白石隼也の映画コラム

『キューティー&ボクサー』~白石隼也・映画コラム~

2013/12/27


 
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80歳。どんな自分を想像するだろう。
のどかで自然豊かな田舎街、あるいは東京郊外の静かな場所に一軒家を持ち長らく連れ添った人と散歩でもしながら平凡で平穏な毎日を過ごす。たまには旅行にも出かけ、息子や娘が孫を連れて遊びに来たりする。それが理想かと問われればすぐに“イエス”とは返答できないが、「わしは死ぬまで働くのじゃ」「これが達成出来るまでは死んでも死にきれん」と意気込んでいるシワクチャな自分を想像するよりは遙かにイメージが沸く。
なぜか。それはおそらく我々が知らず知らずのうちにそう教えられ、幸せのカタチというものはこういうものだという風にどこかで擦り込まれてきたからだ。

 
今日、紹介する作品は現在公開中のドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』

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この日、篠原有司男(通称ギュウチャン)は80歳の誕生日を迎えた。彼はニューヨークでキャンバスを相手にボクシングをしている。
1960年代、ボクシンググローブに絵の具を浸けキャンバスに向かって実際にパンチをして絵を描いていくボクシングペインティングというスタイルを確立したギュウチャン。当時の日本の前衛芸術として国内外から高く評価された後、“ボクサー”は新たな挑戦の場を求めてアメリカ、NYへ渡った。

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その妻、篠原乃り子。彼女もまたアーティストである。
19歳の時に美術を学ぶため渡米。すぐにギュウチャンと出会い結婚。しばらくは育児によって制作活動を制限されたが、その後復帰。最近では自らをモチーフにした“キューティー”というキャラクターを描いたキューティー・シリーズというプロジェクトを行っている。

本作はそんな二人。キューティーとボクサーを追った輝かしい成功への軌跡の物語、ではない。
そう、満を持してアメリカに渡ったギュウチャンは渡米当初こそメディアにも取り上げられ貧乏若手芸術家として最も名の知られる存在になったのだが、作品は売れなかった。それから半世紀近く経った今でもなお、貧乏な芸術家として生きる二人の生活が有りの儘に映し出された記録である。

 

<次のページ> 今回、この作品を選んだのは…

 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■

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『キューティー&ボクサー』

© 2013 EX LION TAMER, INC. All rights reserved.

シネマライズほか全国上映中!

■公式サイト www.cutieandboxer.com
■提供:キングレコード、パルコ
■配給:ザジフィルムズ、パルコ

 

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