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白石隼也の映画コラム
『ユナイテッド-ミュンヘンの悲劇-』~白石隼也・映画コラム~
2012/07/27
先日、サッカー日本代表の香川真司選手がイングランド、マンチェスター・ユナイテッドへの入団会見が行われた。
マンチェスター・ユナイテッドと言えば、ボビー・チャールトン、ジョージ・ベスト、デイビッド・ベッカム、クリスティアーノ・ロナウドらが名声を上げ、現在でもウェイン・ルーニーなど世界トップクラスの選手が所属。
アメリカのフォーブス誌が発表する世界のサッカークラブ資産価値ランキングでは、資産価値およそ1558億円で7年連続の1位という快挙を成し遂げているまさに超ビッグクラブだ。
“赤い悪魔”と他クラブから最も恐れられるこのクラブも、かつては消滅の危機に瀕したことがあった。
今日紹介する映画は現在公開中の
「ユナイテッド-ミュンヘンの悲劇-」
1956年9月、前季のリーグ戦で優勝し今季も勢いに乗るマッド・バスビー監督(ダグレイ・スコット)率いるユナイテッド。
そんな中、入団して3年が経つボビー・チャールトン(ジャック・オコンネル)は未だベンチにすら入れない状況が続いていた。
苦悩するボビーに手を差し伸べたのが選手から圧倒的な人望を得るチーフコーチのジミー・マーフィー(デイヴィッド・テナント)だった。
彼はボビーのために特別練習を用意し感化させた。それに答えようと練習に励んだボビーはバスビー監督にも認められ、デビュー戦でいきなり2ゴールを挙げ見事スタメンに定着した。
プロスポーツの世界だけでなく、一部例外を除くほとんどの社会でもサッカークラブでいうトップチームとセカンドチームのような構図を為していると思う。
この二つ(或いは、三つ四つ…)の境というのは見た目ではとてつもなく大きいもののように感じるが、実は紙一重だという気がしてならない。
もちろん先天的に圧倒的な能力や技術を持ち得る人も中にはいるだろうが、そんな人はごく僅かでそれ以外の多く人は後天的なわずかな差でしかないのだ。
3年間控え選手だったボビーが瞬く間に活躍しスタメンに定着できたのは、コーチによる特別練習をした技術的な成長よりもそれによるメンタル面での成長が大きかったように思う。
努力に裏付けされた自信が彼の思考を転換し、結果に繋がったのではないだろうか。
ボビーの場合にはコーチの存在という運もあったのは忘れてはならないが、
ほんのちょっと思考を変えるだけで何かが変わる。どの社会でも。
1958年、前年のリーグ制覇でUEFAチャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)。
現在では世界最高峰の舞台と言われている)への出場権を獲得し、国内リーグとチャンピオンズカップの二つのタイトルを目論むユナイテッドだったが、イングランドリーグを運営するフットボール協会は「すぐに消滅する大会だ」とそれを許さなかった。
しかし、強気の姿勢を見せたバスビー監督率いるユナイテッドは国内リーグの穴を開けないことを条件にチャンピオンズカップへ出場。
2月5日、ユーゴスラビアのレッドスター・ベオグラードとのアウェイでの戦いに勝利し準決勝進出を決めたユナイテッドは、週末の国内リーグを戦うため翌日イングランドへ帰路につく。
途中、給油のためミュンヘンのリーム空港へ立ち寄ったが、その後、離陸に失敗。
ユナイテッドの選手、新聞記者、クラブ関係者ら17名の命が犠牲になった。
当時の社会情勢や渡航手段の問題も大いにあっただろうと予想がつくが、両者の歩み寄りが全くなかったことが悔やまれる。
もし仮に…という様な議論をどうしてもしたくなるが、
すでに起こってしまった事であることに変わりはなく、より重要なのはその後どう変われるか。
そして、この事実を忘れたい過去にしてしまわず後世に語り継がなくてはならない真実の歴史として我々が記憶しておかなくてはならないことだろう。
危機的状況にあるユナイテッドの今後を決めるクラブの理事会が開かれ、一時的なクラブ閉鎖を提案する理事たちに「今こそ存続を!」と遠征に帯同していなかったジミーは彼らを説得する。
一方、これまで頑なだったフットボール協会から「状況を考慮して」とリーグ戦の日程変更を認める連絡が入る。
ジミーはユナイテッド存続のため選手を急遽寄せ集め国内カップ戦であるFAカップに事故後僅か二週間足らずで試合に臨むと、途中精神的なダメージからボールを蹴れずにいたボビーの復帰もあり快進撃を巻き起こし奇跡の優勝を成し遂げたのだった。
ジミー役のデイヴィッド・テナントはこの映画について
『運命の偶発性、人生の無常さ、不屈の精神の勝利について考察している。』
とインタビューで述べている。
まさにそう思う。そして、これらは全て何か行動した上で起こったことなのだ。実行力。それがないとまず何も始まらないし、大きな成功を掴むのは不可能だろう。
もちろん、アクションが大きければ大きいほど同じようにリスクも増えてくるが、それを恐れていてはそれ自体もその社会も進歩していかない。
発想力や想像力、それを体現する技術力ももちろん大切で欠かせない要素なのだが、最も必要な要素はこれなのではないかと思わされた。
『不屈の精神の勝利』。
学校の授業でこんな言葉が出てきたら暑苦しくて綺麗事のように聞こえてしまうかもしれない。
しかし、それを実際に誰もが知っている名門クラブが実現させ証明した。ミュンヘンの悲劇を乗り越えそれをたえにしたクラブ、そして、ボビー・チャールトン、ジミー・マーフィー、マッド・バスビーの功績は計り知れない。
今、こうして名実ともに世界一に君臨するマンチェスター・ユナイテッドの片鱗を垣間見た気がした。
追記
皆さまにご報告。
もうすでに公表されているのですが、
テレビ朝日系にて9月2日朝8時スタートの新番組
「仮面ライダーウィザード」の主演を務めさせて頂くことになりました。今回は、絶望する人々を救うことの出来る仮面ライダーを演じさせて頂きます。
ミュンヘンの悲劇から約50年。
去年の3月11日。この日本でもとても大きな悲劇が起こりました。
直接的に関係がなかった僕ですら心のどこか詳しくは分からないけど、何かが変わった気がします。
もちろん色々な気持ちはあるだろうけど、こういう時こそ何か大きな変化を起こせるチャンスなんじゃないかとも思います。
そんな想いを抱き、行動に移すきっかけに演劇がなれれば嬉しいです。
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ユナイテッド-ミュンヘンの悲劇-
絶賛公開中!
© World Productions(United) Limited MMX1.
監督:ジェームズ・ストロング
出演:デイヴィッド・テナント、ダグレイ・スコット、ジャック・オコンネル
脚本:クリス・チブナル
音楽:クリント・マンセル
主題歌:ポール・ウェラー「Devotion」
2011/イギリス/94分/ヴィスタサイズ/原題:United
提供:パラディソ 配給:ゴー・シネマ
※公式HPはコチラから
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