全国の児童相談所(児相)が2019年度に対応した子どもへの虐待件数が、過去最多の19万3780件にのぼった。前年度より3万3942件多く、増加幅も過去最大だ。
いずれも児相が相談を受けて虐待にあたると判断し、指導や措置を行ったものだ。対応すべき事案が増えていることを踏まえた、児相などの体制整備を急がねばならない。
警察や近隣住民からの通告、相談の増加が目立つという。虐待に対する関係機関や社会の関心の高まりが背景にあると、厚生労働省はみている。
10万件超と全体の半数以上を占めるのが、子どもの目の前で親が配偶者に暴力を振るう「面前DV(家庭内暴力)」を含む心理的虐待だ。
東京都目黒区で5歳の女児が「おねがいゆるして」とノートに書き残して亡くなった事件や、学校のアンケートで父親による暴力を訴えた千葉県野田市の小学4年生が命を落とした事件は記憶に新しい。いずれも実母が夫のDVに遭って逆らいにくい状況のもと、虐待がエスカレートしたとみられる。
いかに早く兆候をつかみ、事態の悪化を防ぐか。DVの支援機関と児相の間の情報共有や連携の強化など、包括的な支援の仕組みづくりが急務だ。
政府は体制を増強するため、全国約200カ所の児相で虐待に対応する児童福祉司を、22年度までに5260人にする計画を掲げる。4月時点で約4200人まで増えたが、計画を立てたのは18年末だ。対応件数は当時を上回るペースで増えており、計画実施の前倒しや上積みを含め再検討すべきだ。
職員の専門性を高める努力も欠かせない。児相に配置されている児童福祉司の約5割は、勤務経験が3年に満たない。研修の充実や、ベテランを指導役として配置するなどの工夫が求められる。
コロナ禍のもと、外出自粛や収入減による不安やストレスが高まる一方で、周囲が異変に気付く機会が減り、子どもへの虐待やDVのリスクが高まることが懸念されている。
相談対応件数の速報値などで顕著な傾向を読み取ることは難しいが、相談に結びつかず、表面化していない事例もあるかもしれない。現場ではメールやSNSを使って相談に応じる試みも進んでいる。危機意識を持って注視してほしい。
4月からは、親による子どもへの体罰を禁じた改正児童虐待防止法も施行された。体罰によらない子育ての啓発や、子育ての不安、悩みを抱える家族への支援の充実など、虐待を生まないための取り組みも大切だ。
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