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 国会の怠慢に助け舟を出すために、およそ理屈にならない理屈を繰り広げ、結果として司法の存在意義を自らおとしめた。そう言うほかない。

 一票の格差が最大3・00倍あった19年の参院選について、最高裁はきのう合憲と判断した。1人1票という民主政治の基盤をなす原則を踏みにじり、3票分の投票価値を持つ人がいるのを容認したことを意味する。

 格差解消に向けて選挙前に国会がとった措置は、定数を増やすという、政党や議員にとって最も安直なもので、しかも是正幅はわずかにとどまった。きのうの判決も「大きな進展は見られなかった」と指摘した。

 だが、その後に続く判決理由は承服できるものではない。

 前々回16年選挙で導入された鳥取・島根、徳島・高知の合区を、反対論もあるなかで維持したことを評価し、「格差是正を指向する姿勢が失われたと断ずることはできない」と述べ、合憲の結論を導いたのだ。

 その視線はどこを向いているのか。立法府の振る舞いをチェックして国民の権利を守るという、司法に課せられた使命を忘れ、政治におもねったとしか思えない判断は、厳しく批判されなければならない。

 「是正を指向する姿勢」など国会にはないことをはっきり示す事実がある。

 定数増のため公職選挙法を改めた際、国会は同法付則にあった「次回参院選に向けて、抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得る」を削った。かわりに「憲法の趣旨にのっとり引き続き検討する」といったあいまいな文言にし、しかも法的拘束力のない付帯決議に格下げしてしまった。

 最高裁は16年参院選をめぐる判決で、削除される前の付則を「立法府の決意」を示すものと述べ、今後の取り組みに期待を込めて合憲判断を導き出していた。自らが高く評価した付則がその後どう扱われたかを素直に見れば、きのうのような判決にはならなかったはずだ。

 反対意見を述べた3人のうち外交官出身の林景一裁判官は、「約3倍の格差をいわば『底値』として容認したものと受け取られかねない」と、多数意見を批判した。立法府の怠慢ぶりも厳しく指摘しており、はるかに説得力がある内容だ。

 懸念されるのは、国会が合憲判断に甘えて格差を放置することだ。合区には限界や弊害があることからブロック制を導入する案などがかねて浮上しているが、政党の利害や思惑が絡んで進展しない。現有議席を「既得権益」として守る姿勢を改め、民意が正しく反映される制度に変えなければならない。

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