度読んだ事がおあり

でしょう」

 むっとしながら、だがそれでも斎藤に言われた事は真実であるので、歳三は渋々頷く。

「それぐれぇ知ってる」

「私は光源氏のように、紫の君を調教してやりたいんですよ」

「はぁ」

「だから、普段性的な行為などとは無縁なように見えるあなたを、紫の君のように私の思い通りに調教してみたいんですよ」

「!!」

 そこでようやく斎藤の言っている意味がわかった。

「島原の噂によりますと、あなたは遊郭に行っても、ほとんど女を抱かないそうじゃないですか」

「!!」

 歳三の顔が真っ赤に染まる。

「抱いても、気の向いた数回だけ。しかも皆判を押したように同じと来た。女との情交は楽しくないんですか。それとも、幼い頃に何か悪戯でも

されたんですか?」

「う、うるせぇ、勝手だろ、ほっとけよ」

 歳三は泣きそうな顔をして席を立とうとする。

 斎藤は、その細い腕を掴んだ。びくりと歳三の体が強張る。

「契りは大変気持ちの良いものですよ。だから私が教えて差し上げようってんです。どうですか。私の願い、聞き入れてくれませんかね」

「――――――――……ッうぅ」

 歳三は言葉につまる。

「最近、嫌に副長が苛々してるって、隊士が愚痴ってますよ。どこかでその苛々を解消してあげないと、今のあなたはまるで鬼か般若だ。そん

な状態で、一体誰がついてきますか。……近藤局長も、ついてこないですよ。いつも険しい顔をされているあなたになんか」

 歳三は唇を噛んだ。歳三の頭の中は、ほとんどが近藤を中心にして回っているに等しい。

 だから、近藤を引き合いに出せば、歳三はいとも簡単に崩れ落ちる。

 歳三はよろよろと斎藤の前に膝をついた。

 

「…………ッあ、はぁ」

「いいですね。大分声が出るようになってきましたよ」

 流石に屯所内で事に及んではまずいというので、二人は屯所から少し離れたところにある連れ込み宿にいた。

 目も眩むような紅い布団の上に横たわった歳三の体は、今だかつて味わった事のない快感に身を震わせていた。

 勿論、女のように声を漏らした経験のない歳三は、斎藤の長い指による巧みな愛撫に翻弄され、上ずった声を漏らしている。

「ぁ、そこ……ッ」

 慌しく上下する胸板の飾りを指で摘んでやれば、敏感な体は打ち震え、涙混じりの目がゆらゆらと斎藤を見上げてくる。

「『そこ』がどうかしましたか?」

「ぅ、うぅ、」

「ほら、ちゃんと言わないと駄目ですよ。『そこ』がどうかしたんですか?ねぇ、副長?」

 わざと現実に引き戻すような言葉を歳三の耳元で囁きかけてくる斎藤に、歳三は泣きそうに顔を歪ませた。

「つ、摘むな……ッ痛い」

「『摘むな』ではないでしょう。……『摘まないでください』ってお願いするんですよ。こういう時はね」

「――――――――ッ」

 羞恥と屈辱と昂奮が入り混じった顔つきで、歳三は唇を噛む。そういった行為とは無縁だろうと思っていた歳三にも、そんな表情ができたの

かと斎藤は内心驚き、そして昂奮する。

「随分と悦い顔つきをするようになってきましたね、副長」

 と、斎藤は薄く微笑みながら囁きかける。囁きながらも、なおもきつく歳三の乳首を摘んだ。

「――――――ッ痛!!……」

「ほら、こういう時は何てお願いするんでしたっけ」

「……ッつ、摘まないで、くれ……ッ」

 斎藤の笑みが濃くなる。

「違うでしょう。お願い、するんですよ。そんな怖い目で睨んではいけませんよ」

「――――――ッ」

「ほら。土方さん。『お願い』してください」

 歳三が喘ぐ。胸の飾りは既に引きちぎられそうに痛く、ジンジンと痺れさえあった。

「お、お願い……ッ斎藤……胸、痛いから、や、やめて……摘まないで、ください……――――――――」

 泣きそうな表情と今にも消え入りそうな声で、歳三が喘ぐ。そのあまりの媚態に、斎藤は目の前が真っ赤になりそうだった。

「よくできましたね。ご褒美をあげましょう」

「……ぇ、な、何……?――――――――!!」

 斎藤の手が歳三の臍の上をなぞり、淡い茂みに下りていく。女にさえ触らせた事のないそこに、斎藤が触れた。思わず膝が震え、内腿をぴ

たりと合わせようとする。

「そんな生娘のような事をしないでください」

 斎藤は歳三の膝に手をやりながらいう。そしてもう片方は歳三の細い顎を掴み上げた。

「ご褒美ですよ。痛くするわけがないでしょう。痛ければ、それはご褒美ではなく、お仕置きになってしまいますからね」

 そう囁いて、斎藤は歳三の戦慄く唇を塞いだ。そして頑なに閉じる歯列を割り、ぬるりと舌を絡め取ってやった。

 何から何まで初めての事である歳三の頭の中は、混乱し通しである。

「ん、んぅ、ん、んん……ッはぁ、ぁん、あぁ」

「悦い声ですね」

 唾液でいやらしく濡れた唇が、パクパクと戦慄く。斎藤の手が、歳三の一物を上下に扱き始めたのだ。

「あ、嫌、ぁ、んふ、ぅ、うぅ、んぅ」

「あなたのその反応は、まるで初めて契る生娘みたいだ。ぎこちない声も、布団を掴むその手も、必死に理性と取り戻そうと快楽と戦う表情も、

全て悦いいですよ」

 斎藤の言葉を聞き、歳三の顔が真っ赤に染まる。

「普段声を荒げて隊士を怒鳴ったり、見下した目で隊士を見ていたりするあなたが、昼間から連れ込み宿で両足をいやらしく広げて、いやらし

い声をあげて男に抱かれようとしているなんて……屯所の誰が思うでしょうね」

 言葉で辱められ、歳三は余計に昂奮していく自分を止められなくなる。

 斎藤の手の中で先走りの液でぬめるそれが、一際大きく勃起した。

「斎藤……ッい、いかせて、お願い、苦し……」

 歳三の哀願に、斎藤は舌なめずりをすると、何の躊躇いもなく、固く勃起した歳三の一物を口内に咥えてしまった。

「ん――――――ッん、ンぅ、ぅぅ!!」

 大きく漏れそうになった嬌声を、歳三は思わず唇を噛み締めて我慢する。そんな仕草さえも、斎藤にとっては昂奮する一材料にしかならな

い。

 じゅぽ、じゅぽ、と生々しい音が、歳三の下肢のあたりから聞こえてくる。歳三の体は既にずっと間断なく斎藤に与えられていた快感でどろど

ろに溶けていて、ただ布団の上で身じろぎをするぐらいしかできない。

 唇をきつく引き結ぶ癖のある歳三も、今はただ緩く唇を開き、上ずった嬌声を上げるだけである。

 きつく人を見下すような目つきも、今は涙に濡れて力をなくしてしまっている。

 そんな表情が、普段とのギャップを目にした斎藤もぐらりと来てしまうほどに艶かしい。

「……斎藤……ッ駄目、離せ……出ちまうよ……ぅッ―――――――――――ッ」

 歳三が切迫した声で訴える。と、その瞬間我慢できなかったのか、斎藤の口腔に夥しい量の精汁を吐き出してしまう。ビクビクと全身を震わ

せて、歳三が果てる。

 斎藤は口腔内に出された精汁を全て飲み干すと、息を荒くしてぐったりとなっている歳三の両足の膝裏に手を回した。

「………ぇ?」

 もうこれで終わったものだと思い込んでいた歳三の目が、斎藤の行動に気づいて見開かれる。

「まさか、これでお終いだとでも思っていたんじゃないでしょうね」

「ぇ、だって……」

「今のよりももっと気持ち良い事を教えてあげますよ」

「ぇ」

「ほら、私の先端が当たっているでしょう?あなたのここに」

 斎藤の手が強引に歳三の腕をつかんだかと思うと、己れの菊座に指を這わせる。誰にも触らせた事のない菊座に、自分の指がかかる。歳

三は羞恥で顔を真っ赤に染めた。

「ほら、これが私の」

 歳三の手に、ずっしりと固く熱い一物が握り締められる。思わず歳三の唇から悲鳴が漏れた。

「ここはもう私の唾液でしとどに濡れていますから、すんなりと入りますよ」

「ぇ、ちょっと………待って、斎藤、こ、こんなの……入るわけ、ねぇよ、それに、そこは入れるとこじゃねぇよ……」

 体を起こそうとした歳三の手を、斎藤はなおもしつこまでに己れの一物を握らせる。

「こうやって、自分で私のを握って、菊座に導き入れてごらんなさい」

 歳三の顔が強張る。ゆらゆらと頭が横に振られた。

「は、入るわけねぇよ……」

「仕方ない人だ。じゃあ……」

 諦めてくれるのか、と一瞬安堵の表情を浮かべた歳三だったが、次の瞬間視界が反転した。

 布団の上に寝転がった斎藤の上に跨ぐようにして歳三は座らされていたのだ。

「これなら簡単に入りますよ。自身の体の重さも手伝って」

「ぇ、」

「ほら、こうやって」

 斎藤の手が歳三の手の上から、勃ちあがった己れの一物を握らせる。

「立てた私の一物の先端に、あなたの菊座の入り口を押し当てて、そのまま一気に腰を落とすんですよ」

 歳三は首を横に振る。

「で、できない」

「……これでも?」

「ぁ、あんッ」

 斎藤の手が、一度果てて敏感になっていた歳三の一物を扱く。びくりと体を震わせて、歳三の体が仰け反った。

「ここだって、私が欲しくて疼いてる」

「ぁ、はぁッ」

 するりと尻を撫でられて、歳三の体が小刻みに震える。斎藤の指が歳三の菊座をなぞり、そのままツプリと音を立てて中に入り込んでいく。

「ほら。びくびく痙攣して、私の指を咥えて離してくれない」

「ち、違……ッんぅ、あ」

 くちゅり、と中で描き回されて、体に力の入らない歳三は斎藤の胸板に手をつく。自然、歳三の尻は斎藤の指の動きに合わせて揺らめいた。

「私のモノで貫かれたくなったでしょう? こんなちっぽけな快感よりも、もっと大きな快感が欲しくなったでしょう。欲しいなら自分でお入れなさ

い」

「………ッ」

 唇を噛み締め、歳三は何の未練もなく出て行った斎藤の指を恨めしく思う。

 もっと中をかき乱してほしかった。もっと太いもので……。そう思うと、たまらなく斎藤が欲しくなった。

 歳三はのろのろと体を起こして、斎藤の一物を手で支え持った。そこに、ぎこちない動きで己れの菊座の入り口を宛がう。

 そして、おずおずと腰を落としていった。

「ぅ、うぐ……ッふ、ぅ、ううう」

 歳三の愁眉が寄せられる。苦しげに目を閉じ、歳三はゆっくりと一物を受け入れていった。

 3分の2が納まったところで、歳三はゆるゆると息を吐く。斎藤の腹に手をつき、残りを奥までようやく咥え込んだ。

「あ、はぁ――――――ッ」

 斎藤は唇を僅かに笑みの形に浮かべると、歳三の細い腰に手をやり、一気に先端ぎりぎりまで抜くと、そのままの勢いで今度は深く串刺し

にした。思いもしない斎藤の律動に、歳三の唇から引きつった嬌声が漏れる。

「ぁ、あぁッ……ひぃッ」

 歳三の体が斎藤の体の上で上下に揺れる。

「ぁ、あ、ッあ、あぁッッ っふ、ぅ、ぅんッ ん、んッ」

 奥を突かれるたびに、歳三の緩んだ唇からはしどけない嬌声が漏れる。斎藤は歳三の体をもう一度布団の上に押し倒し、今度は思う様腰

を前後に突き動かした。

「……奥を、突かれるのはどうですか……、気持ち、良いでしょう?」

 さすがにこちらも余裕がなくなってきたのか、斎藤の言葉にも、普段の単調な口調とは違い、ほんの少しうわずってき始めているのがわかっ

た。

 歳三には、何故だかそれを無性に愛しく感じている自分がいた。

 先ほどまで自分を嬲っていた男が、今度は自分の中に一物を入れて余裕をなくしてきているのだ、と。

「い、いぃ……ッ 気持ち、良い……ッ もっと、もっと、奥まで……ッ」

 歳三はあらん限りの醜態を斎藤に晒して、果てた。

 

 

「最近、副長の様子が変わってきたとは思わないか?」

 正月が明けて一月も下旬にさしかかる頃、屯所の中の隊士達は、歳三の変化にようやく気づき始めてきていた。

 最近の歳三は、隊士を睨む事も怒鳴る事もしない。

 それどころか、表情が大変穏やかである、と。

 隊士全員を続きの大広間に集めて、局長・近藤勇が定例となった上からの通達を行う時でさえ、その傍らに座している歳三は目を伏せたま

まで、以前のように隊士達をギラギラと睨みつける事などしないのである。

 ふとした拍子に(近藤に「副長土方くんより、何か一言はないか」と言葉を求められたりする時など)顔をあげて、隊士達を見る、その眼差し

のあまりの艶っぽさに、卒倒寸前の隊士もいるほどである。

「変わったというよりは……随分と色っぽくなったなぁって思うんだけどな」

 と、ある隊士は俗っぽい言い方で歳三を褒める。

「確かに色っぽくなったよな」

「流し目とか、目を伏せたりした時とか、かなり『来る』よな」

 隊士間でそんな事を話し合い、顔を見合わせては顔を赤らめる。

 

 その後、屯所内で『衆道』が流行ったのは、言うまでもない。

 

 


あとがき

内容のほとんどが斎藤オンステージのエッチシーンだったという……二ヶ月も待たせたわりには、「さま~ず」のように

「そんだけかよッ」(怒)

って突っ込んでしまいそうな内容でした。申し訳ありません(汗)。

源氏物語なんて引き合いの「ひ」の字しか出てきてないし、「夜伽」なんて言ってるわりに、ヤッてる時間は昼間だし、で

ダメ出ししたい点はたくさんありますが、許してください(平身低頭)。

でも、少しでもあなたの煩悩が解消される事を祈ります。

大変お待たせしてしまいました。

(H15.3.5)

 

 

 

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