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白石隼也の映画コラム
『魔女と呼ばれた少女』〜白石隼也・映画コラム〜
2013/03/28
「もしもし、ばあば。久しぶり」
「ああ、しゅんやか。どないした」
「元気かい」
「うん、最近またちょっと脚が痛いけど、元気だよ。お前ちゃんとご飯食べてるのか」
「食べてるよ。しっかり一日三食。今もトンカツ食べてきた」
「トンカツ?今、ばあばもトンカツ屋さんにいるんだよ。お前トンカツ好きだったから連れてきたかったなぁってちょうど思ってたんだよ」
「それは奇遇だね」
「ねぇ。それでどないした」
「ちょっとオレの力だけじゃ難しい仕事があって、ばあばに手助けしてほしくて」
「なんや」
「戦争について話を聞きたいんだ」
「ははは。戦争の話か。今日ちょうど友達ともそんな話しとったわ」
「それは奇遇だね」
今回紹介する作品は、現在公開中の映画『魔女と呼ばれた少女』
魔女。なかなかファンタスティックな言葉なような気がする。『白雪姫』に毒リンゴを食べさせる悪い魔女とか『魔女の宅急便』のキキとか、例えば、日本昔ばなしに出てくるような鬼とか金太郎とかお爺さんなんかと同じで空想上の世界でしばし登場するものだと認識している人が大概ではないだろうか。
舞台はアフリカ、コンゴ民主共和国。貧しいながらも両親と共に平和な暮らしを送っていた少女コモナ(ラシェル・ムワンザ)は、突如現れた反政府軍に拉致され12歳にして兵士となった。反政府軍は実の両親を自らの手でコモナに殺させ、麻薬を連れてきた子供兵に飲ませ洗脳するのだった。麻薬の作用で白い亡霊の幻覚を見ることとなるコモナは、戦況を有利に運ぶ勝利の女神として総帥の魔女になるのだった。
先日、ある雑誌を読んでいたらこんな事が書いてあった。「いきなり銃を持った兵士に目隠しをされ、銃を渡された。恐怖で言われるがままに持っていた銃の引き金を引き、目隠しを外された。するとさっきまで一緒に遊んでいた友達が血まみれになって横たわっていた。」これはPTSDに悩む元兵士への支援組織についての記事で確かアフリカでの出来事ではなかったが、このような行為はコモナのような少年少女を洗脳させるため実際に現代で行われていることなのだ。
僕は今、『仮面ライダーウィザード』という番組の中で魔法使いの役を演じている。
物語の本筋とは全く関係はないが、アフリカにおける魔術とか呪術について元々興味があって魔法使いというものを歴史的に理解していてもいいんじゃないかということでそれとなくそれらについて調べていたらここでも目を疑うような記事を見付けた。
そこには、一昨年のタンザニアでの魔女狩りによる被害者数が600人にも上ることが記されていた。想像に絶する数だ。もちろんこれはタンザニアだけの問題ではなく、コモナの住むコンゴ民主共和国やその周辺の国々も例外ではない。情報や医療が隔絶されたアフリカの貧しい国々では、病気や災害などの解決策として現在でも魔術が用いられている。
要するに、この物語は『白雪姫』のようなファンタスティックなお伽噺なんかではなく、現実に起きていても何にもおかしくないアフリカの実像なのだ。
総帥の魔女となり13歳のコモナは組織の中でも尊ぶ存在となったのだが、彼女に好意を寄せていたアルビノの少年マジシャン(セルジュ・カニンダ)は総帥の魔女となった女性達が戦況の行方により次々に殺されていくことを知る。マジシャンはコモナを連れて逃げだし、プロポーズをした。
「この世で一番探すのが難しい白いオンドリを探して」とコモナは答える。
大人達の醜い争いによって犠牲となった少年と少女は、この絶望的な状況の中でもひとつの希望を見出していた。コモナはマジシャンという希望を。そして、マジシャンはコモナという希望を。しかし、そこはやはり少年と少女。愛の告白をしたはいいが、愛のカタチが分からずに右往左往する姿はやはり子供なんだなと思わせられる。
アルビノの少年と白いオンドリ。
アルビノというのは先天的にメラニンが欠乏し色素がない人または動物のことで、例えば真っ白な体に赤い目の実験用マウスのような個体のことだ。アフリカの一部地域ではこのアルビノの人というのは魔力を持つとされ、差別を受けたり、体の一部がお守りの材料として高値で売れることから殺害されたりする現実がある。マジシャンが探し出すこの白いオンドリというのは要するに彼と同じオンドリのアルビノなのだ。なかなか見付けることの出来ない特別な存在である白いオンドリ。そして、コモナにとってマジシャンも白いオンドリと同様に特別な存在だということを粋な表現で示される。シックだ。
二人なりの愛のカタチを手探りでかたどっていく。
マジシャンの叔父さんの所へ身を寄せることになった二人は、平穏な日常を取り戻し幸福な時間を過ごしていた矢先。反政府軍の追っ手が総帥の魔女である彼女を捕らえにやってきた。抵抗する二人だったが結局コモナは連れ戻され、マジシャンは殺された。14歳のコモナは再び戦地に戻され、今度は部隊長の夜の相手をさせられることになる。マジシャン、オンドリ、両親の亡霊。白い力に導かれるように決意したコモナは大きなお腹を抱えて灯ひとつ見えない真っ暗闇に逃げるのだった。
僕の祖母が終戦を迎えたのは10歳だったいう。
B29が日本の上空をカラスのように飛び回っている頃、祖母は兵庫の田舎まちに疎開をしていて無事だった。が、終戦後GHQが占拠し日本中が貧しい状況のなか父親を病気で亡くしてからが苦労したそうだ。働き口がなく誰もが路頭を彷徨っている頃、街を蔓延る米軍兵を相手に売春を行う女性たちが沢山いたと話をしてくれた。そして、その中には自分の友人も含まれていたということも。
「中学入学した時にはもう身長が160はあったから、アメリカ兵にいつも声かけられて。物凄く怖くて駅から全速力で走って家に帰ってたよ。家にまで『お宅のお嬢ちゃんどうですか』って来たりしてね。でも、私はまだ良かったの。母親がいたから。駅に竹刀を持って母が待っててくれてたりしたんだから。」「でも、戦争で両親を亡くして身寄りのない人たちはそうやって生きていくしかなかったのよ。特に女は。男になんか負けてたまるかって心のどこかでずっと思ってた気がする。」「だから女は強いよ。本当に。」
と、色んな方向へ話が飛び散ってしまいました。本来ならここでまとめの作業に入り、何かしら気の利いたシックなことを言って終わりにしたいのですが、今回は敢えて話を飛び散らしたまま終わろうと思います。
あとは皆さんに映画を観てもらってそれぞれに感じてほしいなと思います。
どうかご勘弁を。
追記
そういや、映画の作り手のほうに全く触れていなかったので、ここで。
そもそも作り手のほうに全く触れなかったのは、途中映画を観ているんだかドキュメンタリーを観ているんだが分からなくなるくらいにリアリティを追求しているせいです。コモナ役のラシェル・ムワンザちゃんは、本作でベルリン国際映画祭で銀熊賞を獲得したのですが、なんと現地のオープンオーディションで選ばれたピカピカの新人。生まれてきてからずっとカメラに追われてたんじゃないかってくらいにナチュラルにそこに居るんだよね。
© 2012 Productions KOMONA inc.
【BUTAKOME Information】
『魔女と呼ばれた少女』
シネマート新宿絶賛公開中!!
3/30千葉劇場、4/6名古屋名演小劇場 4月下旬大阪第七藝術劇場他全国順次公開
詳細は「魔女と呼ばれた少女」公式HPへ
■レイティング
R-15
■配給
彩プロ
■宣伝
Cloud heaven
※画像およびテキストの転載を禁止します。
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