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 第三者から精子や卵子の提供を受けて子どもを授かった場合の親子関係を定める「民法特例法案」が、この臨時国会で成立する見通しとなった。

 待たれていた法律ではあるが、妊娠・出産にどこまで人為的な操作を認めるかという、生殖補助医療のもうひとつの重要課題のルールづくりは先送りされた。ここで歩を止めることなく、包括的な議論を進めなければならない。

 与党と一部の野党が共同で提出した法案がきのう参院本会議で可決され、衆院に送られた。

 ▽第三者の卵子が用いられた場合でも、出産した女性をその子の母親とする▽夫以外の男性の精子を用いる不妊治療に夫が同意した場合は、夫を父親とする――というのが主な内容だ。03年に法制審議会の部会がまとめた試案と骨格は重なり、この規定自体は妥当といえよう。

 提供された精子で子をもうけた夫婦の仲が後に悪化し、父子関係が争われるような事例もある。そうした混乱を未然に防ぐためにも、法律上の親を確定させておく意義は大きい。

 一方で今回の法案は、「基本理念」を定めた条文に、当事者の十分な理解と意思、精子や卵子を採取・管理する際の安全性の確保、子の成育への配慮などを掲げるにとどまり、生殖補助医療の具体的な規制措置には踏み込まなかった。大きな宿題を残したと言わざるを得ない。

 これまでに法整備の機運がなかったわけではない。厚生労働省の審議会部会が同じ03年に報告書をまとめるなどした。しかし議論はそこで止まってしまった。法律に代わって医師の団体の自主ルールが一定の歯止めになってきたが、全体を統御するのは難しく、様々な倫理的、法的な問題が山積している。

 たとえば、提供者の人種や学歴などを選択できる外国の精子バンクの利用が広がるなど、商業化が指摘されている。海外で不妊治療を受けた後に親子関係や国籍を争う裁判が起こされたこともある。技術の進展を踏まえた、社会の幅広い合意に基づく法規制は不可欠だ。

 生殖補助医療で生まれた子の「出自を知る権利」も課題の一つだ。欧州などでは精子や卵子の提供者を記録し、子が希望すれば情報にアクセスできる仕組みが広がる。だが法案では、この権利をどう位置づけ、具体化するかも積み残しとなった。

 参院での審議は3時間にも満たなかった。急いだ背景には、菅政権が不妊治療の助成拡大を打ち出していることがある。だが一人ひとりの人権や生き方に大きく影響するテーマである。衆院には次の法整備につながる充実した議論を望みたい。

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