感染症の専門家・岡田晴恵が感じた「報道の怖さ」…誹謗中傷にも屈せず、いま必要なコロナ対策明かす

白鴎大学教授・岡田晴恵氏が「報道の怖さ」語る 『羽鳥慎一モーニングショー』出演

記事まとめ

  • 白鴎大学教授・岡田晴恵氏は『羽鳥慎一モーニングショー』に出演し、情報提供してきた
  • その岡田氏が、メディアに登場して感じたことや、執筆した著書について語っている
  • 岡田氏は「ある一部だけを切り取られて別のマスコミで報道される怖さは感じた」と語る

感染症の専門家・岡田晴恵が感じた「報道の怖さ」…誹謗中傷にも屈せず、いま必要なコロナ対策明かす

感染症の専門家・岡田晴恵が感じた「報道の怖さ」…誹謗中傷にも屈せず、いま必要なコロナ対策明かす

『まんがで学ぶ! 新型コロナ知る知るスクール』を発表する岡田晴恵氏 (C)oricon ME inc.

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。日本でも冬に向けた第3波が心配されているが、緊急事態宣言が発令された4月はとくに大混乱に陥っていた。そんなか、大きな注目を集めたのが『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)などに出演し、未知のウイルスに対して感染症専門家として情報を提供してきた白鴎大学教授・岡田晴恵氏だ。そんな岡田氏が、コロナへの疑問を子どもたちにもわかるように解説した『まんがで学ぶ! 新型コロナ知る知るスクール』(ポプラ社)を執筆。本書に込めた思いや、自身がメディアに登場して感じたことなど、率直な気持ちを聞いた。

■冬に向けて流行の兆し…、必要なのは医療の充実と“知識のワクチン”

――まずは本書を執筆したきっかけを教えてください。

【岡田晴恵】新型コロナウイルスは、未知のウイルスなので断定はできませんが、気温が下がる冬の方がより流行すると考えられます。しかも、厚生労働省は、重症者や高齢者、ハイリスクの基礎疾患をお持ちの方や中等症以上の方でない限りは自宅療養とする方向なので、そんなときに手元に置いて役に立つような本を冬が来る前に作りたかったんです。児童書であれば、病気の人も気持ちに余裕のない人も手軽に読めると思ったのです。

――現状、海外でも再流行しており、日本でも第三波が心配されています。

【岡田晴恵】感染症学的に言えば、感染を広げないためには行動制限をするしかない。アメリカやヨーロッパでは、また感染が拡大し対策を講じています。日本はどちらかというと逆で、経済活動に舵を切っています。もちろん、経済が大切なことももっともだと思います。が、そこをどう両立させていくのかを考えるのが政治ですよね。

――経済と感染防止のバランスは非常に難しいですね。一緒くたに論じられることも多いです。

【岡田晴恵】どこで折り合いをつけるのか…。私は政治家ではないし、なるつもりもないので、できることは限られています。高齢化社会の日本で、高齢者ほど重症化しやすい新型コロナウイルス感染症の健康被害(犠牲者数)や、若い人でも起こる後遺症のリスクがどれくらい真に評価されているのか? 心配しています。日本の年齢人口分布を考えたとき、日本社会にとって深刻な問題だと思っています。

――できることとは、具体的にはどんな?

【岡田晴恵】大きく2つあります。1つは医療の充実を求めて声をあげること。春の段階から言ってきたのですが、院内にウイルスを入れないために発熱外来、呼吸器救急外来のような施設を医療機関の外にたくさん作ること。これができないならば、普通のクリニックでも診療時間を分けたりして、発熱の患者を診れるような体制を作ることが必要だと思います。冬に風邪やインフルエンザ、それに加えて新型コロナの感染者が増えたときに、院内感染を阻止しながら、医療を確保する体制を確立することです。

 もう1つは、“知識のワクチン”と呼ばれますが、新型コロナウイルスに対する知識をしっかり持ってもらうこと。人は“なぜ”がわかると行動が変わる。だからこそ、子どもたちにもわかるという視点で、誰にでも読めるこの本を執筆しようと思ったのです。

――春先は、テレビなどのメディアに出演される機会も多かったと思います。ですが、最近の感染者増加が報じられる前までは、感染症学的な話はあまり放送されなくなったという印象があります。

【岡田晴恵】緊急事態宣言が解除されたあと、世論を含め国の方針も経済重視の方向に向かっていますよね。また、夏は高温多湿でコロナウイルスは長生きできないので、感染者も減ります。感染症対策(コロナ対策)についての番組も、あまりなくなったと思います。

――テレビ等は、反響も大きくマスに伝わるメリットもありますが、うまく話が伝わらない怖さも感じたのではないでしょうか?

【岡田晴恵】私がよく出演させていただいていた『モーニングショー』は、1時間以上ある番組。いろいろな立場の方とディスカッションするのですが、ある一部だけを切り取られて別のマスコミで報道される怖さは感じました。

 「このままだとニューヨークみたいになる(感染爆発する)かもしれない」と発言したことを、「結局そうはならなかったじゃないか。大げさに煽って」と後に言われることもありました。しかし、当時、感染症の研究者の誰もが、「ニューヨークのようにはならない」と断言できる根拠はなかった、そうなると思っている先生方もたくさんおられました。最悪の状況を考えないと危機管理はできません。この後どうなっていくのかと考えると、不安で眠れない夜もありました。

――岡田先生をはじめ、専門家の方々が注意喚起してくれたからこそ、ここまでで収まったという見方もあるのかなと。

【岡田晴恵】それは一つの要因だと思います。西浦博先生をはじめ、いろいろな方々が発信し、また多くの先生が番組に出演して注意喚起をしたことで、国民の行動変容があった。マスクをすること、手洗いをすること、ウイルスに気をつけて生活すること――そういった一つ一つの積み重ねが、もしかするとファクターXなのかもしれません。まだ、ファクターXはわかっていませんが。

――15キロほども痩せられるほど、心をすり減らしてしまったそうですが、メディアに出なければよかったと思うことはありませんでしたか?

【岡田晴恵】出なければよかったとは思っていませんが、私が発言したことを悪意をもって受けとられて、つらい思いをしたことはありました。そんなとき、番組のディレクターの方が「岡田先生を全力で護れ」と仰ってくれたことを聞いて…。みんなで支えてくれました。感謝の気持ちでいっぱいです。

――誹謗中傷があるなか、メディアに出続けたのは?

【岡田晴恵】単純に、感染者が増えたら困るからです。新型コロナは感染者数が増えれば、そのうち2割は肺炎が増悪して重症者が出てしまいます。ニュースを含め、テレビの報道というのは“今”を伝えるもの。ですが、感染症を研究している人間は、もっと先を見ている。新型コロナウイルスは、四季のある温帯地方の日本では冬に流行する危険性があるので、それまでに備えをすることを伝えたかったんです。この冬に備えて、医療機関の充実は必要不可欠。医療崩壊だけは、絶対的に避ける。そのために今、厚労省も必死に手を打っています。間に合ってほしいです。

 コロナ禍でストレスが溜まり、多くの人が苦しんでいます。ただ、もっと感染者が増えて状況が悪くなると、さらに医療も経済も厳しい世の中になってしまう。だから少しでも患者を減らすために、やれることをやるしかない。「知っていたらやらなかったのに」「教えてほしかった」をなくしたいのです。

――また、感染症予防についてメディアから求められたら、テレビにも出演しますか?

【岡田晴恵】まずは、新型コロナウイルスについて詳しく触れる番組を、テレビがやるかどうかですよね。そのなかで、信頼を置ける方からお話をいただいたら考えるかもしれません。

――今は執筆活動などで、多くの人たちに感染症の知識を持ってもらおうという活動をしているのですね?

【岡田晴恵】そうですね。「ペンは剣より強し」と教えられてきたので、文字を書いて本に残すということをすべきだと思いました。私は日本経団連の21世紀政策研究所にもおりましたので、経済が大切なことはよくわかっています。人命も大事だし、経済も大事だということです。だからこそ、日本で感染者数を抑えていく政策をとるべきだと訴えてきました。いったん大流行してしまうと、経済にも甚大なる悪影響が出るからです。感染症対策も経済対策も、究極のところでは方向性は一致しています。

 冬に向かって感染経路不明の人たちが増えていますから、今、重要なことは、感染を抑え、ハイリスクの人に移さないこと。また、病院や高齢者施設にウイルスを入れないこと。そのために、すべての人にウイルスと感染症の知識を持ってもらいたい。お子さんはもちろん、大人にも役に立つような情報はすべて入れたと思っているので、ぜひ本を手にとっていただければと思います。


岡田晴恵(おかだ・はるえ)プロフィール
共立薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了、順天堂大学大学院医学研究科博士課程中退、薬学修士・医学博士。アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員としてドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所留学、国立感染症研究所研究員、(社)日本経済団体連合会 21 世紀政策研究所シニア・ アソシエイトなどを経て、現在、白鴎大学教育学部教授。専門は感染免疫学、ワクチン学。感染症対策の第一人者としてわかりやすく解説。作家としても活動し、感染症関連の書籍を多数執筆している。

(文:磯部正和)

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