白石隼也の映画コラム

『ヒミズ』 ~白石隼也・映画コラム~

2012/01/12


BUTAKOME

この間、トークライブという名のファンイベントみたいなやつをやった。
ファンイベントという言い方がどうも好きでないという自分のプライドのためにわざわざ名前を変え、色々やった。
やる前、結構な人にバカにされた。(決して全てが悪い意味ではなく。)
で、最後にみんな言う。「まぁがんばってね」
彼らなりに色々言いたいことはあるのだろうが、なんだかんだ応援してくれているのだ。
「がんばれ」、時に物凄くむかつく言葉であるのだけど、それと同時に物凄いエネルギーを持った変な言葉だ。

今日紹介する映画は、
古谷実原作、園子温監督作品『ヒミズ』

おそらく、公開と同時に反響に反響を呼んで、是枝監督の『誰も知らない』、もしくはそれ以上のおかしな現象が起こると思うので僕がこの映画を紹介する必要は全くないことは分かりきっているんだけど、2011年のマイベストムービーに触れないわけにはいかないと思ったので書かせて下さい。

主人公は、大きな夢を持たず、ただ誰にも迷惑をかけずに「普通」に生きていきたいと願う
住田くん、15歳。
そして、その住田くんを愛してやまない同級生の茶沢さんもまた、15歳。
借金を作ってはたまに帰ってきて、暴力を振るい金を持っていく父親。
実家の貸しボート屋で母親と暮らす住田くんであったが、ある日、母も男と駆け落ちをして、去る。
茶沢さんもまた、両親から虐待を受ける日々を送る。

そう、この二人の中学生は親から愛されていないのだ。

BUTAKOME

今、僕は21歳。両親と二人の兄妹の間で何不自由なく、生きてきた。
室内プールの脇にある観葉植物のように、気温も湿度も調整された場所で、外敵から攻撃を受けることもなく、温々と、生きてきた。
大学にも行かせてもらっている。
きっと僕が15歳だった頃は、住田くんや茶沢さんのような子供達がいるという事実を「そんなはずはない」と本気で信じていただろう。
この映画の試写会に行った日の深夜、テレビで親に捨てられた少年達のドキュメンタリーがやっていて運命を感じたように、事実、子を愛さない親はいる。
ということがこの歳になってようやく分かってきた。
子を愛せない親は、いる。

僕が観たドキュメンタリーには、親に捨てられた子供達を命懸けで助けようとする金八先生のような男の人が出てきたけど、住田くんにも茶沢さんをはじめ彼を命懸けで助けようとする仲間がいた。
なにも、愛は親からだけ受けるものではないのだ。
兄弟でも友達でも恋人でも隣人でも里親でも犬でも猫でも、誰からか本物の愛を受けたものは誰かを愛することがきっと出来る。と思う。また逆も然り。

BUTAKOME

が、事件は起こった。

「普通」の中学生でいられなくなった住田くんは、その日からの人生を「オマケ人生」と名付け、
悪い人間を見つけ出し、自らの手で殺すことに決める。
住田くんの異変に気づいた茶沢さんは、彼を助けようと奔走するのであったが…。

BUTAKOME

四半世紀にも満たない短い人生だけど、きっとそうなんだなって確信することもちょっとはある。

苦しみ、悲しみを知っている人は、強い。
とにかく、強い。ってこと。

そりゃあもう、僕みたいなやつが普通に戦ったらコテンパンにやられる。
正直な話、ちょっと前まで根性がない自分は
「なんか不幸が訪れないかな」、「不幸になったらもっと頑張れるんじゃないかな」
なんてアホらしいことを本気で思っていたのだから、そりゃあもう相当強い。
もちろん、今ではそんなことは思ってない。
そんなこと思っても時間の無駄だし、俺は幸せな家庭に育ったのは変えられない変える必要もない事実。

だから、住田くんみたいな人が「がんばる」ことをしたらどんなに強いのか。
絶対勝てなくなるからやめてほしい気もするけど、やっぱり見てみたいな。

「スミダ、ガンバレ!」

さぁ、住田くんはどんな決断を下すのか。

そして、その時、あなたはどういう想いを感じるのか。

是非、劇場で確かめて欲しいと思います。

BUTAKOME

追記
それともう一つ。
この映画は原作の漫画と決定的に違う所がある。
それは、舞台が大震災後の日本になっていること。
これは、クランクインする直前に起きた東日本大震災を受け園監督が急遽脚本を書き直したそうです。
去年、僕も被災地に行ってボランティアをさせてもらったのですが、その時一番感じたのが、みんな悲しそうにしていたこと。
すごく当たり前なことだけど、やっぱりテレビ越しで見ているのとでは全く違うわけで。
それによって説得力が増したとか、そういうことももちろんあるんだけど、もっともっと大きくて堅くて明確なメッセージになっています。

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『ヒミズ』

2012年1月14日(土)新宿バルト9、シネクイント他全国ロードショー

製作・配給:ギャガ
(C)2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ

※公式HPはコチラから


【プロフィール】白石隼也

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