時間外労働、改善に風穴 市立中非常勤未払い賃金支給へ

2020年11月19日 05時00分 (11月19日 05時00分更新)
時間外労働を記録した七海さんの独自の勤務表(一部画像処理)

時間外労働を記録した七海さんの独自の勤務表(一部画像処理)

  • 時間外労働を記録した七海さんの独自の勤務表(一部画像処理)
 名古屋市教委は今月、市立中学校で働く非常勤講師五人に対し、未払い賃金を支払うと決めた。全国的にも異例の対応で、粘り強く支払いを求めた講師側が風穴をあけた形。ただ、市教委は他の非常勤講師の労働実態については申し出がない限り調査しない考えだ。一方、原則、残業代がつかないとされる正規教員からは、働き方改革への影響を期待する声が上がった。(福沢英里)
 「非常勤講師の前に立ちはだかる大きな壁に小さな穴をあけた」−。労働基準監督署に申告した非常勤講師、七海純子さん(65)は一年越しでつかんだ朗報をそう表現した。
 昨年度、中学三年と特別支援学級の社会科を担当し、勤務は一日当たり四〜五時間で週四日。この中で週四こまを三クラス分と特別支援学級の一こま、計十三こまの授業を受け持っていた。
 授業とその準備、提出物の点検、テストの問題作成に採点と仕事が山積み。「給料がもらえる時間数の二倍は働いた」という時期も。非常勤の立場では生徒と接する時間が限られる。プリントをまめに作り、コメントも丁寧に書くなど、関係づくりに努めた。
 だが、タイムカードで労働時間が把握される正規教員に対し、非常勤講師は昨年度までは時間記入欄のない出勤簿に押印するだけ。市教委は労基署の是正勧告を受けて本年度に改善したが、始業と終業時刻を印字した「勤務時間確認書」に、非常勤講師に押印させる運用にとどまる。
 昨年七月、市民団体「臨時教員制度の改善を求める会名古屋支部」が作った表に、時間外労働を記入し始めた。きっかけは昨年六月に報道で知った仙台市の非常勤嘱託職員の残業代未払い問題。小中学校の非常勤講師四十四人も含まれ、今年八月までに計約二百二十八万円が支払われた。
 仙台市は「非常勤嘱託職員に時間外勤務は原則させない」という運用に無理があるとして二〇一七年度から残業代を支給する制度を開始。翌年、新制度以前の未払い残業代について内部通報があり、調査につながった。
 七海さんの独自の勤務表によると、七月二日の火曜日は午前八時半から午後三時四十五分まで働いた。所定の五時間勤務に対し在校時間が七時間十五分となり、二時間十五分の時間外労働に。月間では計十三時間四十分に及んだ。
 名古屋市教委は今年七月、七海さんのような時間外労働を「勤務実態があった」と認定。今月、未払い賃金の支払いを決めた。市全体の非常勤講師は約千四百人だが、今回の五人以外の労働実態は「申し出がない」と調査する姿勢を見せていない。
 七海さんは「教員に非常勤はいらない。全ての教員を正規採用にしてほしい。無理なら、残業をしないで済む教員配置やタイムカードの仕組みを整えてほしい」と訴える。

「残業の対価を」正規教員も期待

 正規教員は教職員給与特別措置法(給特法)に従い残業代が支給されない。国会の参考人質疑などで給特法の問題点を訴えてきた岐阜県の高校教員西村祐二さん(41)は今回の決定に「天地がひっくり返るほどの影響を正規教員にも及ぼすのでは」と期待する。
 給特法の改正で月の残業の上限を四十五時間以内とする運用が本年度に始まった。だが、見かけ上の残業は減っても持ち帰り仕事が増え労働時間が長くなったという各地の労組の調査を踏まえ「正規、非正規に関係なく、所定の労働時間を超えて働いた分も労働として認め、対価が支払われるべきだ」と強調した。
 公立学校教員は給特法で行事や職員会議など「超勤四項目」のみ時間外勤務が認められ、本給の4%が教職調整額として払われる。文部科学省は授業準備など四項目以外の業務は、教師の自発的労働で対価は必要ないとしてきた。
 埼玉大教育学部の高橋哲准教授は「四項目以外の業務は今回の非常勤の業務と重なる点が多々ある」と指摘。埼玉県の小学校正規教員が県に残業代の支払いを求めて二〇一八年に提訴した、裁判の行方にも影響すると見通した。

 名古屋市教委の賃金未払い問題 市教委は市立中学校で働く非常勤講師5人に対し、未払い賃金計約130万円を支払うと決め、11月12日に愛知労働局に報告した。講師側は昨年11月、支払いを求めて労働基準監督署に申告。労基署は今年2〜3月、市教委と各勤務校に是正勧告していた。


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