水城せとなによる少女コミック「脳内ポイズンベリー」(集英社クイーンズコミックス)が映画化に続き、舞台化。3月21日(土)より新国立劇場 中劇場で上演を迎えた(3月14日(土)〜3月20日(金)の公演は新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止)。
本作は蓮佛美沙子が演じる、携帯小説家のいちこの頭の中で擬人化された5つの思考が“脳内会議”を繰り広げるというラブコメディーで、脳内会議の議長・吉田に主演の市原隼人、現実世界でいちこの担当編集者の越智宏彦を白石隼也が演じる。
物語上は決して直接的な会話を交わすことのない、不思議な関係性を築き上げるふたりに佳境に入っていた稽古の様子を聞いた。
取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 冨田望
越智さんが大好き! 隼也に対しては突っ込んだ芝居をしている
(取材時点で)通し稽古を終えたと聞きましたが、現時点ではどんな感想を抱いていますか。
白石隼也 今回は特殊な舞台で、脳内メンバー5人と現実メンバー4人というかなり少ないキャストでやっているうえに、脳内メンバーといちこは出ずっぱりなんですよね?
市原隼人 そう! なのに、蓮ちゃん(蓮佛美沙子)との芝居が一回もないんですよ。(白石)隼也とも絡みはするけど、向き合って何かをするっていうことはないので、寂しいんですよね(笑)。脳内メンバーと現実メンバーは、こうやって面と向かって話す機会がなくて。
白石 そうなんですよね。セットもコロコロ変わるし、そのつなぎでいろいろと苦労していたりはするんですけど、結構、早いタイミングで動きが決まって、通し稽古もできて。ここからどれだけ詰められるかっていうところですかね。
市原 現時点でもすごく面白い題材だと思っているんですが、「脳内ポイズンベリー」が舞台化される意味と、「議長」「ネガティブ思考」「ポジティブ思考」「記憶」「瞬間の感情」と、脳内の感情が擬人化されている意味を、もう少し見出せるかなって考えています。普段、人様に見せない羞恥心や苦悩、逡巡している姿を見せるということが、芝居の醍醐味だと思っていて。まさに、それを具現化してくれている舞台なので。しかも、隼也が言ったとおり、ほかの舞台とはちょっと違う構成で出来ている。脳内と現実が分かれていて独特の世界観がありますし、すでに、お客様に楽しんでいただけるんじゃないかという手応えを感じています。観終わったあとに近くにいる人をより好きになってもらえる作品になるよう、最後の奮闘をしています。
脳内メンバーと現実メンバーは同じ場所に立っていても絡めないですもんね。白石さん演じる越智にはいちこの脳内は見えていないはずですから。
白石 そうですね。もちろん、いちこの会話を通してやりとりはしているんですけど……。
市原 僕はね、越智さんが大好きなんです! 越智さんと一緒のときは、いちこの脳内は、透明人間のように現実世界からは見えてないので、なんでも好き勝手にやれて、それがすごい楽しくて(笑)。いちこの脳内をどう越智さんのまわりで表現しようかなっていうときに、結構、隼也に対しては突っ込んだ芝居をしています。
白石 実際にはみんな見えているし、息遣いも感じるので、非常にやりづらいんですけど(笑)。見えてない体で演じないといけないから、僕としては“笑ってはいけない選手権”ですよ。
市原 あはは!(笑)
白石 市原さんが稽古どおりの動きを本番もやってくれれば、僕にも少し耐性ができているので大丈夫だと思うんですけど、本番になってテンションが上がって違う動きをされたら、笑っちゃうんじゃないかって、今から不安です(笑)。脳内メンバーにとって、僕はおもちゃみたいな存在なんです(苦笑)。
市原 いや(笑)、本当にね、越智さんがいると楽しいんです。いちこという女性が、若くて新鮮さのある早乙女亮一を瞬間的に好きになってしまう。一方で、越智という頼りがいがあって、落ち着いて一緒に生きていけるような男がそばにいて。どちらを選べばいいかっていう話で……。
白石 そうですね。いちこの脳内は、早乙女に対するときは好きという想いがあるからリラックスできなくてワーワーしていて、越智といるときは無関心だから落ち着いていられるっていうことなんですけど、実際に市原さんは、僕になったらふっと力が抜けるってことですよね?
市原 そうそう。本当に楽しい(笑)。早乙女といるときはいちこの脳内も気を張っている状態なので、芝居としてもなかなか気が抜けないし、集中力を切らしてはいけないから。
白石 それが本当にお芝居の中で生まれているのであれば、良かったです(笑)。
市原 でも、興味が湧くキャラクターでもあるんだよ。越智さんって本当はどんな人なんだろうって思ってる。頼りがいがあって紳士的な姿しか見せないと、人間、どこかアラを探したくなるでしょ? この人は本当にいい人なのか、よく見せようとしているだけで何か裏があるんじゃないか、とか。できた人だからこそ、そう疑ってしまうという脳内の面白さもありますね。
白石 けど本当に、市原さんを筆頭に皆さんすごいグイグイくるんですよ。いちこは最初、越智に興味がないので、脳内の人たちの “どうなってもいいや”っていう想いが、“越智いじり”みたいになっているのではと……脚本を読んだときには、こんなにいじられるとは思っていなかったです(苦笑)。
(笑)原作や脚本からさらに広がっているんですね。
白石 かなり愛おしい役にしてもらっています。
市原 原作のコミックと同じセリフでも、役者が話すと違ってきますよね。
白石 舞台だからというのも大きいですね。コミックや映像では同じ空間にいることはないけど、舞台は現実のフィールドに脳内の人が入ってくる動きもある。それは舞台ならではだなって思います。
市原 たしかに。立って芝居をすると脚本からここまで変わるんだっていうことを感じさせていただきました。可能性もどんどん広がっていっていますし。
一方で、市原さん演じる議長の吉田はどんな役柄ですか。
白石 市原さんの議長は、かなり情緒のある……。
市原 あはは! 優柔不断だよね?
白石 いろんな感情がほかにいて、その4人を集約させたような役ですよね。原作ではわりと冷静沈着に表現されていますけど、舞台版ではかなりいろんな感情に揺さぶられながら、いちこと同じような体験をしていくっていうつくりになっていて。そこが僕は非常に魅力的だなと思います。
市原 本当はまとめなきゃいけないんですけど、まとめきれなくて、常に迷ってしまう。けど、恋をしているときの女の子の脳内はこんなにも揺さぶられているんだって思いました。過去の恋と比べてしまうときもあったり、衝動的に感情が溢れてしまうときもあり、ネガティブにも、葛藤してしまうときもある。その全部を含めて、一生懸命に生きているんだな、目の前の人とこんなにまっすぐに向き合っているんだなっていうのを感じていただけたら嬉しいです。
胸を借りて存分に“越智いじり”ができている
お二方は本作が初共演になりますよね。お互いにどんな印象ですか。
白石 ここまでストイックに、芝居を良くしよう、面白い芝居をしようとされる方ってなかなかいないですよね。そんな市原さんとご一緒できることは本当に嬉しいです。ただ、今回はお芝居でガッツリ絡むことがないのが残念ですけど、そばで見てすごく勉強させてもらっています。
市原 普段だったら、自分が出番じゃないときにちょっと話せたりもするんですけど、今回僕は全部のシーンに出ずっぱりなので、全然ゆっくり話せていなくて。でも、隼也が越智さんという役を自分の中でしっかりとかためて、定着させて芝居してくれているので助かっていますし、そのおかげで、胸を借りて存分に“越智いじり”ができています。
白石 あはは(笑)。大変ですけどね。
市原 だから、楽しいんでしょうね。役者という看板だけで話している(=役として互いに芝居で向き合っている)時間が長いぶん、その看板が信頼できているので。もっと話したいなっていうのが、本音ではありますけど。
白石 ありがたいです。
せっかくおふたり揃っているので、この機会に共通項を探したいのですが。
白石 名前じゃないですか?
市原 僕も思った。最初にキャストの名前を見たときに「おっ! “隼”だ」って。同じ漢字の人って珍しくて。その瞬間に親近感を抱いたから。
白石 僕はですね……ずっと市原さんの影響で「ハヤトさん」って言われることが多いんですよ。それはもう、絶対に市原さんのせいなんですよ!
市原 え、本当に!? いやいやいや……。
白石 最近もまだ言われますからね(笑)。「いや、“隼也”と書いて“シュンヤ”って読むんです」って言いますけど。
市原 本名だし、名前は変えられないから。でも……なんか、すみません(笑)。
一同 (笑)。
あはははは。名前の由来はあるんですか。
白石 それがないんです。市原さんはあります?
市原 ハヤブサのように、強くたくましく生きれる人になるようにって。あと、“薩摩隼人”の意味も含めて。
白石 なるほど。小学校のときに名前の由来を親に聞いてくるっていう宿題があったんですけど、聞いたところ何もなかったっていう思い出があります(笑)。
ほとんどの人が同じように脳内会議をしていると思う
(笑)舞台の話に戻しますと、この“脳内会議”についてはどう捉えていますか?
白石 僕は何か選択をするうえでいろいろと考えてしまうほうなので、すごく共感しました。ここまで複雑に分かれているかはわからないですけど、ほとんどの人が同じように脳内会議をしていると思います。いろんな考えがあるなかで、何かを選択して、決断していくっていう。そういう意味では普遍的なテーマだなと思いました。
市原 僕も常にワーワーしてますよ。人間が普段口に出している言葉は頭の中のごくわずかで、あとは妄想や欲求、狂気的なこととか、いろんなことが渦巻いていて、それが社会やルール、秩序によって抑えられている状態だと思うんです。なので、僕自身も含め、誰しもが共感できると思いますし、女性の恋の話ではありますけど、人間はここまで深く考えていて、自分の中で自分を陥れてしまったり、逆に自分を高めることもできるんだってことを学ばさせていただきました。
ちなみにご自身の中で“脳内会議”が行われるときに様々な思考の中からどれが最も口を出してきますか。
白石 ポジティブではあるので、ポジティブ思考が強いかなって思います。
市原 僕は全部かな。
白石 やっぱり熱い方なので、感情と理性がぶつかり合っている気がしますけどね。そこが市原さんの魅力になっているのかなって。
市原 衝動は衝動であるよね。好きだったら好き、嫌いだったら嫌いってハッキリとしていたりするし。あとは、“どうしてそうなるのか?”っていうクエスチョンも重要だと思っていて。いろんなクエスチョンをひとつひとつ解決していくことが、人生の意味だと僕は感じいるので、何か疑問が出てきたらすぐに聞くっていうことを、どんなときでもやっているかも。
脳内会議していたら2キロくらい歩いていた
最近、脳内会議はありましたか?
白石 昨日、雨が降ったじゃないですか? 家が稽古場から微妙な距離で、歩いても行けるし、チャリだと早いし、バスや電車でも行けるんですよ。「どうしようかな? バスに乗ろうか、タクシーに乗ろうかな」と考えていたら、2キロくらい歩いてましたね。
市原 え!?
白石 歩いた結果、「あ、これは間に合わない」と思って慌ててタクシーを捕まえることになったんですけど(笑)。その2キロはすごい葛藤しました。稽古でもありますよね?
市原 稽古では常にしているね。僕が一番思うのは、相手をどう立たせればいいのか、相手はどうしたらやりやすくなるのかっていうことです。結局、自分のことは自分だけでは見せられないし、説得力がない。相手の役者さんがいて、その方のリアクションを第三者であるお客さんに見せないと成り立たない。だから、今作では常に脳内メンバーを見て、どんなリアクションをすれば、お客さんに伝わるのかっていうことをずっと考えながらやっています。まわりの4人を必死に追いかけていますね。
白石 市原さんは特にまとめ役なので、5人全員がよく見えるように考えていらっしゃるのが、稽古場で見ていてもわかりますし、人一倍、脳内会議を盛んにしていると思います。
白石さんも脳内メンバーをよく見ていますよね。
白石 そうですね。僕としては、いちことの二人芝居になるんですけど、いちこと喋っている間に脳内メンバーの会話を挟むので、その間(ま)をいかに埋めるかっていうことが課題にはなっていて。要は、リアルな会話にはない間(ま)を必然であるように見せないといけない。最初の頃は厳しいなと悩んでいたんですけど(苦笑)、いろんな(ま)の埋め方を考えましたし、今では脳内メンバーの皆さんに気持ちのいいようにやってもらって、そこに自分がどこまで合わせられるのか試してみようっていう想いになって。すごく集中力がいるので大変ですけど、楽しいチャレンジになっています。これからさらに精度を上げていって、現実世界と脳内世界がうまくシンクロして違和感なく見せられるようになったら、かなり面白い作品になるんじゃないかと思っていますね。
観終わったあとに、みんなを好きになれるような舞台
とても楽しみにしております。あらためて、最後に公演に向けての意気込みをお願いします。
白石 今、いろんなエンターテインメントが規制されているなかでやらせていただくので、劇場に来てくださるお客さんに楽しんでもらえる作品に是が非でもしないといけないなと思っています。「脳内ポイズンベリー」というコミックを舞台で生身の役者が演じたらこういうふうに仕上がりましたという舞台ならではの表現で、必ず面白い作品にしますので、多くのお客さんに観に来ていただき、楽しんでいただけたらと思っております。
市原 人間というのは、頭の中でこんなに一生懸命にいろんなことを考えて生きているんだなってことがわかる作品だと思いますし、観終わったあとに、まわりの仲間とか友達とか家族とか恋人、仕事関係の人……みんなを好きになれるような舞台になると思います。コメディーなので肩の力を抜いて観ていただきたいんですが、僕は、確実に皆さんにお伝えしたいセリフがひとつあります。そのセリフをしっかりとお伝えしたいと思っているので、舞台でしか見せられないエンターテインメントを楽しみにしていただけたら嬉しいです。
舞台『脳内ポイズンベリー』
2020年3月14日(土)~3月29日(日)新国立劇場 中劇場
*3月14日(土)〜3月20日(金)の公演は新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止
STORY
吉田は、議長として、優柔不断ながら日々紛糾する会議をまとめ上げようと、奮闘する毎日を送っていた。普通とちょっとだけ違っているのは、彼が存在しているのは、ある携帯小説家、櫻井いちこの“脳内”だということ! いちこの脳内は、吉田をはじめ、5つの思考が擬人化され<ネガティブ思考>の池田、<ポジティブ思考>の石橋、<瞬間の感情>のハトコ、そして書記である<記憶>の岸が、それぞれ別の人格として議論を戦わせ、いちこの言動や思考回路を司っていた。
ある日いちこは、飲み会で一緒になって以来気になっていた年下男子・早乙女に、偶然遭遇する。「運命の再会」に脳内はたちまちパニック状態に! 吉田を中心とした脳内会議の多数決でひとまず話しかけてみたはいいものの、つれない反応に会議はまたまた、すったもんだの大騒ぎ…。さらにいちこの担当編集である越智も、いちこに恋心を寄せはじめ…。
果たして、いちこは幸せになることができるのか? 人生最大の三角関係が勃発する中、吉田を議長とする脳内会議のメンバーは、本当にいちこの幸せな道を選ぶことができるのか!?
原作:「脳内ポイズンベリー」水城せとな(集英社クイーンズコミックス刊)
脚本:新井友香・今奈良孝行
演出:佐藤祐市(共同テレビジョン)
出演:
市原隼人 蓮佛美沙子
早霧せいな グァンス(SUPERNOVA) 本髙克樹(7 MEN 侍/ジャニーズJr.) 斉藤優里
白石隼也 渡辺碧斗 河西智美
主催・企画制作:フジテレビジョン
市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。2001年に映画『リリイ・シュシュのすべて』で初主演、2015年に舞台『最後のサムライ』で初主演。2004年には映画『偶然にも最悪な少年』にて日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年の主な出演作品には【舞台】『カーディガン』、『最後のサムライ』、ミュージカル『生きる』【映画】『喝 風太郎!!』、『空母いぶき』、『3人の信長』、『桜咲く頃に君と』、『劇場版 おいしい給食 Final Battle』【ドラマ】『おんな城主 直虎』、『沈黙法廷』、『リバース』、『明日の君がもっと好き』、『捨て猫に拾われた男』、『おいしい給食』などがある。出演待機作に、映画・ドラマ『太陽は動かない』(5月公開・放送)がある。近年では、フォトグラファー、映像監督としても活動中。
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白石隼也(しらいし・しゅんや)
1990年8月3日生まれ、神奈川県出身。2008年に俳優デビュー。テレビ『仮面ライダーウィザード』(操真晴人/ ウィザード 役)をはじめ、話題作に出演。近年の主な出演作品には【舞台】『叔父の魔法使い』、『悪魔と天使』、『奇跡の人』【映画】『東京喰種S』、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』、『ホペイロの憂鬱』、『彼岸島 デラックス』【ドラマ】『ランチ合コン探偵〜恋とグルメと謎解きと〜』、『ランウェイ24』、『アフロ田中』などがある。出演待機作に、舞台『ジョン王』(6-7月上演)、映画『燈火 風の盆』(9月公開)がある。
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