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白石隼也の映画コラム
『クリスマスのその夜に』~白石隼也・映画コラム~
2011/12/01
イヴ、その日は昼過ぎくらいから母が料理を作り始め、普段の何倍も豪華な料理の数々が食卓に並び、僕の倍背の高い緑のツリーがきらきらと心地の良いリズムで家族を包み、甘い甘いシャンメリーで乾杯。
そして、翌る朝。目が覚めると枕元にはプレゼントが置いてあり、眠い目も擦らず一目散にプレゼントの袋をビリビリに破く。
今思うと僕にとってクリスマスは、そんなごく普通で最高に幸せな日だった。
今日、紹介するのは12月3日公開のノルウェー映画
『クリスマスのその夜に』
家から追い出された夫、仕事に追われる医師、イスラム教の恋人を持つ少年…
北欧・ノルウェーを舞台に複数のエビソードのそれぞれのクリスマスが描かれている本作(2003年公開の『ラブ・アクチュアリー』という映画をご覧になった方は想像しやすいだろうか)。監督は、『キッチン・ストーリー』のベント・ハーメル。
僕は日本人だ。
毎週、教会に通うわけでもなければ、家に仏壇すらないのに、僕は前述したようにクリスマスも祝うし、新年には初詣にも行く。
本来、クリスマスを祝うのはキリスト教の文化であるが、僕と同じようにキリスト教徒ではないのにクリスマスを祝う多くの日本人、いや世界中の人がいる。何故か。
それは「楽しそうだから」だと僕は思う。
そんな僕らですら今じゃクリスマスと言ったら一年を締めくくる一大イベントになっているのだから、生まれた時から教会に通っている彼らにとってのクリスマスとは一体どんなものだろう。
ここの登場人物は皆、悩みを抱えている。
大小はあるけれど、たぶん映画の中の人だけじゃなくて生きている全ての人に悩みはある。と思う。
僕もある。それはどうすることも出来ない。
あるもんはある。
でも、「その日」だけはそんなもん忘れて楽しみたい。
幸せになりたい。
と願って僕らは生きているんじゃないかと思う。
そういう日があるからこそ生きていけるんだと。
もちろん「その日」は、人それぞれ違う。誕生日や何ちゃら記念日、デートや飲み会やお茶会や何やら。
人それぞれ。しかし、ここの彼らにとってクリスマスという日は共通して「その日」なのであった。
トマスは嘘をついた。
イスラム教徒だからクリスマスは祝わないという彼女のために、「うちもそうだ。サンタも信じてない」と言ってしまったのだ。
そして、誘われるがままに彼女の家に立ち寄るトマス。
勤勉な医師、クヌートは今年のイヴも仕事に追われていた。
ようやく患者がいなくなり妻が待つ家に帰ったのだが、すぐに急患の連絡が入る。妻の反対を押し切って現場へ向かうクヌート。
いつの頃からか僕もイヴに家にいることが少なくなった。
友達や恋人と出かけたり、仕事が入っていたり、いつの間にかいつものクリスマスではなくなっていたのだ。
あれは中学生の頃だっただろうか。
面白い話でもなんでもないのだが、今でもハッキリと覚えていることがある。
その年のイヴ、僕はずっと家にいた。
それは、家族と一緒に豪華な食事を食べたかったわけではなくて、恋人とデートに行ったり友達とパーティーをしたり僕はしたかったのにそれが出来なかったからだ。
まぁ恋人はいなかったから仕方がないが、他の友達は皆でパーティーをしていたのに僕だけ呼ばれなかったのだ。
きっと僕の方から行きたいと言えばそれで済む話だったんだけど、意地っ張りだった僕はその一言を言うことが出来ずに家族とクリスマスを過ごした。
親は喜んだが僕は物凄く悲しかった。
きっとその頃からだろう。
僕がイヴに家にいることが減ったのは。
理由は単純明快。そっちのほうが楽しそうだったから。
家族でのパーティーと引き換えに彼女との時間を楽しむトマス。
コソボから逃げてきたセルビア人の夫とアルバニア人の妻の出産に立ち会うこととなったクヌート。
トマスとクヌートは結果的に家族が待つ家にいない選択をした。
トマスは「その日」だから家族でお祝いをするよりも彼女を選び、クヌートは「その日」でもいつも通り仕事を選んだ。
この二人の選択は大同小異のように感じるが、僕は同じことのように思う。
それはどちらも幸せになりたいという想いがきっとあるから。
トマスは単純に家族よりも彼女との時間に幸せを見出し、クヌートは苦しんでいる患者を見捨てては心から幸せにはなれないと思ったから行ったのではないだろうか。
そして、彼らはこのあと予想もしていなかった、熱湯ではない懐炉のような小さくも確かな温かさを感じそれぞれの家に帰っていく。
その時は、感じないが、あれは、ごく普通で最高に幸せな日だったんだなと、時が経って、繰り返し繰り返し感じるしかないのだと、思った。
さぁ、今年の「その日」は如何にして過ごそうかなぁ。
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『クリスマスのその夜に』
12月3日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか
全国順次公開!
配給:ロングライド
BulBul Film as ©2010 Pandora Filmproduktion GmbH
※公式HPはコチラから
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12月27日
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