クマの大量出没 自然との調和が崩れた
2020年11月20日 07時53分
クマの出没が全国的に相次ぎ、新潟と秋田で計二人が死亡するなど人的被害も連日のように伝えられる。遭遇時の警戒はもちろん、里山の荒廃や猟師の高齢化など背景にも思考を巡らせたい。
環境省がまとめたクマの出没件数は本年度上半期、過去五年の同時期では最多の一万三千六百七十件に達し、その後も減る気配はない。十月上旬には新潟県で畑作業中の、秋田県ではクリ拾いから帰宅途中のいずれも高齢女性がクマに襲われ、命を落とした。石川県でショッピングセンターや介護老人保健施設に侵入するなど、本格的な冬の到来を前に、各地の市街地に頻繁に姿を見せる。
環境省によると、クマの生息エリアは近年、平野部や海沿いにまで拡大している。この時期はドングリなどを大量に食べ、冬眠に備える必要があるが、今年はドングリが大凶作。おなかをすかせて人里に下りてきているようだ。
ドングリを実らせる木には豊作と凶作を不定期に繰り返す習性がある。凶作の年には食料不足でクマの数が減り、豊作の年には「食べ残し」を出させることで種として生き残る戦略という。クマの大量出没は二〇〇〇年代に全国的な問題となり、ほぼ隔年ごとに報告されているが、昨今は出没も人的被害も高止まりの傾向にある。
背景として、奥山と人里の間に位置して緩衝地帯となっていた「里山」が過疎化で荒廃したことや、猟師の高齢化や減少によってクマへの圧力が減り、人を恐れない「新世代クマ」が登場したことが指摘される。社会構造の変化で人とクマのバランスが崩れたのだ。
イノシシやシカ、サルにも同じ構図が当てはまる。金沢大・岸岡智也博士研究員のまとめによると、野生鳥獣による農作物への被害は毎年百五十億円から二百億円に上り、農家の意欲を低下させ、離農や耕作放棄地の拡大をもたらしている。人の気配が減り、収穫されない果実や作物が獣たちを呼び寄せる。中山間地域の過疎化が自然界との調和を崩し、獣害がさらに里山を荒廃させる「負のスパイラル」に陥っている。
より深刻な視点で言えば、新型コロナウイルスはじめエボラ出血熱や重症急性呼吸器症候群(SARS)などは動物由来の感染症だ。未知のウイルスはなお数十万種存在するとされ、人と自然界の接触が新たなパンデミック(世界的大流行)を引き起こす恐れが指摘される。クマからの警告も重く受け止める必要があろう。
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