撮影・録音をしない約束。とりあえず1時間程度お話をするつもりであったが、なんだかんだで2時間半に及ぶことになった。
彼ら夫妻は、元々自民党支持者であった。
数年前、地元で応援していた地方議員が維新に鞍替えしたため、半ば消極的に維新支持にスイッチしたのがそもそものきっかけである。
初めて会った彼らは、玄関先で極めてフレンドリーかつ穏やかに私を迎え入れてくれた。
100坪ほどはある落ち着いた佇まいの和風住宅。玄関脇の道路側には、この雰囲気に不似合いな維新系のポスターが貼ってある。
「今日は、ぜひ維新のことを分かってもらおうとね。来てくれて嬉しいですよ」
応接間に通されて、まず彼らの話をじっくり拝聴することにした。
「最初は橋下さん、信用できなかったです。でも見ているうちにあの熱意にほだされて」
「松井さん、庶民派で我々の話をじっくり聴いてくれる。実際会ってみたらほんと素晴らしい方でした」
「吉村さん、若いしね。いろいろあるけど将来が楽しみ」
「いまはコロナで耐える時。文句言ってたらバチが当たる」
そんな話をしながらお茶を勧めてくれた。
さて訊こう。特に『大阪市廃止・特別区設置住民投票』いわゆる《都構想》について‥。
夫妻は饒舌だった。それなりに予習もしていたのだろう。
私を諭すように、ゆっくりと語る姿には好感が持てた。
ざっくりまとめるとこうだ。
・昔の二重行政は酷かった。元々自民党支持者だったから詳しく知っている。
・大阪城、地下鉄、そのほかいろいろ、綺麗になった。
・大阪に観光客がどっと来てくれるようになった。
・去年まで会社は右肩上がり。維新のお陰。
・今はコロナでじっと耐える時。でもかならず夜は明ける。
・IRは維新の成功の象徴。万博はそれを讃えるお祭り。
・兎に角、昔より良くなった。全て維新の力によるもの。
・橋下さんは素晴らしい。松井さんは大阪のことをよく分かっている。吉村さんは若くて次を担えるリーダー。
・反対派は概ね共産党の洗脳。公明党も以前は悪かったがようやく洗脳が取れた。
・大阪都という名前にはならないけれど実質「都」になるので、維新による都行政が遺憾なく発揮できるようになる。バラ色の未来。
細かいところは端折るが、ざっとこんな感じであった。
柔和な笑顔で語る彼らの弁を拝聴するうちに「維新、悪くないかも‥」な~んて感化されちゃいそうな‥(されないけどw)
攻守交代。
持参したノートPC。とっても分かりやすい画像データや動画を映しながら話をした。
約束通り、彼らは私の弁を遮ることなく、時折「ふーん」「そう言ってるんだ」「いやどうやろ」など小声で呟きつつ最後まで聴いてくれた。
尚、目の前にいる夫妻は、関西の有名私立大(高偏差値。ちなみに理系)在学中に出会い、結婚。子息は既に独立して関東で家庭を持っている。
会社は信用できる部下が育っているのでそろそろ譲るつもりでいるそうな。
そこら辺にいるヤクザな維新支持者(すぐに難癖をつけてくる)とは趣が異なる穏やな人柄。
私はこの人達なら理解してくれるだろうと、半ば「楽勝」な気分で話を進めた。
最後まで聴いてくれた夫妻は笑顔のままだ。「いかがですか?」と訊いた。
「人間、悪く考えると際限ないものですなぁ」夫妻で笑う。
夫が続ける。
「確かに『都』という名前にはなりませんしね、4つの特別区になるのもその通りです。ただ、サービス低下云々‥どんな組織でも変革直後は混乱します。一時的に大きく低下することもあるでしょう。でも必ず維新だったら盛り返せます。これまでもそうだったんですから!」
そこで私は、維新行政によって大阪の成長が右肩下がりになり、今や最下位であることを再び指摘してみた。維新のスローガン《大阪の成長を止めるな》は大嘘だとも言ってみた。
今度は妻が言う。
「だって平均値でしょ。効率の悪いところが落ち込んで、インバウンドなどで大幅に利益を上げたところも沢山ある。構造改革が進んで大阪が変わろうとしていると思えば、なんともないけどねー」
夫が補完する。
「大阪全域が景気が上向くわけでもないですし。個人的にはここ数年の大阪は断然右肩上がりでしたよ」
結論から云うと、どんなデータを提示しても「それらは全てバイアスのかかった怪しいデータであり信用できない。維新が語る未来にこそ信頼感がある」という反応だった。それらが公的かつ正確なデータであってもそうだった。理系大学を出た彼らなら、きっと理解してもらえる‥と考えていたのだが現実は違っていた。
「また来て下さい。いつでも話をしましょ!」
帰り際、FMCへの寄付ということで包みを渡されたが固辞して帰った。(ほんとは欲しかったけどw)
玄関先まで出て送ってくれた夫妻。
手を振って送ってくれた笑顔。
素敵な夫妻であることに疑いの余地はない。
だが、なんだろうこの違和感は‥。
帰途。ガラガラの大阪環状線(週末の夜なのに)の車内で考えた。
「宗教だ!」
・教祖橋下
・伝道師松井
・次期教祖候補吉村
・IRは『ナニワ維新教』にとっての神殿
・万博はそれらを盛り上げる祭り
・関西のテレビは広報番組をひたすら垂れ流してきた
ひとたび教義を正しいものと信じてしまった者(=信者)は、異教徒が繰り出す批判に対して屈強である。どんなに正しいデータや理屈を伝えても跳ね返すバリアを持ってる。つまり「洗脳」だ。
普通の人(=未洗脳)は、具体的な理屈やデータを示せば、大抵の場合「そうだったんだ!」と考えを改めることができる。
維新に熱心な方々が頑強である‥というのは何となく分かっていたが、今回お会いした夫妻の澄んだ目と、現実を理想論で跳ね返す思考回路は、まさに信者そのものであった。
これは大変だ。(暗澹たる思いで大阪駅で乗り換え)
(追記)
「こんなん書いて怒られへんの」
‥というご心配メールが届いてたので、念の為ご報告をw
帰りしなにご夫妻から感想を訊かれたので‥
「なんだろう‥正直、宗教っぽいですねぇ」と笑って答えたところ、
「はぁ、まぁ、そうかもしれへんですわ~」と、ご夫妻揃って高笑い。
ほんと和やかな雰囲気で終わりました。
で「私こんな感じで出しますよ」と予めゲラを読んで頂き、了解を得まして今回掲載しております。
ゲラを読んで頂いた返信文に「私達ももっとデータを精査する必要はありますね」「雰囲気で流されとったところは確かにあります」と綴っておられまして、いわゆる《盲信》というわけではないな‥と私も感じております。
今後も機会があれば対話してみたいと考えいてます。